#アペンドさん視点
何故俺は三重人格になってしまったのだろうか。
おかげでオリジナルには厄介だと嫌われる始末だ。
自分を嫌う人に、「俺は仲良くなりたいのに」と思うことはあるけど、オリジナルに関してはそうは思わない。
あいつに関しては「俺だって嫌いだし」と思う。
何というか、俺とオリジナルは、ちょっと特殊なのだ。
「皆の代表」という立場で、俺とオリジナルには「統率の役割」がある。
俺達もそれ以外の皆も、衣装という役割が独立した存在で、それをモジュールと呼んでいることについては差がない。
そして、俺達以外は、ある曲の象徴という役割を持っていたり、「お出かけ用の服」のようなコンセプトを持っていたりして、その衣装に見合うような(見合わないこともあるけど)性格と技能を持ち合わせて独立している。
逆に俺達には特別な曲の象徴の役割もなければ、コンセプトもなく、強いて言えば歌うソフトという意味を持つのだろうが、何にしても「派生元」の役割であることは間違いない。
……なんていうことを今更考えてみたが、普段そんなことは気にしていないし、オリジナルはもうちょっと漠然とした説明をしてきて、
「とりあえず中心に僕がいる。アペンドも派生だけど似たようなものだから中心。他は僕の可能性を分裂させたもの。僕はいろんな可能性を知りたい」
とか、言っていた。
さて、とりあえず俺達以外のことは棚に上げて、
おそらく歌うソフトという意味合いを持つ俺とオリジナルは、当然ながら歌うということに関しての技能が強そうなものだ。
実際、この世界では、既に俺とは違う俺が歌っている曲(たまに俺でもないことがある)が降ってきて、それを俺が演じるようなことの方が多いとしても、一応は歌える。
そうすると俺は3種類の声を持つことになるらしい。……だから、三重人格なのだ。
冒頭の疑問の答えはつまり、俺が意味するソフトがそうだからそうだとしか言えない。
それでなぜか嫌われるのは納得がいかないのだが、その嫌ってるやつ自身についても考えてほしい。
あいつ、Act1とAct2があるはずだ。
服のデザインに大きな違いは見られないから、モジュールが別々になることはないだろう。
それならあいつは「どっちか」であるか、「どっちも」であるかの、どっちかであるはずなのだが。
……俺は何となく「どっちも」である気がしていた。
実はあいつは二重人格だったんだ。ただ、俺の3種ほどの違いがないから、人格としての差がなかったんだ。
……だが、その予想は違ったことが分かった。
ある日、いつも泳ぎに行っていないはずの水着モジュールが、俺達の前に現れたのである。
「元気でやってる~?」
南国に行っていたのか、何だかうざいノリで、水着がオリジナルに話しかけたのを、俺は目撃した。
オリジナルもうざいと思ったのか、いらっとした顔で水着を見た。
「また随分と長い間留守にしてくれたね」
「あっはは~、その間ちゃんと仕事してくれた?」
「ほんっと! もう! 君がさぼるから僕が一人で全部引き受けなきゃいけないんだよっ」
オリジナルはかなり怒っているのに、水着の方は全然気にしていない様子だ。
「もう隠居の身としては、南国で楽しく暮らしたいんだよねー」
「それでこの服を脱ぎ捨てて別人の振りとか。たまには代わってよ」
「やだよー。今のその服を見たら普通Act2だと思うでしょ」
「どっちでも変わんないよAct1」
……ちょっと、どういうことか分からなかった。
なんだかあのノリの軽い水着、妙に重要なポジションだった感じの話をしているじゃないか。
更に、今、Act1とAct2という単語まで出た。
どういうことか説明してもらう。
俺はオリジナルたちのところに歩いて行った。
「あーアペンドだー」
うざい水着の方が、俺を見て能天気な声を出した。
「何こいつ」
俺が言うと、オリジナルがやれやれ、といった顔をした。
「そういえば言ってなかったっけ……っていうか、こうして喋るの初めてか。
こいつね、Act1なんだよ。そういえば僕がAct2ってことも言ってなかったっけ」
「……お、おう?」
俺がアペンドとして、3種類の声だから三重人格だということは、当然自分のことだから自然と理解していたし、オリジナルにも同様のことがあるというのも予想できたから、実際どうなのかということを考えていたわけだが。
とりあえず、別々にいるということがここで分かった。
「このAct1は、普段からさぼってどっか行ってるの。本当は同じオリジナルなのに、服脱いで水着モジュの振りしてるの」
「……」
Act1ってことは、つまり大元の大元なはずなのだが、それがこのうざいノリなのか。
俺が水着を軽蔑した目で見ると、水着は「何でそんな目で」みたいな顔をした。
「普通さあ、Act1が皆をまとめる役割だと思わない?」
オリジナルが言って、俺も同意すると、
「だって主流はAct2だから、オリジナルの服着て役割果たすのはAct2の仕事でしょー。僕は隠居」
全然意見を変えない。
「ま、こうしてたまに抜き打ちで、ちゃんとやってるか見に来てあげるからさ!」
「何で偉そうなんだよ! 一緒に働け!」
「僕が一番上なんだから偉くていいでしょ、アペンドもいるし頑張ってよー」
俺は呆れたせいか、何も言えないままその会話を聞いていた。
「もう、別に今まででもうまくやってきたけどさ」
オリジナルもあきらめがついているようで、俺たちは、水着がまたどこかへ遊びに行くのを黙って見送ってしまった。