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手紙の話

 リンとレンは、各々の様々な買い物を一気に済ませるために、ショッピングモールに来た。事前に行く店は決めておき、目的の物を買う。その後、せっかく来たのだから、ということで、一通りショッピングモールの中を歩いてみることにした。
「見たいとこあるの」
 本屋の前に来て、リンはそう言った。こっちこっち、と言われるがまま、レンはついていった。
「手紙?」
 そこはレターセットコーナーだった。便箋と封筒のセットがたくさん並んでいる。それを見て、リンが目を輝かせている。
「これかわいい!」
 リンは一つのセットを手に取った。便箋には、白詰草の花とクローバーが描かれている。確かに、リンの言う通り、かわいらしい。それは同意できるが、レンは首を傾げた。
「欲しいの?」
「うん! 手紙書きたい!」
「……書く相手いるの?」
「いないけど書きたい!」
「え……」
 単に、かわいらしいデザインに惹かれて見に来ただけなのかもしれないと思ったが、実際には手紙を書きたいらしい。
「便箋なんだから書いて使わなきゃ!」
「それはそうだけど、……書けるの?」
「どういう意味!」
 歌を歌って、声を使って過ごす自分たちには、字を書いて何かを伝えるということに、あまり縁がない。字はもちろん書けるのだけれど、めったに必要になることがない。字で書くより、自分の声で伝える方が早い。
「普段書かないし。字も下手じゃない?」
「下手とか関係ないし! こういうのは書いてある内容が大事なの!」
「その内容は思いついてるの?」
「うー……」
 リンはレンを睨みつけた。
「いちいちうるさいよぉ!」
「……ごめん」
 手に取ったレターセットに、リンは目線を戻す。
「買うんだよね」
 レンがなだめるように言うと、リンは不機嫌そうな顔でうなずいた。そして、一人でレジに向かって、そのレターセットを買った。

 家に帰ってから、リンはすぐに買ったレターセットを開けた。そして、中身を半分ずつに分けると、片方をレンに渡した。
「え?」
 まだ不機嫌さが残るリンの表情をうかがいながら、レンは首を傾げる。
「レンにもあげる」
「なんで」
「色々言ってきたし! 文句あるなら書いてみてよ!」
「なんでそうなるの! 書くことないよ!」
 レンの返しなどは聞かず、リンは自分の部屋に入ってしまった。
 レンは、大きくため息をついた。自分も部屋に入り、とりあえず渡されたレターセットは机に置く。
 レターセットを買った、ということは、リンは書く内容を思いついているのだろう。漠然と「手紙を書く」という行為をしてみたいだけなのかもしれないが。そんな意欲すらないレンは、どうしていいか分からないレターセットをそのままにして、昼寝をすることにした。

 十分な睡眠から目を覚ましたレンが机の上を見ると、そこには封筒が置かれていた。寝る前に置いたレターセットと、全く同じデザインの封筒だ。
 封筒の真ん中には「レンへ」と、たった三文字が書かれている。裏を見ると、一緒についていたらしいシールで封がしてある。特に糊付けはされていないようで、シールを剥がすと、すぐに中身を取り出すことができた。レンは、便箋に書かれた文を読んだ。

***

ほんとなら直接言うとこだけど、手紙に書くことないから書くね!
ほんっとレンって意地悪! 書きたいって言ってるんだから書かせてくれていいでしょ!
あーあ、もっとレンが優しかったら、ここに日頃の感謝とか書くところだったかもしれないのになー。なんにも思いつかないや。とりあえず埋まらないから書きなぐっちゃおーっと。
もっとロマンチックな手紙なら良かったのにね! 意地悪だからだよ!
今日は前から気になってたみかんゼリーも買えたし、そのときはほんとに最高! 今日って幸せ! って思ったんだよ。思ってたのにさあ。どういうこと?
レターセットも前から気になってたの。けど使わないかなぁって思って見てなかったの。けど、見るぐらい別にいいよね? なんて考えてたら、いや、やっぱり使いたいなって思って。レンなら別に手紙書く相手にしてもいいかなって思ったし。なのにさ、いざ書こうとしたらやる気なくなっちゃったよ。レンのせいだからね。
よーし、埋まった埋まった。終わり!

***

「日記かよ……」
 レンは思わず呟いた。便箋はかわいいデザインなのに、書いてある内容が破天荒だ。
 もし、今目の前にリンがいれば、思わず呟いた言葉に続けて、「もっと手紙らしくしたらどうだ」とか「手紙でぐらい落ち着けないのか」といったようなことを言うだろう。
 それに、内容についても、直接言われていたとしたら、すぐに言い返していたに違いない。――だが、今こうして、紙の上に書かれた文字を読んでいると、湧きかけていた気持ちは落ち着き、熱が冷めるような感覚になる。
 レンは、渡されたレターセットに目を向けた。
 返事、でもしてみようかな。そう思い、全く書く気のなかった手紙を書き始めた。

 ご飯の後、自分の部屋に戻ったリンは、机の上に封筒が置かれているのに気がついた。今日買ったレターセットの封筒だ。ということは、置いたのはレン以外に考えられない。
 そういえば、ご飯を食べ終わったレンは、「ちょっとやることがある」などと言って、そそくさと部屋に戻っていった。それからリンが部屋に戻るまでの間に、この手紙を置いていったということだ。
 こそこそと置くなんて嫌な感じだな、と思いながら、リンは封を開けて中身を読んだ。

***

手紙を書きたいって言っていたのに、色々言ってごめんなさい。
落ち着いて考えてたら、もっと色々書くことを思いついたかもしれないよね。
考えるより前に、いつも相手に言うから、こうやって考えながら書いてると、変な感じがする。たまには、こういうのも悪くないかもしれないと思ったよ。
けど、やっぱり何を書けばいいか分からないから、これで終わり。
今度はもっと落ち着いて書いてみてほしいな。

***

 リンは、なんとも言えないむずがゆさを感じた。もし、目の前にレンがいたとしたら、「何よえらそうに!」「かっこつけちゃって!」などと喚いたところなのだが、レンは目の前にはいない。便箋を持つ手が汗ばんできて、慌ててリンは机に便箋を放り投げた。
 レンが書いている通りに落ち着いて手紙を書くのは、なんだか癪だ。しかし、せっかく買ったレターセットはまだ残っている。今日見た中に、他にも使ってみたいレターセットもあったし……また手紙を書いてみようかな、と、リンは思った。

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