秘密組織の話 - 1/2

 朝礼の時間、メンバーはまばらに並び、係の話を聞いていた。
 敵組織の活動は相変わらずの状況、今日も割り振った任務を各自こなすように。詳しくは配った紙に書いてある……別に、朝礼でメンバーを集めて言うほどのことではない内容である。おそらく、組織である以上は、形だけでもメンバーを集めて意識を一つにしておきたいという、上の考えだ。
「では、今日も一日よろしく」
「はい」
 形としてだけ、メンバーは声を揃えて返事をした。……レンは、声すら出さなかったが。
 リンとレンは、この組織の任務を二人一組でこなしている。他のメンバーは、簡単な任務は一人で、難しい任務は適宜、複数人を集めて行うが、リンとレンは常に二人だけで任務を行っている。とりわけこの二人が、他のメンバーと関わろうとしないから、である。
 リンは他のメンバーから協力がいらないかと言われても「いいの、私たち二人でやるから」と、決して他人を寄せ付けない。そして、レンは、一切言葉を発することがない。目深に被った帽子が前髪を押さえつけていて、その前髪に隠れて表情が読み取れない。お揃いの帽子を被っているリンは、レンとは対照的に表情は分かりやすいが、明るい顔で何もかもを退けてしまう。
 リンとレンは二人で配られた紙を見た。
「ふーん、今日は余裕そうだね」
 リンは得意気に言って笑う。レンは何の反応も見せない。リンはそれに何を言うでもなく、適当に紙を折り畳むと、服のポケットにそれを突っ込んだ。地味な作業着のような服には、ポケットがいくつもついていて、任務の書かれた紙は大抵そのどれかに入れられている。どこに入れるかは、そのときのリンの気分次第だ。
 任務の確認が終わると、リンとレンは揃って部屋を出ていった。
「相変わらず喋らねえなあ」
「うなずきもしないよな」
 まだ部屋に残っているメンバーの誰かがそう呟いていることに、リンもレンも気付きつつ、振り返らなかった。

 組織の基地から出てしばらくして、リンがため息をついた。
「全部聞こえてるって。ねえ?」
 リンはいらっとした顔をしながらレンに問いかけるが、レンは反応しない。
「……え? わざと言ってんの? はぁ? ……そう、ま、別に、レンが気にしてないならいいけど……わ、私が気にしすぎ? そ、そうかもしれないけどさ、だってひどくない? ……そ、そうだね、腹立ててるだけ無駄か、レンの言う通りだね」
 リンは、微動だにせず立っているレンの前で、表情をころころ変えながら喋り続けた。レンは一切表情を変えていないが、リンにはレンが何を言おうとしているか分かるのである。
「あっ、それより任務だよね。今日もまたモンスター退治。切りがないよ、まったく」
 リンがそう言いながら歩きだして、レンもそれにならって歩く。
 リンたちが受けている任務は、敵組織が法に反して生み出しているモンスターの退治である。本当は敵組織のメンバーを直接懲らしめられればいいのだが、あまりにもモンスターが多く生み出されているため、この地域の人たちに被害が出る前に、モンスターを倒し続けなければならない日々が続いている。リンたちに与えられるのは、当分の間、雑魚敵を倒す任務なのである。
 そうこうしていると、リンたちが歩く先にもやもやとした暗い影が現れた。……いつもの、モンスターだ。
「あー、はいはい雑魚」
 リンはめんどくさそうに言いながら、右手をそっと胸元に持っていく。
「あ、いいよレン、こんな敵レンが手を出すまでもないから」
 斜め後ろで立つレンの方は見ずに、リンはにやりとしながら言う。右手には光が灯り、その光を潰すように手が握られると、モンスターは電撃のようなものを受けて消えた。
「よっわ」
 リンは嘲笑うように言う。レンは、リンに背を向けて、背後側の様子を確認する。
「ん? まだ出てきそう? わかった。それならお願い」
 リンはレンの心を読み取る。「これからまだ何匹か出てくる」。リンは左手で背後のレンの手を探って握る。そして、リンは右手にまた光を灯した。
 レンが思って伝えた通り、いくつもの影が二人の回りに現れる。リンは灯した光を指先でつまむようにして、それから横に向かって線を描いた。光は二人の回りに円を作る。
「いくよ!」
 レンの手を握るリンの手に力が込められると同時に、光の円は放射状に広がり、回りの影を全て貫いた。現れたモンスターは全滅だ。
「やったね」
 リンは振り返ってレンの隣に立ち、レンに笑いかけた。レンはもちろん無反応だが、リンには分かっている。
 ……こんな感じで、二人は戦う。リンはレンと「共鳴」することで、自分一人で戦うよりも強い力を使うことができるのである。だから、いつも二人一組で動いている。
 安心した直後、レンはリンに握られていた手を握り返した。
「え、まだいる? わかった」
 リンはまた右手に光を灯し、レンが伝えてきた方へ意識を向けた。確かにそこにまた影が現れ、リンは電撃を与えた。
「びっくりした……」
 リンは少し息を吐く。そして、レンの心を読む。
「ありがとう? いや、お礼とか私たちの間ではいいでしょ」
 リンは笑いながら、まあ、そうなんだけどね、と、思った。
 ……二人の欠点は、二手に分かれて戦えないことだ。リンは一人でも戦えるが、レンは一人では力を使うことはできず、リンに力を貸すことしかできない。一応、二人で力を合わせているように振る舞ってはいるが、実際には力を発動させているのはリンであり、レンにはそれができない。ただ、二人で共鳴しているときの力がとても強いので、絶対に二人で行動している。
「任務に書いてあることはやったね。帰ろう」
 リンはそう言って、もと来た道を引き返し始めた。レンも、他にモンスターの気配がないことを確認して、リンの後ろを歩く。
 ……それを見ている誰かに、二人は気付かなかった。