会話#018「太陽」

#トリッカーさん視点

「バボさん」
執行部くんがバボさんを呼び止めて、鞄から何かを取り出した。
「クッキー焼いたんだ」
バボさんが目を丸くしている。

おいしそうだな。

「食べよ?」
執行部くんが言うと、バボさんがちょっと戸惑ったような目になった。
執行部くんは、近くの椅子にバボさんを手招きした。
バボさんはそれに従って、ちょこんと椅子に座った。

「ほら、マスクしてちゃ食べられないでしょ? 外して」
執行部くんが言うと、バボさんは小さくうなずいて、マスクを外した。

執行部くんはクッキーの入った袋を一つバボさんに渡した。
そして、自分もクッキーの入った袋を開けた。

うわぁ、バボさんがあんな簡単にマスクを外してるところなんか初めて見た。
僕がバボさんに「マスク外さないのか」って聞いたときは、
首をぶんぶん横に振って、走って行ってしまったのに。

二人はもくもくとクッキーを食べ始めた。
うーん、クッキー、おいしそうだなぁ……。

近くを、スターマインくんとレシーバーくんが通りかかった。
「おい! バボさまがマスク外してるぞ!」
「ええっ! バボさまが!」
二人はひそひそと話始めた。
まあ、驚くよね、そこは。

「おいしい?」
執行部くんが聞くと、バボさんはクッキーをもぐもぐしながらうなずいた。

「何だあれ、執行部くんがバボさまにクッキーをあげたのか?」
「執行部くんがバボさまを手懐けてるってこと?」
「ええっ! それってどういう主従関係……」
「バボさまを手懐けるとか……こわ……!」
スターマインくんとレシーバーくんは、ひそひそ喋りながら去って行った。
この人たちの妄想は何とかならないのかなと思うけど……。

それより、僕もクッキー食べたいなぁ……。
いいなぁ……。

「おいしかったなら、よかった。
作りすぎちゃったから、もう一袋あげるね」
一袋食べ終わって、マスクをつけたバボさんに、執行部くんは一袋クッキーを持たせた。
「じゃあねー」
バボさんはぺこっと頭を下げて、それから走って行った。

「執行部くん」
僕はそれを見届けた後に、執行部くんに声をかけた。
「? トリッカーくん」
執行部くんはちょっと驚いた顔をした。
「さっきのクッキー……」
「!! 見てたの!」
執行部くんが慌ててクッキーの入った鞄を握った。
「自分で焼いたんだって?」
「……うん、そうだけど? 悪い?」
「いや、悪くないけど。クッキーも焼けるんだねぇ、すごいや」
執行部くん、かなり慌ててる。
別に恥ずかしがる必要はないと思うけど。
「僕にもちょうだい?」
僕は執行部くんに手を出した。
「……なんだ、欲しかったのならいいや。あげる」
ちょうど余ってたし、と執行部くんは一袋、僕の手にクッキーを乗せた。
「ありがと」
へへ、もらっちゃった。おいしそう。

「どうせ、トラッドさんに渡せないからいいよ」
執行部くんは言った。……なるほどね。
「……そうなんだ?」
「だって! わけわかんないだろ! いきなりクッキー焼いたからあげるとかそんな!!」
「そうかなぁ、僕ならもらったら嬉しいけど」
「トリッカーくんは食べるの好きだからそういうこと言うんだよ。もう」
執行部くんが鞄を開けてこっちに突き出してきた。大量にクッキーの入った袋が入っている。
こんなに焼いたんだ……すっごいな。
「ああ、もういいよ。好きなだけ持って行って」

ほんとに!? ……って言おうと思ったけど、
……さすがに、それは……ね?

「お言葉に甘えて」
僕は2袋そこから取った。
「意外と取らなかったね」
執行部くんが不思議そうな顔をしてきた。
「ま、せっかくこんなにおいしそうだし、他の人にも配ったらいいよ。それじゃ」
僕はそう言って執行部くんから離れた。

……っていうか、バボさんにああやって話しかけて渡せるなら、
それをトラッドさんにやればいいのにね。

(終)

#本命はなかなか難しそうということで