#スクールジャージさん視点
休憩時間になって、僕はベンチに座った。
あー。だるかったー。
足を広げて座ると、行儀が悪いだとか言われそうだけど、
ほんと疲れたんだもん。誰もいないし、いいよね。
なぜか今回は眼鏡を外せとか言われたけど、やっぱりしてないと落ち着かないなぁ。
僕がそうやってベンチでだらだらしていると、遠くから何か音がした。
体を起こしてみると、白い服の人が、颯爽と駆け抜けて……?
あまりに速く通り過ぎたので、僕は最初何が起きていたのかわからなかった。
ローラースケートを履いて、その辺を走り抜けている。
ああ、あれ、イレイザーくん、だっけ。
何かあの服って、アイドルっぽいよなぁって思ってたけど、
ローラースケートで滑ってるのを見ると、
ますますダンスパフォーマンスが上手なアイドルっぽく見える。
ああ、あの、なんだっけ、なんとかっていうアイドルグループ……あれみたい。
僕がしばらくその様子を見つめていると、
イレイザーくんは僕に気付いたらしく、こっちに向かってきた。
「それ、ローラースケート、だっけ? 上手だね」
僕が言うと、イレイザーくんは少し照れくさそうな顔になった。
「まだ自分じゃ、上手だとは思わないけど……好きなんだ」
「へー。休憩時間なのに動いててびっくりしちゃったよ」
「た、ただの趣味、だから」
趣味でやってたのか。ローラースケートって難しそうな気がするけど、すごいなあ。
「なんか、滑ってるイレイザーくん見てて思ったんだけどさ、
あの、あれ……何だっけ、まるで、あれ……」
必死で思い出そうとする僕を、イレイザーくんが不思議そうな顔で見てくる。
「ああ! 思い出した!」
あれだ!
「まるであれ、ひ――」
「スクジャくん!!」
僕が言いかけた途端、突然後ろから誰かに口を塞がれた。
え、なに? なに?
僕がびっくりしていると、イレイザーくんが僕の口を塞いでいる人の方へ目をやった。
「なんだ、ホワイトエッジ、急に」
僕の口をふさいでいるのはエッジくんだった。
エッジくんは僕の顔の横に自分の顔を近づけると、こっそりと耳元で言った。
「スクジャくん、その続き、絶対言うなよ」
僕の口を塞ぐ手の中で、え? と声を出そうとしたけど、
エッジくんは妙に緊張した顔をしている。
「……? だから、どうしたんだよ」
イレイザーくんが言うと、エッジくんはひきつったような顔になりながら、
「あ、あはは、あれだ、あれだよ、紫式部……が、えっと」
僕の口からそっと手を離しながら、そう言った。
「紫、式部? ……、……光、……」
イレイザーくんは最初意味の分からないような顔をしていたけど、
光、と言って、突然何かを悟った顔になって、エッジくんを睨みつけた。
それからが瞬間的すぎて僕はしばらくぽかーんとしていたけど、
イレイザーくんは突然エッジくんの顔を殴っていた。
「いってぇ!!」
殴られたエッジくんが顔を押さえて、地面を片足で蹴った。
「……すまない、つい殴ってしまった」
「……な、何で……?」
エッジくんを殴った拳をぼんやりと見つめているイレイザーくんを、
僕は意味も分からずにしばらく見ていた。
「イレイザーは、アイドル系の言葉を聞くと人を殴る癖があるんだよ。
だから、止めようと、思ったのに、……いて」
エッジくんが顔をさすりながら僕に言った。
「悪気はないんだ、体が勝手に……」
イレイザーくんは若干申し訳ないような顔で、僕とエッジくんを見ながらつぶやいた。
「本人も何で殴ろうとしちゃうかは分かんないらしいけど、
とりあえずさっきみたいなこと言うと殴られるかもしれないから」
「は、はぁ……」
な、なんだろう、アイドルのあれみたい、って言われるのがいやだってことなのかな……?
本人も自覚ないっていうのがよく分かんないんだけど……。
「だから気を付けてあげてね!」
エッジくんが笑顔で僕に言ったけど、顔が赤く腫れてて、すごく痛々しい……。
「っていうかさー、イレイザーもなんで紫式部なんかに反応す――いってぇ!!!」
エッジくんがそう言いかけると、またなぜかイレイザーくんはエッジくんを殴った。
……気を、つけよう……いたそう……。
#少量のおまけ
「――っていうことがあったんだけどオリジナルさん知ってた?」
「うん、知ってる知ってる。
僕も最初会った時に「うわぁ! イレイザーくんってアイドルみたいだね!」
って言ったら突然殴られたよー。怖いねー。
今はエッジくんが大体殴られるの引き受けてくれてるから、
他に影響及ばないかなって思って放っておいてるんだけど。スクジャくんも命拾いしたね」
「……」