※この話は(1)#098(2)#099(3)#100のまとめです。
#095
#鶴さん視点
夕焼けが綺麗なので、僕と藍鉄くんと扇舞くんで、しばらく空を眺めていた。
「そろそろ寒くなりそうだね」
「そうですね」
「……? もう寒くなる?」
扇舞くんだけ、ちょっと不思議そうな顔をした。
「だって、こんなにきれいな夕焼けだと、そろそろそうなる感じがしない?」
「そうなの?」
「去年はそうだった気がするよ」
「僕も今までの経験では、そうでした」
「へえ……風邪ひかないようにしなきゃ。もう冬かぁ」
そろそろ、冬が来る。冬といえばこたつ、みかん、雪遊び……いろいろあるけど、
そういえば、冬がこれば、藍鉄くんの味噌汁の具も変わる気がする。
もしかしたら、豚汁もあるかもしれない。
「冬っていいよね……」
「……」
「今から藍鉄くんの作る豚汁が楽しみだよー」
「はぁ」
「!?」
僕が豚汁、と言った途端、藍鉄くんが溜息をついた。僕と扇舞くんは、藍鉄くんの顔を慌てて見た。
藍鉄くんの表情は暗かった。
「ご、ごめん! もしかして僕が豚汁をねだったのが悪かった?」
「と、豚汁って作るの大変そうだし、その大変さを今から思ったら……!」
僕と扇舞くんで慌てていると、藍鉄くんははっとした表情になった。
「ち、ちがいます! ごめんなさい!」
そして、藍鉄くんは僕と扇舞くんにぺこぺこ頭を下げてきた。
「あっ、ごめん、ごめん、僕こそごめんっていうか!」
「お、落ち着いて藍鉄くん! でも、冬はもしかして嫌なの……?」
扇舞くんに聞かれて、藍鉄くんは、申し訳なさそうにうなずいた。
「あ、あの。別に豚汁を作るのはいいんです。僕も豚汁は好きです」
藍鉄くんがそう言って、僕はちょっとほっとしたけど、 冬の何が嫌なんだろう……。
「何か、冬に嫌なことでもあるの?」
「……ちょっと、恥ずかしい話なんですけど。ブルームーンさん、が、冬は……」
「え、、冬になるとなんかあるの?」
ブルームーンさんといえば、藍鉄くんと一番仲が良いらしいはずの先輩だけれど、
どうも藍鉄くん自身の話だとそうは見えないような気もする。
実際、話しているのはよく見るから、仲が悪い訳じゃないと思うけど。
僕達後輩からは、かっこいい先輩として一目置かれている。
「あの、僕が妖狐の姿にもなれるのを、お話したことありますよね?」
「一応、僕たちは二人とも一緒に聞いたよね」
「うん。それが何かあるの?」
「僕はあまり、あの姿にはなりたくないと思っているんですけど、
こう、狐の耳と、尻尾、つくじゃないですか。とくに尻尾が……その、
ブルームーンさん、触るの好きで。もふもふ……したい、とかで」
「……もふもふ」
「……もふもふ」
僕と扇舞くんは、その尻尾と、それを触っているブルームーンさんを、しばらく想像していた。
「こう、冬になると、もふもふしたいって言う回数が増えるんです……。
寒いから余計なんでしょうか……。僕は嫌なんですけど……」
正直、想像しにくい……。まず、ブルームーンさんともふもふって単語が、結びつきにくいというか。
「だから、できれば、冬にブルームーンさんには会いたくないんです」
「そ、そこまで!?」
「かわいそう!」
「うっ、僕も問題がなければ、思う存分もふってもらっていいんですけど、でも、色々、だめなんです!」
藍鉄くんが涙目になりながら言って、いろいろ事情はあるんだろうけど、
僕達はとりあえず背中をなでてあげた。
「冬になると、暖を求めてなのか、もふ分が足りないとか言って、
もこもこした服の人に近づいて行って、もこもこしたところをずっと触ってたこともありますから」
「うわあ……。ぼ、僕はもこもこしたところないから、大丈夫だな」
「ぼ、僕も大丈夫そう」
「いや、もしかしたら扇舞くんは外套にもぐりこまれるかもしれないよ」
「それは困る!!」
やっぱり、もふもふしているところが相変わらず想像できないけれど、
藍鉄くんも苦労しているんだなぁ、って思った。