会話#003「食事」

#扇舞さん視点

「焼きそば♪ 焼きそば♪」
トリッカーくんがカップ焼きそばを持って机にやってきた。
向かいの席に座って、満足そうにふたを開ける。
「トリッカーくん……今日の昼ごはんはそれなんだ……」
「うん、おいしいよ? 扇舞くんはなんなの?」
「日の丸弁当だよ」
「あー、なんか扇舞くんらしいねぇ」
僕とトリッカーくんは同じ時期にここにやってきて以来、
よく一緒にご飯を食べたりするのだけど、
トリッカーくんは本当にいろいろなものを昼ごはんに選んでいる気がする。
前もカルボナーラを食べていたし、
その前は目玉焼きの乗ったハンバーグを食べていたし、
ある日は鍋焼きうどん、ある日は牛丼、ある日は中華丼……。
カップラーメンを食べてたこともあるし、
なんというか……たまに合ってないよ、って思うこともある。

「前から気になってたんだけど、トリッカーくんって夢以外も食べるんだよね」
「え? 当たり前じゃない?」
トリッカーくんは何で、って顔をして、また焼きそばを口に運んでいる。
「もちろん夢も食べないと生きていけないけど、世の中おいしいもの多いじゃん?
バナナは至高だけど。だからふつうに何でも食べるよ」
「……でも、夢は食べなきゃいけないのか」
「そうだね。毎日1回ぐらいは食べないと、ちょっと調子狂うかも」
そういえば、トリッカーくんの寝る時間はちょっとだけ他の人とずれているような気はする。
多分みんなの寝てる時間は起きているってことなんだろうけど。
「ってことは、毎日誰かの夢を食べてると?」
「うん、そうだね。扇舞くんの夢も食べたことあるよ」
「は!?」
「なんだったっけ。一昨日、扇舞くんは悪党退治の夢を見なかった?」
「あ、ああ……」
そういえば、ある家に張り込んで、そこに来た敵を、刀で一掃……みたいな夢だったかなぁ。
「かっこいい夢だったね」
「見られてるんだ……恥ずかしいな」
「大丈夫、普通は食べたとか言わないし、見た夢について本人に聞いたりとかしないから。今回は特別ね」
特別ね、と言われても、トリッカーくんには色々な弱みを握られるということじゃないだろうか……。
「……あれ、でも夢を食べられたら……僕は……」
あの歌の、通りだとしたら、それってまずくないか?
「モノクロの世界にようこそしちゃう」
トリッカーくんが満面の笑みで言う。
「!!!!!」
「冗談だよー。しないしない」
「え、もう、びっくりさせないでよ。でも実際夢食べたら僕はもうその夢を見ないとか、ほら、えっと……」

トリッカーくんは焼きそばを食べ終えたらしく、立ち上がった。
そして、まだ弁当を食べ終わっていない僕の横に立つと、
「秘密は多い方がいいって言うじゃん?」
と囁いた。背筋が凍る。

「……」
しばらく黙っていると、トリッカーくんは僕の向かいの席に座りなおした。
「……仕方ないなぁ。僕も信用を失いたくはないから言っとくけど、
夢を食べるだけなら僕は無害だから。君が夢を覚えてるのがその証拠だよ」
「あ、ああ、うん……」
言われてみれば、そうなのかもしれないけど。
「だから安心してていいからね! 無駄に言いふらしたりしないでよ!」
少しだけ慌てた顔で、トリッカーくんは言って、容器を捨てにまた立ち上がった。