会話#034「再会」

#「共演」と「回想」を読んだ後の方がいいかも

#藍鉄さん視点

僕も、まさかここに来ることになるとは思わなかった。
ブルームーンさんと、アシンメトリーさんには、
「俺も行く!」
「元気でやるんだよ!」
なんて、熱いお見送りをされちゃって……。
どうせなら一緒に来たかったなって思うけど、
……別に、ここだけが僕たちの居場所じゃないし、
僕たちはお別れしたわけでも、ない。
ただ、これから中心で過ごす場所は確かにここで、
そういう意味では、あれが「さようなら」だったんだ。

……きっと、いずれは僕だけじゃなく皆がここに来るのだと、
少し期待はしているけど。

ここは昔に、オリジナルさんとアペンドさんが行くと言っていた場所だ。
アペンドさんはなぜか僕だけに、先にそのことを教えてくれた。
「何で言っちゃったの?」
オリジナルさんはちょっと怒ったように、アペンドさんに言ってたな。
「それは、藍鉄くんは、恩人だから」
「……恩人、ねえ」
アペンドさんは当然でしょ、って顔で答えてて、
それを聞いたオリジナルさんは、ちらっと僕の顔を見て、
……仕方ないか、なんて顔をしてた気がする。

無事、着きましたよ。

僕は挨拶をしに行かなきゃな、と思った。
ちょっと緊張するけど、僕はアペンドさんの部屋の前まで行った。
……かなり、久しぶりだから、何を話せばいいか、分からないけど。
戸を叩くと、少しだけ時間をおいて、中から足音が聞こえてきた。
更に緊張してきたけど、僕はこぶしを握って、戸が開くのを待った。

「はい」
戸が開いて、見覚えのある顔が見えた。

「お久しぶりです」
僕は言って、頭を下げた。
そして、頭を上げた。
アペンドさんが、少し驚いた顔をして、僕の顔を見ている。

「……えっと、だれ……だっけ」

アペンドさんが、困った顔で、言った。
僕は少し、どきっとした。ちょっと、喉に何かがつかえるような感じがした。
でもすぐに、考え直した。

やっぱり、久しぶりすぎたんだ。
だってここには、僕もまだ会ったことのない新しい仲間がいっぱいいて、
その人たちと随分喋っているはずだし、僕なんか忘れちゃったかもしれない。

「……すみません、初めまして。藍鉄といいます」

僕は言い直した。
最後の言葉が、少し震えてしまった。
……喉が、痛い……な、何だか、目も、熱くなってきたような……。

大体、ここにいるアペンドさんが、あのときのアペンドさんと一緒である保証も、
よく考えたら、ないかもしれない。
僕は覚えてるのに……。

「……泣きそうになるところも、変わらないな」

アペンドさんが僕の顔に手をのばしてきて、言った。

「え?」
「……ごめん、からかった」

アペンドさんが笑った。

「久しぶりだね、藍鉄くん」
「……ひ、ひ、ひどいですー!!!!」

僕は床に座り込んだ。
からかわれたなんて! そんなの……!
緊張が解けた気分になったと同時に、流れそうだった涙が流れてしまった。

「ごめん、ごめんって。
ちょっとやってみたかったんだよ、こういうの……」
アペンドさんがしゃがみ込んで、僕の肩をさすった。
「何でやってみたくなるんですかっ! いじわる!」
僕はちょっと息苦しくなりながら言った。
「そうだね、いじわるだった、悪かったよ……」

僕がそこでずっとアペンドさんに体をさすられていると、後ろに気配がした。
僕が顔を上げると、アペンドさんが焦った表情になって、その気配の正体らしきものを見上げていた。

「何してるの?」
「……いや、何も」

僕が振り返ると、そこにオリジナルさんが立っていた。

「あー! 藍鉄くん! お久しぶり!
無事に着いたんだね、ようこそー!
ちょうどこれから皆の歓迎会やろうと思ってたんだよ。
ほらこれ! バナナ!」

オリジナルさんがバナナの入ったかごを持ち上げながら、自慢げに言った。
変わってないなぁ、オリジナルさんのこの明るさと勢い……。

「さ、行こう行こう。藍鉄くん。
……あー、アペンドもね」
「はいはい」
アペンドさんが立ち上がった。僕も立って、
オリジナルさんの後ろについていった。


#その後のおまけ
#もしかして「回想」を読んでた方がいいかもしれない

#オリジナルさん視点

歓迎会という名のバナナパーティーを終えて、
皆がそれぞれの部屋に戻ったのを確認してから、
僕とアペンドは、二人で片づけをすることにした。

執行部くんとかが「片付けなら僕がやります!」 なんて言ってきたけれど、
「今日はいいんだよ、今日は僕たちがやる」って言い聞かせるのは、ほんと苦労したなぁ。
結局ほとんどは綺麗にまとめられてしまって、
僕たちの仕事はほとんど残らなかったんだけど。

「アペンドさあ、藍鉄くんからかったの? 最低だね」
まあ、このことをちょっとアペンドに聞いておこうと思って。
さすがにみんなの前で言うのはかわいそうだからね。
「……お前、見てたのかよ。盗み見かよ」
「盗み見って言い方はないでしょ。
たまたま見ちゃっただけだからね。僕悪くないからね」
アペンドがものすごく不満そうな顔をしている。
「っていうか、藍鉄くん泣いちゃってたじゃん。かわいそうに」
「……ちょっとからかいたくなっちゃっただけだし」
「なんなのお前」
こいつがまさか、そんないたずら心を持ってたとは思わなかったけど。

「お前こそ、怖がられてるんだぞ」
さすがに自分のことばかり責められるのは嫌になってきたのか、
アペンドが言い返してきた。
「え? まさか。僕は誰にでも優しいよ。
君みたいにからかったりしないしー? 泣かせたりもしないしー?」
「誰にでも優しい? 俺にはきつくあたるくせにな」
「君がそういう態度だからだよ?」
「そうかよ」

アペンドはいらいらした顔になって、
僕がさっきまで口を結んでいたごみ袋を、僕から奪い取った。
「俺が運んでおく」って言いたいらしい。
僕の手は空っぽになったけど、アペンドはもう僕と話したくない様子で、
ごみ袋を持ってさっさと歩いて行ってしまった。

アペンドの人格が安定してずいぶん経ったけど、
こいつ、根が優しいから、たまに反発させて怒らせないと、ずるずる優しくなるんだよな。
こうしないと、3人の君を維持させられないから……ね。