会話#069+「製菓-2」 - 1/2

※この話は(1)#069(2)#070のまとめです。※#020「製菓」の続きです


#069

#胡蝶さん視点

またもらっちゃった……執行部くんの作ったカップケーキ。
ちょっと大きめで、まだ焼きたてのぬくもりが手に伝わってくる。
最近は私が食べに来ることを見越して、私の分を確保してくれて……優しいなあ。
それに、もちろん味にも保証があって、安心して食べられる。

私がもらったカップケーキを両手で持って歩いていると、
向かい側からトラッドさんが歩いてきた。
「あっ。胡蝶ちゃんだ。どうしたのそれ?」
「こ、これは、あの……」
トラッドさんは執行部くんが好きだけど……でも、隠すことでも、ないよね。
「執行部くんに……もらって……」
「えっ? そうなの? ……これって執行部くんの手作り……?」
トラッドさんが驚いた顔で、カップケーキを見つめている。
私は黙ってうなずいた。
「あっ、引き止めてごめんね、これから食べるんだよね?」
私もちょうどお茶をいれて飲もうとしていたから、と言って、
トラッドさんと私はテーブルに向かった。

「いいなあ。執行部くんの手作りのお菓子が食べられるなんて」
トラッドさんは優しい笑顔で言った。
「わっ、私、トラッドさんをさしおいてこんなっ……」
私は持っていたカップケーキを机に置いて、自分から遠い場所に置いた。
「えっ、いいんだよ? それは胡蝶ちゃんがもらったものでしょ?
私なんて勇気がなくてもらえないよ」
「で、でも……。
これ、ちょっと大きいし、分けて食べれば……」
トラッドさんの前で、一人でこのカップケーキを食べるなんて、失礼な気がして、
私がそう言うと、トラッドさんは慌てた顔になった。
「だっ! だめなの!
私も執行部くんぐらい上手に作れるようになるまではだめなの!」
「……え?」
「私もお菓子作りは好きなの。
でも、まだまだ経験が足りない気がして……。
もし、うまく作れるようになったら、……その、
執行部くんと、作ったお菓子を……交換したいな……な、なんて……」
トラッドさんが、顔を真っ赤にして、言った。
いつもは落ち着いているトラッドさんにしては、何だか珍しい気がする。

「だ、だからね! 執行部くんと時間が被らないように私もお菓子を作る練習をするの!
……あ、だから、そのとき、胡蝶ちゃんも味見……してくれる?」
「た、食べさせてくれる……の……?」
「もちろんだよ! 執行部くんのお菓子には及ばないかもしれないけど……」
トラッドさんの手作りのお菓子まで食べられるなんて、楽しみ……。
私とトラッドさんは約束して、それから一緒にお茶を飲んだ。