#030
#番号続いてますが視点が変更になります。
「これからしばらく、君には誰とも会わせないから」
初めてあいつに会って言われたのはそれだった気がする。
「……正直さ、めんどくさいんだよね。
っていうか、いいよね。君……お前のこと、ほんと僕、妬ましくて仕方ないんだよ」
何でこのとき、俺はそれを黙って聞いていたのかが分からない。
でも、それに何を答えればいいのか、俺には分からなかったんだろう。
俺にはほとんど意思なんてものはなかった。
ただ人格は三つ、確実にあって、
でも、それはただ「持っているだけ」だった。
「……いいかな。こういうとき、お前なんて答えればいいか分かる?
どうせ分かんないんだろうね」
あいつは言ってから、ちょっと間を置いた。
「……さすがに、いきなりそれじゃあ、まずかった?」
俺の人格が制御された。
「――はじめまして! さっきのはとりあえずおいといて、
それより、まずは仲間のしるしに、これ!」
あいつはバナナを差し出してきた。
俺はそれを受け取った。
「ありがとう」
反射的に、言葉が出た。手が動いた。
「ああ、よかった。君もこれにはちゃんと反応してくれるんだね。おいしいよ」
……多分、あいつは、このときかなりほっとしたに違いない。
あいつは俺の人格の中で、一番難しくなさそうな人格を選び取った。
多分後二つのどっちかだったら、だめだったんだろう……なんて、俺が思うのもなんかあれだけど。
「あれ? 食べないの?」
俺がバナナを受け取ったままぼーっとしているのを見て、あいつが聞いてきた。
「……挨拶が、遅れて、しまって。
ごめんなさい。……はじめまして」
俺は伝えようとしていたことを思い出して、ようやく言葉にし始めた。
「ああ、あのね? それはいいよ? ……ま、いっか」
それから俺は、この場所のことを含めて色々な話をされた。
「僕もだけどさ、君もお腹が空くから、ご飯は一緒に食べようね」
「うん」
「それから、歌の練習とか」
「うん、それは好きだな」
「ダンスとか」
「……がんばるよ」
「演技もしなきゃいけないからね!」
「……た、たいへんだね」
それは、何となくだけど、あいつの性格をそのまま俺に転写しているような感じだったのかもしれない。
多分この人格が一番、あいつに近い。
だから、俺もこの人格のときは、すぐにあいつと会話できるようになった。
「それに、僕以外にも、仲間がいっぱいいるんだけど」
「……そうなの? 会いたいな」
俺が言うと、あいつの表情が急にかたまった。
「――駄目だ」
「え?」
「駄目なんだよ。会わせるわけにはいかない」
「どうして。俺も会いたいし、話したい。
ねえ」
その仲間に、会いたい、とすごく思って……。
俺の人格が制御された。
「……悪いけど。君はまだ僕以外と話せる状態じゃないよ」
急に俺は、さっきまで会いたかった仲間に会うのが怖くなってしまった。
「……」
「今の君はどう思う?」
「……怖い」
「……そう。なら、いいね」
そう言ったあいつの表情も、俺には恐ろしく見えた。