会話#040「祭り」

#生徒会執行部さん視点

「花火だー! どーん!」
「どーん!」
「どーん!」
この夏の祭りという時期にぴったりな名前のスターマインくんと、浴衣くん、
それと浴衣くんとは何となく和服っぽいつながりなのか、鶴くんが一緒になって、
花火を心待ちにして盛り上がっている。

今日は夏祭りで、皆ちょっとテンションが高いというか、
……ちょっと、浮かれ気味なんじゃないかな?

「祭りだからって羽目を外さない方がいいですよ?」
僕は飛び跳ねているスターマインくんの近くで言った。
こうやって言ったら何となく、執行部っぽくないかな?
「だって! 花火だよ! 花火!」
スターマインくんはあまり僕の言葉を聞く気がないみたいだけど。

「何真面目ぶっちゃってんの?」
やれやれ、と、僕がスターマインくんたちの近くで、はしゃぐ様子を眺めていると、
扇舞くんがやってきて僕に言った。
「まさかここにきて執行部っぷりを発揮とか? うわー真面目ー空気よめよー」
「……なんなの扇舞くん」
初めて会った頃、扇舞くん、こんなだっただろうか……。
どうも僕に対してだけ、妙に変な絡みをしてくるっていうか……。

「執行部くんはトラッドさんを誘えなかったから、その憂さ晴らしのために真面目ぶってるんですよね?
僕知ってますよ。ふふっ」
「……げ、トリッカーくん」
トリッカーくんも扇舞くんの後ろから現れて、僕に言った。
トリッカーくんについては、いつもこんな調子な気がするけど、
敢えて丁寧語を入れてくるあたり、からかわれている感じが半端ない……!
っていうか、トラッドさんを誘えなかったことなんか、扇舞くんの前で言わなくていいのに!

「へー。誘えなかったんだー?」
ほら、扇舞くんのやつ、さぞ面白そうな顔で僕を見て。
「うるさいな! もう! トラッドさんは他の女の子たちと一緒の方が楽しいだろうし!」
「ここで言い訳かー。本当は寂しいくせに」
ほんとばかにしたような顔で……この人は……。

「あっ! 僕は! 胡蝶といちゃついてくるんで!」
扇舞くんは胡蝶さんが立っているのを見つけると、見せつけるように言って、胡蝶さんの方へ走って行った。
「さ、胡蝶! 行こう!」
「扇舞、うるさい……」
胡蝶さん、これ、ひいてるだろ……。

いつの間にかスターマインくんたちはいなくなっていた。
多分、花火のよく見える所へ移動したんだろう。
扇舞くんと胡蝶さんが夜店の方へ行くのを、僕は眺めていた。
……そんな僕を、トリッカーくんが見ていた。

「トリッカーくんは誰かと一緒に夜店回る約束はしなかったの?」
「もういっぱい回っちゃったよ。お腹いっぱい。幸せー」
「……ひとりで?」
「たぶん僕の食べるスピードに皆ひいちゃうかなって思ってさー」
……確かに、よく食べるトリッカーくんには、僕もついていける気はしない。

「夜は一人の方が好きだからね」
「……そうなの?」
「まあね。
今日は賑やかすぎて嫌だな。僕のごちそうも遅くなりそうだ」
「……ごちそう……」
まだ食べる気かよ、って思って、違うことに気が付いた。
毎晩、トリッカーくんは、誰かの夢を……。

「あ、あの? 執行部くん?」
「トリッカーくんって毎晩夢食べてるの……?」
「そんなびびった顔しないでよ! 食べてるよ!
前に執行部くんの夢も食べたよ! 激甘だったよ!
トラッドさんとのラブラブデートの夢! 超甘かった!」
「ちょ! 何で食べちゃってんの! 余計びびるでしょ!」
いつの間にか見られてるっていうか……! 食べられてるっていうか……!
っていうか……その夢食べられたせいで、僕はいつまでたっても……!

「食べたけど君に害はないはずだよ? だから食べたって正直に言ったのに……。
そんな目で見なくてもいいじゃん……」
「現に僕がトラッドさんを誘えてないじゃないか……」
「それは執行部くんがいつまでたっても勇気を出さないからでしょ……僕は悪くない……」

僕たちがその後、何も言わないまま黙っていると、
花火が一発、上がった。大きな音にびびって、慌てて僕たちは空を見上げた。

「始まっちゃったよー!」
何人かの人が、僕たちのいるところに向かって走ってきた。
僕たちの居るところは、空いているけど、割と花火が見えやすい位置だったみたいだ。

そして、走ってきた人たちの中に、僕はトラッドさんを見つけて、思わず動けなくなってしまった。
「ねえっ、もうちょっとそっち寄って! ここじゃ見えないよー」
トラッドさんと一緒にいた、メランコリーさんとトランスミッターさんが、トラッドさんを押してきた。
「そんなに騒がないでよ、もう始まっちゃってるんだから、ね、見ようよ」
トラッドさんが言うと、二人は静かになって、空を見上げた。

……そ、それより……どういう流れか分からないけど、
僕の隣に、トラッドさんがいる……。
トラッドさんの言うとおり、花火を見ないと、損だから、
僕はトラッドさんの顔も見ることができないまま、緊張して空を見ていた。
連続で打ちあがる花火の音のせいもあって、僕は何も考えられなかった。

「きれいだったねー!」
花火が終わると、トラッドさんたちは僕たちの居るところから少しだけ離れた。
「あ、っていうか、執行部くんとトリッカーくんだったんだ! こんばんはー」
メランコリーさんが、今更僕たちの顔を見て言った。
「こんばんはー! 花火、きれいだったねー」
トリッカーくんはにこにこして手を振っている。
……僕は、まだ緊張したままで、こくん、とうなずいただけだった。
「私まだカステラ食べたいなー」
「まだ買ってなかったね。いこっかー!」
三人はそう話しながら、僕たちのところから離れて行った。
そんな中のトラッドさんの背中を見つめていたら、トラッドさんがふと立ち止まって、僕の方へ振り返った。
そして、また向きを戻して、二人を追いかけていった。

……ちょっと、笑ってた?

僕がぼーっとしていると、トリッカーくんが僕の顔を見て、なぜかにやにやし始めた。
「よかったじゃん」
「ぐ、偶然だよ! たまたまこの辺に人がいなかったから……!」
「素直に喜べばいいのにさー。ほら、まだ夜店も当分やってるんだから、
執行部くんも真面目ぶってないで楽しもうよ?」
「……そ、そう、だね」