#025
「物を、消す能力?」
仮に、僕に物を消す能力があるのだとしたら、
確かに僕は、目玉焼きをその能力で消し続けたと……。
「……まさか。そんな訳」
僕が言うと、トリッカーくんはホットプレートを指さした。
「じゃあ、5回も目玉焼きを消失させたこの事実はなんて説明するの?」
何だか探偵のように。
「そんなこと言われたって、僕はそんな能力、身に覚えがない」
実際、ない。
僕は知らない。
というか、今までこんな不思議な経験すらない。
……気がする。
「ほんとに?」
「ほんとに」
僕が真剣な顔で答えると、トリッカーくんは溜息をついた。
「えー。てっきりイレイザーくんは、
陰で「この世に不必要なものは……消す」とか言って暗躍してるとかだと思ったのにー!
つまんないー! つまんないったらつまんないー!」
トリッカーくんはさっきまでの真剣な空気をぶち壊すように言った。
台詞のところだけは妙にきめてたけど。
「トリッカーくん……さすがに夢の見すぎだ」
「夢を見るのは僕の特権だからいいんだよ! あーでもつまんない!」
さすがにつまんないを連呼されるのは辛くなってきた……。
「もういいんだよ、僕が目玉焼きを焼くのが下手だってことで」
僕が言うと、トリッカーくんは少し何かを考えた。
「KAITOさん達のいるところに行こう」
「……急にどうしたの?」
「ほら、女性より男性が料理に対して不器用かもしれないじゃん。
そしたら、イレイザーくんみたいに目玉焼きを焼いてるうちになくしちゃう人もいるかもしれないし」
僕がその理屈を理解し始める前に、
トリッカーくんは僕の手を引っ張って、部屋を抜け出した。
僕たちは、KAITOさん達のいる部屋を覗いた。
僕たちのいる部屋と同じで、机の上にホットプレートが置かれている。
「……なにあれ」
「!」
よく見ると、ホットプレートの上に、目玉焼きがいくつも積み重なっている。
そして、ホットプレートの前には誰もいない……。
僕たちがそれをちゃんと確認しようと、部屋の入口に顔を近づけると、
「だっ、誰だ!!」
突然声がして、僕たちは二人で頭を押さえた。
「……な、何しに、きたんだ」
頭上から、少し震えた声で聞かれる。
「うう、ごめんなさい……」
と言ってから、見上げると、そこにオリジネイターさんがいた。
「なんだよ、イレイザーか……あと、トリッカー?」
ちょっと安心した顔になって、オリジネイターさんが言う。
「は、はい、えっと、……」
「なんだ、別に遊びに来てくれたならそう言えばいいんだよ。
そんなびくびくしなくても」
「え?」
オリジネイターさんが予想外のことを言ってきて、僕はきょとんとした。
「え、違ったのか?」
「あ! いや! そーなんです! そーなんですよー、えへへー」
トリッカーくんは勘違いを利用しようとしたのか、急に態度を変えた。
……まあ、そういうことにしておけばいいか……。
「それより、さ、あれ見てくれよ」
オリジネイターさんがさっきのホットプレートを指さした。
「あそこ! 何もしてないのに目玉焼きがさっきから落ちてくるんだよ!
さっきやっとおさまったから安心してたんだけど……。
急に落ちてくるからこわくて!
これじゃあ夜眠れないよ!」
怖いよね! と力説されて、僕たちはしばらく言葉を失っていた。
……そして、気付いた。
僕の焼いた、目玉焼きは……。