会話#017「読書」

#扇舞さん視点

今日は三色だんごを買ってきた。
胡蝶を誘っておいたから、今日はこれを二人で分けて食べる。
「おはよう、胡蝶」
待ち合わせていたベンチに胡蝶が座って待っていた。
胡蝶の座っている姿は本当に可愛い人形のようだ。
「……おはよ」
胡蝶が僕に言った。
滅多に喋らない胡蝶も、僕にはこうやって話してくれるんだ。

僕だけに。
ああ、可愛い!

「扇舞……何考えてた?」
胡蝶が僕の目を見つめてきた。
「え?」
「扇舞、目が」
「……目が?」
「気持ち悪い」
「!!!」
な、なんでだろう。僕はただ、胡蝶が可愛いなって見つめてただけなのに、
どうして気持ち悪いだなんて……。
まあ、胡蝶の言葉なら僕はなんでも喜んで受け止めるけどね。

気を取り直して、僕は買ってきた三色だんごを取り出した。
「胡蝶、約束してただんご」
少しだけ胡蝶が嬉しそうな顔になった。
「分けて食べようね」
「うん」

僕たちがだんごを食べ始めると、
執行部くんが歩いてきた。
そして、近くのベンチに座った。

執行部くんは持っていた袋から何か本を取り出すと、
それを開いて読み始めた。
こんなところでまで本を読もうとするなんて、ほんと勤勉なんだろうなぁ。

……と思って、本の表紙を見たら、
「かんたん! ケーキの作り方」と書いてあった。
色んなケーキの写真が並んでいる。

「ケーキ……?」
僕がつぶやくと、胡蝶がぴくっとした。
「ほら、あれ。見てよ」
胡蝶に教えると、胡蝶はびっくりした目をして、しばらくその表紙を見ていた。
「……おいしそう、だね」
胡蝶が言った。
「……うん、そうだ、けど、さ」
胡蝶は、甘いものには目がないからそう言うと思ったけど、
それはもう僕はしっかり予想していたけど、
「そうじゃなくてさ、何で執行部くんがあれを読んでるかだよ」
さっきの勤勉っていうのは撤回しよう。
なんなんだよ。
何で執行部くんが、真剣な顔をしてお菓子の本なんかを読んでいるんだ。

僕たちがしばらく執行部くんの様子を眺めていると、
今度はスタエナくんたち二人がやってきた。
「よー! 執行部くん何してんのー??」
二人が執行部くんを挟んで座った。そして、本を覗き込んだ。
「うわ! 君たちなんだよ、走りに行ってたんじゃないのか!」
執行部くんが慌てて本をおろした。
「今日はちがうよー? でー? お菓子の本なんか読んじゃってどうしたのー?」
両側から肘をつかれて、さぞ迷惑そうな感じだ。
「こ、これは、……トラッドさんが、好きそうな本だなって思って」
執行部くんがものすごく顔を赤くして、言った。

「なにそれー!!!」
「うけるー!!!」
スタエナくんたちが横で大爆笑し始めた。
「うるさい! 静かにしろよっ!!」
執行部くんが立ち上がった。

……僕も、正直、笑いをこらえるのに必死だ。
執行部くんがあんな顔を赤くするの初めて見た。面白すぎる。

「えーでも執行部くん、トラッドさんと話したことあるの?」
「ないよねないよね? それでお菓子の本読んで気を紛らわそうと? うけるまじうけるー!!」
完全にあの二人にからかわれてる。
「だからうるさいって! 話せるわけないじゃん!
僕はこれでお菓子の勉強して、トラッドさんのことを考えられればもうそれでいいんだ!
うわー!!!」
執行部くんは本を袋に入れて、その場から走り去ってしまった。

「片思いのままでいいっていうのもすごいよねー」
「ある意味幸せそうだよねー」
充分執行部くんをからかえて楽しんだらしいスタエナくんたちも、そこから去って行った。

僕と胡蝶は、一つだんごを口に入れた。
食べ終わってから、お互いを見た。
「執行部くん、トラッドさんに片思いしてたんだ」
僕が言うと、胡蝶がうなずいた。
しかし、思いも伝えられないとは、面白いやつだな、ほんとに。
僕たちみたいに、仲良くだんごを食べることもできないのか。
「僕とは大違いだね。
胡蝶、僕はいつだって胡蝶が好きって言えるから」
僕が言うと、胡蝶が少し座る位置をずらした。
「……扇舞、平気で、そう言うのは、やめたほうが、いい」
「……!」
ああ、胡蝶、ひかないで……!

(終)

#扇舞さんは胡蝶さんに平気で好きって言いまくるタイプだそうです