#扇舞さん視点
最近執行部くんがお菓子を作っているのを見かけては、
胡蝶がそっちへ行ってしまうんだ。
それに、あんなに喋らない胡蝶が、
自分から動くなんてしない胡蝶が、
執行部くんには話すようになって。
大体執行部くんだって片思いしてるくせに、
女の子と話すなんて無理とか言いながら、最近は
「次の日曜日にまたケーキを焼くんだけど、食べにくる?」
なんて胡蝶に話しかけたりなんかして、……
と、当然、胡蝶はお菓子を目当てにしてる。
僕と胡蝶の仲は誰にだって引き裂けない。
胡蝶は甘いものが大好きなだけだ。
でも、僕にだって嫉妬心はある。
「……で? 僕に何が言いたいわけ?」
僕が一通り、執行部くんに思いの丈を打ち明けると、
執行部くんは迷惑そうな目で僕の顔を見た。
「恋敵宣言なの?」
「ぼ、僕の完全勝利でしょ!!」
「そもそも勝負じゃないし」
「それは、そうだけど……」
執行部くんは結局本命のトラッドさんに話しかけられないままなんだから、
それに比べれば僕は勝ってるとは思うけど、土俵は違うといえば、そうだ。
でも、それでも気に入らないものは気に入らないじゃないか。
「お菓子作ってたらトリッカーくんとか胡蝶さんが自然と嗅ぎ付けてくるんだもん。
僕は知らないよ」
「トリッカーくんは分かるよ。食いしん坊だから。
でも、何で胡蝶まで寄せるんだよ」
トリッカーくんと胡蝶を一緒にしないでほしい。
そりゃもちろん、二人とも食べるのは好きそうだけど、
違う、違うんだよ。
「……悔しいなら、扇舞くんもお菓子を作ってみれば?」
執行部くんはちょっと間を開けて、言った。
「そんな君みたいな趣味はないよ」
「団子とかどう? 僕もまだ焼菓子しか作ったことないし。
どうせなら一緒に作らない?」
なぜか急に、迷惑そうな顔から、妙に意欲的な顔に変わった気がする。
「な、なんだよ急に仲間意識なんて……」
こっちは嫉妬してる、って言ってるのに。
「胡蝶さんだって、君の手作りならびっくりしてくれるんじゃないの?
僕が作るより喜ぶと思うよ」
……言えては、いるけど……。
何で僕までお菓子を作らなきゃなんないのか……。
しばらく、考えた。
自分の作ったお菓子を、胡蝶に渡すのを想像して……。
可愛いだろうなあ……。
「……しょーがないな、執行部くんが団子作りたいって言うから手伝う、って名目ならいいよ。
団子のおいしさは僕の方が分かってるだろうしね!」
「何なの、その強がり」
執行部くんには呆れた顔をされたけど、
……胡蝶の笑顔のためなら、こういうのもありだよね。