#アシンメトリーLさん視点
藍鉄くんが歩いてる。
……よし、後ろから驚かしちゃおう……!
「ひゃうううっ!!!」
僕が藍鉄くんの両肩に両手を置くと、
藍鉄くんが面白いぐらいにびびった声を出した。
「あっ、アシンメトリーさん……!」
「や、藍鉄くん」
「ちょ、ちょっとぉ、びっくりさせないでくださいー!!」
藍鉄くんが涙目になってる。
ちょっとやりすぎちゃったかなぁ?
「ごめんごめん……」
僕が背中を撫でると、藍鉄くんの上がっていた息がおさまった。
「ごめんね、びっくりさせたら耳と尻尾が出てこないかなって思ったの」
僕が言うと、藍鉄くんは少しびっくりした顔をして、それから、困ったように笑った。
「そんな簡単に出てきたりしませんよ」
「そっかぁ、残念」
やっぱり、そう簡単にはいかないかぁ。
藍鉄くんは、狐の耳と尻尾が生えた「妖狐」っていう姿になることができる。
その姿になると、服の色も変わって、目の色も変わるんだけど、
藍鉄くんは滅多にその姿になってくれない。
「最近尻尾が触りたくて仕方ないんだよね」
本当に、あの尻尾はもふもふしてて最高で、
僕にとっての癒しの一つなんだけど、……。
「それで、驚かしたりしたんですね」
「うん、だからさ、あの姿になってくれないかなぁ」
藍鉄くんがうつむく。
「……狐の僕、嫌じゃないですか?」
やっぱり、気にしてるんだなぁ。
「いいよ、慣れてるから。それよりもふもふしたい!」
僕の答えは決まっている。
うーん、と、やっぱり藍鉄くんは悩んでいる。
もうひと押し、しなきゃいけないかな。
「あのね、ブルームーンさんが「最近もふ分が足りない」とか言って、
僕のファーのところ触るようになっちゃってるからさ、たまには、ねっ?」
僕が藍鉄くんに言っていたら、ブルームーンさんがいつの間にか僕の後ろに来ていた。
「そうそう。早く尻尾もふりたい」
ブルームーンさんがそう言いながら、また僕のファーを触り始めた。
これでブルームーンさんのもふり欲求が満たされるならいいけど、
やっぱり本物にはかなわないよねぇ。
「うう……」
藍鉄くんが、僕とブルームーンさんの顔を見て、それから、諦めた表情になった。
「……わかりました。ちょっとだけ、ですからね」
藍鉄くんの姿が変わっていく。
「……なんで」
妖狐の姿になった藍鉄くんが、僕たちを睨んだ。
……その反応は、もう慣れてるよ。
「ありがとう! さっそく尻尾もふらせて!」
僕が藍鉄くんの左手を握ると、藍鉄くんは僕の手を振り払った。
「嫌です」
「そう言うなよ、今日まで俺は我慢してたんだからな」
今度はブルームーンさんが藍鉄くんの右手を握る。
「だから何なんですか」
同じように 、藍鉄くんが手を振り払う。
……それも、慣れてるよ?
「あなたたちの言うことなんか、聞きたくありませんから」
「うん知ってる! もふらせて!」
僕とブルームーンさんは一度目を合わせて、
それから、同時に藍鉄君を無理やり床に座らせた。
「ごめんね? 二人がかりで」
「何なんですか……」
藍鉄くんが、悔しそうな顔をした。
座らせてしまえばこっちのもので、
僕とブルームーンさんは藍鉄くんを挟んで、尻尾をもふもふし始めた。
藍鉄くんは始終不服そうな顔をしているけど、
ああ、尻尾……もふもふ……。
「よしよし、無理やり座らせて悪かったな」
ブルームーンさんは、妙に勝ち誇ったような顔をして、
それから、藍鉄くんの頭を撫で始めた。
「撫でないでくれますか」
藍鉄くんが不機嫌な声で言うけど、
ブルームーンさんは全く動揺せずに頭を撫で続ける。
「そうやって反発する割に、元に戻ろうとしないからな?」
「それは……」
藍鉄くんは言葉を詰まらせる。
「さて、もうそろそろ戻ってもいいよ」
思う存分もふもふできたので、藍鉄くんに言う。
「……やっとですか」
藍鉄くんは、ため息をついた。
藍鉄くんの姿が元に戻っていく。
さっきまで不機嫌そうにしていた藍鉄くんの顔が、急に泣きそうな顔になった。
「……ごめんなさいー!!」
……これも、慣れてる。
「うんうん、ありがとね」
僕が藍鉄くんに言うと、でも、でも、と藍鉄くんが涙ぐむ。
「僕、全然、あんなこと、思ってないですからっ」
涙ぐむ藍鉄くんの頭を、さっきと同じように、ブルームーンさんが撫でる。
「分かってる」
狐の姿のときの藍鉄くんは、多少怒りっぽくなるんだけど 、
元の藍鉄くんが考えてることと、つい逆のことを言ってしまうだけみたい。
だから、僕たちが戻っていいって言うまでは、元の姿に戻らないし、
元に戻ると謝ってくるのは、いつもの話。
「これでもふ分を満たせたかな」
ブルームーンさんが言う。
これでしばらくの間は、僕もファーを触られることはないかな。
「まあ、俺は普段の藍鉄とのギャップを楽しみたいのもあるけど?
藍鉄に罵られる幸せ……」
「あ、あの……」
藍鉄くんが困ってる。
……ブルームーンさん、こういうことを言わなければいいんだけどなぁ……。
せっかくかっこいいのが、ほんと台無し……。