#生徒会執行部さん視点
世の中のお店は1か月も前から、オレンジや黒を基調にした飾りをそこらじゅうにぶら下げているし、
店員が黒マントをひらひらさせて歩いているし、当日でなくても盛り上がっているのはどうなんだろうと思うけど、
それでも、その日のためにお菓子の材料を買い込んでしまっている僕みたいなのもいて、
結局僕だって浮かれているとは思う……でも。
「お菓子作ってるの? ちょーだい!」
まだ、ハロウィンは先だ。
調理室に材料を置きに来ると、そこでお菓子を作っていたトラッドさんが、トリッカーくんにお菓子を催促されていた。
「うん、出来上がるまで待っててね」
「待つ! 待ってる! 楽しみ~!」
トラッドさんは困惑した表情一つ見せずに言って、優しすぎる。まるで天使みたいだ。
それに比べて、欲望を抑えきれずににこにこして椅子に座っている、あの黒い服の奴は全く……。
別に悪意はないと思うんだけど、ただ欲望が勝っているだけだと思うんだけど、
ちょっとは遠慮というのを覚えた方がいいんじゃないだろうか。
一度お菓子を交換したとはいえ、相変わらず僕はトラッドさんと話す勇気がでないので、
僕はそっと材料を棚にしまってから帰ろうとした。
「執行部くん、今日はお菓子作らないのー?」
トリッカーくんが聞いてきた。
「とりあえず今日は作らないよ」
「えっ、でも、あの日は当然作るよね? そのための材料でしょ?」
よく分かってるというか、完全に狙っているとしか思えなくて呆れる。
「……トリッカーくんは万年トリックオアトリートだよね」
僕が言うと、お菓子を作っていたトラッドさんが、くすっと笑った。
「えっ僕そんなキャラ?」
トリッカーくんはちょっと驚いた様子だったけど、僕とトラッドさんはうなずいた。
「ていうか、名前の時点でいたずらしかしなさそうだし。お菓子もらってもいたずらしそう」
「むうう……いたずらもゆずれないし、お菓子も欲しいもん」
「最悪じゃないか!」
「でもお菓子はくれるんでしょ?」
「……そりゃね。だからほんと、いたずらは勘弁してよ」
僕達のそんなやりとりを、トラッドさんが優しい顔で見つめていた。
ちょっと目が合ったけど、結局話を振るなんてことはできない。
でも、前は調理室にトラッドさんがいたら引き返していたし、随分ましになったはずなんだ。
「当日は期待してるよー。お菓子がおいしかったら、いたずらは加減してあげるからね」
「いたずらすることは変わらないんだ……」
「あ、トラッドさんも作るよね? くれたらちゃーんと加減してあげるよ」
「おい、トラッドさんにまでいたずらしようとするなよ」
全く、お菓子作りの作業の最中なのに話しかけて。しかもいたずらするなんて。
ちょっとトラッドさんも困った顔をしてるじゃないか。
「ん? いざとなったら執行部くんがいたずらを阻止してくれるよ」
トリッカーくんが笑って、僕の方を見た。
「な……!」
僕がびっくりしていると、トラッドさんもびっくりした顔になっていた。
「あ、あまりそうやって困らせるのはやめた方が! いいぞ!
ほら! もう! 困ってるじゃないかっ!」
僕はトラッドさんをちらちら見ながらトリッカーくんに言うと、
トリッカーくんは僕とトラッドさんを見て、笑った。
「二人とも気が合うなあ。はいはい、もうからかうのはやめるからさぁ。
当日二人のお菓子がもらえるのは確定みたいだし、今から楽しみだよ」
一応、いたずらよりはお菓子の方を楽しみにしてるようで、多少は安心した。
「あ、今作ってるお菓子ができるのも楽しみにしてるよ!」
トリッカーくんがトラッドさんの方に向き直って、椅子に座った状態で上半身を揺らし始めた。
落ち着きがないというか、ほんと、万年トリックオアトリートなんだから……。