※この話は(1)#005(2)#008(3)#012(4)#013(5)#014(6)#015のまとめです。
#藍鉄さん視点
#005
僕は正直人見知りな方で、
多分皆と初めて顔を合わせてかなりの時間が経った今も、
気軽に話ができているのはごくわずかだと思う。
一番気を許せているのはアシンメトリーさんで、
アシンメトリーさんはいつものほほんと接してくれるから、
僕もすぐ心を開いたような気がする。
それと、ブルームーンさん。
彼はかっこいいから、僕とは無縁な人だと思っていたのに、
なぜかあの人はよく話しかけてくれる。
……多分、アシンメトリーさんよりも話している時間は長いのかもしれない。
いまだに、自分から話しかけるときには戸惑ってしまうのだけれど、
近くに来ただけでブルームーンさんから話しかけてくれるから、
いつの間にか僕もすっかり慣れてしまったような気がする。
もちろん話しかけてくれる、という点で言えば、オリジナルさんもそうだけれど、
オリジナルさんはいつもバナナを配っているから喋るというだけで、
それ以外で話をするかというと、そうではない。
そういう僕が、今度、アペンドさんと共演することが決まったらしい。
アペンドさんとは同じ時期に来たはずなんだけど、
それ以来会ったことがない……のは、多分、僕が人見知りだからだと思う。
「いや、俺も喋ったことないけど」
ブルームーンさんが言う。
「僕もないな」
アシンメトリーさんも言う。
「共演、ってなると、……喋ること、あるよね……」
「ま、当然そうだね」
今からなぜか気分が沈んでいる。
どんな人か、よく知らないだけで、悪い人だという噂も聞いていないけど。
「藍鉄、困ったらいつでも俺のところに来るんだぞ。いいな」
ブルームーンさんが、僕の肩に手を置いて言ってきた。
「か、過保護……」
アシンメトリーさんが小さい声で言ったけど、
「全然過保護じゃないから、いや、この際過保護でもいい。俺は藍鉄の支えになりたい」
ブルームーンさんは……いつもの調子だ。
「あ、ありがとう。困ったら、そのときは」
と、僕が返すと、ブルームーンさんが突然顔の向きを変えた。
「……あれ、アペンドじゃん」
ブルームーンさんの視線の先には、確かに噂をしていたアペンドさんがいた。
アペンドさんは僕たち3人の方を見て、立っている。
そして、こっちに向かって歩いてきた。
ちょっとだけ、怒った表情というか、冷静な表情というか、
とりあえず、あまり柔らかい表情ではない。
そして、視線は、僕をとらえている。
ブルームーンさんが僕の斜め前に立った。
アペンドさんが僕たちの前で立ち止まって、少し目を閉じて、
それから、また僕の目を見た。
「君が、藍鉄?」
アペンドさんは静かな声で言った。
「……は、はい」
僕は答えた。アペンドさんは表情を変えずに、視線を外した。
「あと、アシンメトリーと、ブルームーン」
僕の横に立っているアシンメトリーさんと、ブルームーンさんも見て、名前を呼ぶ。
「はい」
「……ああ」
二人は答えたけど、アペンドさんはやっぱり表情を変えない。
「名前は間違えなかった。……それだけ」
アペンドさんはそう言うと、後ろを向いて、その場から去っていた。
アペンドさんがいなくなるまで、しばらく僕たちは黙っていた。
どうしよう、と思ったとき、前に立っていたブルームーンさんが、僕の方へ振り返った。
「……んなんだ、何なんだあいつ!!!!!」
「!!」
ブルームーンさんが大声で言って、僕とアシンメトリーさんは思わず後ずさりした。
「何あれ、まじ得体がしれないんだけど。ああ、焦った」
「今のブルームーンさんの声の方に僕は焦ったけど」
アシンメトリーさんが言うと、ああ、それはごめん、とブルームーンさんが頭を下げた。
「藍鉄、ほんと何かあったらいつでも俺のところに来ていいから」
「僕に相談してもいいからね」
二人がさぞ心配そうな顔で僕を見てくる。
……二人がいて、よかった……。