会話#020「製菓」

#生徒会執行部さん視点

前大量に作ってしまったクッキーは、意外と好評だった。
今度バナナ風味のクッキーにしたら、それこそ皆喜んで食べてくれるかなぁ……。
僕はそんなことを考えていた。

調理室をまた借りて、今度はカップケーキに挑戦することにした。
失敗したときのことを考えて、材料も多めに用意した。

オーブンに入れて、待つ時間になってから、
僕はふと考えた。

つい無心で粉をかきまぜたりしていたけど、
……何でこんなことしてたんだっけ?

でも、確実に僕は楽しんでいたような、気がする。
楽しければそれでいいけど、
……本当なら、トラッドさんと一緒に……

いやいやいや! それは! ない! よな!

なんて思っていたら、ケーキが焼けていた。
さ、はやく次のを入れないと!

……とかやっていたら、やっぱり大量のケーキができてしまった。
また、誰かに食べてもらおう。
自分じゃ食べきれない。

ケーキの焼ける匂いにつられたのか、調理室にトリッカーくんが入ってきた。
「今日はケーキ焼いてるんだー」
「……うん、ほら、食べたいなら取って」
僕がそういうと、トリッカーくんは目を輝かせた。
……ほんと食べ物好きだなぁ、この人は……。

「大丈夫だよー、ちゃんと誰かに渡す分は取っておくから」
トリッカーくんがケーキを食べながら言ってきた。
「そんなに食べる気だったの!?」
「だっておいしいからねー」
本当においしそうに食べるから、
なんか見ててこっちも幸せだけど……。

トリッカーくんが満足して調理室から出て行った。
まだ、ケーキは残ってる。
まあ、誰かにまた配りに行こう。
そう思って僕が袋にケーキを入れようとすると、
調理室の外にいる人と目が合った。

胡蝶さんだ。

「あ、僕、もうそろそろ出ていくから、いいよ、使って」
胡蝶さんが何か作りに来たのかと思って、僕が言うと、
胡蝶さんは首を振って、部屋に入ってきた。
そして、僕に近づいてくると、片付けようとしているケーキを見つめた。

「ど、……どうしたの?」
僕が胡蝶さんに言うと、
「……おいしそう」
胡蝶さんが小さな声で言った。

「え? あ、あの、これは」
「執行部くんが、……作った」
「!! い、いや、ち、ちが……あ、いや、そう、そうだけど」
さすがにちょっと焦ってしまった。
あまり僕、女の子と話したことないんだよなぁ……。

胡蝶さんがじっとケーキを見つめている。
「……も、もしかして、だけど、……食べたい……とか?」
僕が言うと、胡蝶さんがうなずいた。
「ま、まずいかもしれないよ!」
確かにトリッカーくんはおいしいと言ってくれたけど、
トリッカーくんは何でも食べるから、おいしいとか言われてもあんまり信用できない。
女の子は、味にうるさそうな気がするし……。
「そりゃ、あの、毒は入れてないけど、さ、えっと」
「……いただきます」
胡蝶さんがケーキを手に取った。

そして胡蝶さんがケーキを食べ始めた。

僕は言葉を失ったまま、胡蝶さんがケーキを食べているのを見ていた。
そして、胡蝶さんはケーキを食べ終わった。

「おいしいよ」
胡蝶さんが僕の方を見て、言った。
「……ほんとに?」
僕が言うと、胡蝶さんはうなずいた。

「ごちそうさま。ありがとう」
胡蝶さんはそう言い残すと、僕に背を向けた。
「……こちらこそ」
僕が呟くように言うと、
胡蝶さんが振り向いた。

「また……食べたい」

僕があっけにとられているうちに、
胡蝶さんはいなくなってしまった。

(終)

#こうしてお菓子のファンが増えたということで