#胡蝶さん視点
「ちょっと、気になってたんですけど」
私はトラッドさんに言った。
おっ? って顔をして、横にいるメランコリーさんとトランスミッターさんが私の顔を覗き込んできた。
「胡蝶ちゃんが喋った!」
「なんだろう!」
「え、あ、あの」
私が話すのが珍しいのかな……。
そんな風にされると、恥ずかしくて次が言えないんだけど……。
「なあに?」
トラッドさんが私の顔を見て言った。……うう。
「トラッドさんは、あの、執行部くんのことって、どう思ってるんですか?」
メランコリーさんとトランスミッターさんは、
わくわくした顔のまま、一瞬言葉を失った。
……ああ、やっぱり言わなきゃよかったのかなぁ……!
と思っていたら、二人はばっとトラッドさんの方へ向きを変えて、
今度はトラッドさんの顔を覗き込んだ。
「気になる!」
「それすっごい気になる! どうなの?」
トラッドさんは二人に顔を近づけられて、ちょっと困った顔になった。
「……あの、二人とも落ち着いてね?」
「えーだって!」
「気になるじゃん!」
二人が急かすので、トラッドさんは一度息を吸った。
「執行部くんのことは好きだよ。両想い」
「え?」
私もメランコリーさんもトランスミッターさんも、みんな同じ反応をした。
私たちは皆、「執行部くんがトラッドさんに熱烈な片思いをしている」ということは知っているのだけど、
……ちょっと、話が、違うような……。
「告白もされたし、私もうんって答えたから」
「え?」
そんな話、初めて、聞いた……、けど……?
「それいつの話?」
「えー、大分前だったけど」
大分前? それから執行部くん、ずっと片思いのまま、
「話しかけるなんて無理!!」 って言い続けてるはずなんだけど……。
「だって全然トラッドさんと執行部くん話してないじゃん! どういうこと?」
「それは、執行部くんは私に話しかけてくれないし、私も話しかけられないし」
「え?」
それ、両想い……って……いうのかな……?
っていうか、執行部くん、多分、トラッドさんが「うん」って答えたなんて知らないと思うんだけど……。
「私はこういう距離感でお付き合いをしようってつもりなんだと思って、
それを受け入れてるつもりだし、私は付き合ってるつもりなんだよ」
「……」
私たちは言葉を失っていた。
……分かんないよ……どういうことか……。
「あ、私、そろそろ帰るね」
トラッドさんは立ち上がって、手を振ってから行ってしまった。
「執行部くんに、あらためて、言った方が……」
私はつぶやいた。
「……いや、これは、黙ってた方が面白いかもよ?」
「そうだね。黙ってようか」
なぜかメランコリーさんとトランスミッターさんは変な笑みを浮かべた。
それも、愛の形、なの?
(終)
#トラッドさん自身は付き合ってるつもりでいるらしい