#オリジナルさん視点
僕がバナナを配りに行くと、皆嬉しそうな顔をしてくれる。
けど、ただ一人、嬉しそうにしない奴がいる。
「今日もこの時間がやってきたよー!
毎日恒例! 甘くておいし――」
僕の宣伝文句を遮って、僕の手からバナナを奪い取る、こいつ。
「無駄な言葉はいい」
「無駄じゃないよ! 僕はバナナの素晴らしさを語ろうと!」
「語る必要性なんかあんのかよ」
アペンド。こいつ。ほんとノリが最悪。
他の人だったらまだ「おいしいですよね~」とか、同調してくれるもんなのに。
「大体な、最近いつもいつも、
バナナ渡す時にお前はもったいぶって喋りやがって。
いいんだよそういうの」
アペンドがいらいらした顔で奪い取ったバナナを見ながら言う。
「えー、別にもったいぶってないけどー?」
僕が言うと、アペンドがバナナを置いて、僕へ一歩近づいた。
「その声」
アペンドが僕を睨みつけて、言った。
「いかにも猫かぶったみたいな。気持ち悪い」
……猫かぶり、ねぇ。
「単純にお前、俺に対して嫌がらせがしたいだけじゃねえの?」
アペンドが付け加えた。
……ふーん、そういうこと、言うか。
「……君こそ、最近僕に対して反発が過ぎてんじゃないの?」
僕は言い返した。
「反発の原因は全部お前だろうが」
アペンドは動じずに言い返してくる。
「いいのかな? さっきからそんな口利いて。
君ってさ、他の人にはおとなしくしてるのにね?」
「お前こそ、本当は口が悪いのを無理やり隠したりして」
「君ほど口は悪くないんだけど」
「とぼけるな。俺は知って――」
アペンドが言いかけて、慌てて口を抑えた。
僕も、言い合いの途中でアペンドに近づいていたけど、慌てて離れた。
足音がする。
「あの……」
足音の正体はアシンメトリーくんだった。
「どうしたの?」
僕はアシンメトリーくんの方を見て、……思い出した。
アシンメトリーくんに、バナナ、渡してない。
「うわあああ! ごめんね! バナナ! 今日のバナナ!」
僕は慌ててバナナをアシンメトリーくんに渡した。
「あ、ありがとうございます!」
「もらってなかったんだな。わざわざ取りに来てくれてありがとう」
アペンドが、アシンメトリーくんに言うと、いいんです、と首を横にふった。
「あの、何か大事な話してました……?
お邪魔しちゃってたとしたら、申し訳ないんですけど」
アシンメトリーくんは言いながら、僕とアペンドの顔を見比べた。
「あ、あのね、ちょっとバナナについて話し込んじゃっててねー!
ねー、アペンド!」
「そ、そうそう。俺もつい、引き止めちゃったっていうか。
まだ配り終わってないとは思ってなくてさ、あはは」
僕たちがそう言うと、アシンメトリーくんは少しほっとした顔をした。
「すみません、バナナの催促にきちゃったみたいで。じゃあ!」
「……」
「……」
足音がしなくなるまで、しばらく黙っていて、
それから、アペンドが僕をまた睨みつけた。
「配り忘れるとか最悪だな」
「なんだよ。引き止めたとか言って。実際引き止められたようなもんなんだけど」
「お前をフォローしてやっただけだ。もしお前を責めたら、アシンメトリーくん困るだろ」
「ふーん? わざとそうやって嘘をついてくれたんだ、それはどーも」
「全然感謝が感じられないな」
「誰が君なんかに」
僕たちは一度睨み合って、それからそっぽを向いた。
#基本的に仲は悪い方です。が、そういう口調でしゃべれる唯一の相手だというのもあります。
#……仲の悪い原因についてはもうちょっと別の話があるのかもしれない、ないのかもしれない。