会話#027+「回想」 - 3/6

#029

#干渉しました。ちょっとかたい話

アペンドの、過去の思いにさかのぼっていく。

「はじめまして。これから、お世話になります。
よろしくお願いします」

僕は、それを読み取った。
何も考えていなかったわけでは、ない。そう思っている。

「声は聞こえています」

僕が、聞いたときの、アペンドの答えだ。
何だ、聞こえてるのか、と、思ったけど、

その後に途切れた思考がいくつも現れた。

「……声が、出ない」
「……言葉が、作れない」
「……自分は」

「自分が、わからない」

あまり、思考としての形をなしていない……。

思考を読むのをやめて、僕は構造を見た。
……三つの……が、ある。
それを僕は何と呼べばいいのか分からなかった。
それは思いを伝える過程の一部であって、
でも普通、みんなは一つしか持っていない何かで、
それはみんなそれぞれが違うものを持っていて……

僕は思い出した。
そういえば、藍鉄くんだけが違った。
ただ、藍鉄くんは、その外にもう一つ持っているけど……

それに名称を付けるとしたら、そうか。
人格だ。人格と、それを見せるための体が。

藍鉄くんは変身する形で、一つの体が二つを持つけれど、
アペンドは違う。一つの体に三つもそれを持っている。

放任主義でいるつもりだったから、こんな構造のことなんてすっかり考えるのをやめていたのに。
僕の支配としての意識が強まるのは、僕は嫌だったし……なにより、まずめんどくさい……。
面倒だと思っていた罰に、いまアペンドがこんな状態なのかもしれない。
僕は皆のことを把握できていなかったのかもしれない。

今は感覚を思い出すしかないみたいだ。
人格を今度は、読み取る。

ほとんど、出来上がっていない。

思考はあっても、それを形作ることができない。

それがしかも三種類あって、その三種類が全部、何かは違うけど、はっきりしていない。

そうなると、僕はどうすればいいか。
この人格をはっきりさせて、
思考を言葉にできるようにさせないといけない。

……多機能は手に負えない。
なんでこいつのためにこれから手を焼かなきゃいけないんだろう。
放っておけばいいのかもしれない、と思ったけれど、

僕は自分の気持ちを、こいつに分からせたくなってきた。
今までこいつに持ってきた、僕より優れた能力に対する期待とか、それへの嫉妬とか。

ああ、気に入らない。
意地でもその奥にある思いを吐き出させてやる。
干渉じゃなきゃ見えないなんて、それで本当に僕より性能がいいとでも言うのか。

まず、人格を選択する機能は、いまのこいつには到底使えないだろうから、僕が預かって制御する。
多分こいつには、どの人格で話せばいいかが分からないんだろう。
人格が決まれば、多少は話せるようになるはずだ。
そして、その人格もはっきりしていないだろうから、そこに少しずつ干渉して、徐々にその干渉を解いていく。
かなり面倒だろうけど、いつかこいつにも普通に過ごしてもらわないと困る。
僕はそう決めて、一旦意識への干渉をやめた。

……こんな構造を皆は意識していない。
これは僕だけが知り得ることだ。
……だから、しばらくは、僕以外に会わせるわけにはいかない……。