ぽつーん……。
毎回新しいところに来る度、これだ。
大きな部屋と、僕が一人。
将来的にはここにたくさん部屋を作って、「皆」を迎えるつもりだけど、
この、初めの、何もない空間を見るたび、
また一から始めなきゃいけないんだ、っていう今後の大変さを想像して……思わずため息が出てしまった。
「さっきネギ箱が届いたのー」
「やったー」
ミク姉のところには結構集まったみたいで、皆で段ボールの中のネギを分けあってる。
KAITO兄さんのところでもアイスクリームメーカーでアイスクリームを作っていた。多分あれも届いたんだろうな。
……僕だって皆さえ集まったら、絶対にバナナパーティーするんだから。それでまた、毎日バナナ配るんだから。
それにしても、一向に僕の出番が回ってこない。今回は、出番が来なきゃ、僕の仲間を呼べないのに……。
早く。もうこんなところで一人で待ってられないよ。
僕は部屋のドアの前に立った。
すると、ドアの反対側から音がした。そして、ドアが開いた。
「レンー!」
「うわっ、びっくりした」
ドアを開けたのはリンだった。リンの、オリジナル。
「おじゃましまーす」
「え、ちょ、ちょっと待って」
何の断りもなく、リンは部屋に入り込んできた。
「わー、なんにもないね!」
「うるせえ!」
ずかずか入ってきてこれだ。もう……。
「ほら見て、すっきりしてるでしょ」
リンがそう言いながら、ドアの外に振り返った。そこには、リンのモジュールの皆が何人か並んでいた。
そこの皆は口々に、ほんとだー、とか、へー、とか、さみしいー、とか、そんなことを呟いた。
……ていうか、リンはもう皆を呼び始めたんだ。一人きりなのは、もう僕ぐらいなのかな……。
「ねえ、ニートはまだ?」
突然、何人かの中から一人がそう言った。
「に、ニート?」
「うん、ニート」
聞き直したけど、目を丸くして僕を見つめてそう言ったのは、トランスミッターちゃん、だ。
「あの、もしかしてニートってレシーバーくんのこと?」
「そーだよ」
「ひっどいな」
「ニートはニートだも~ん」
ひどい呼び方だけど、相方だから気になってるんだろうか。
「ごめん、僕の方はまだ僕以外いないよ」
僕が言うと、リン達は皆でがっかりした顔をした。
「えー」
その声に、正直耳を塞ぎたくなって、……ヘッドセットのおかげで手では塞げない。
「まだ一人だったんだ」
リンにそう言われて、僕は寂しさに追い討ちをかけられた。
「……そうだよ。まだ一人だよ」
僕が言うのを見て、リンはしばらく黙っていたけど、急に手を握ってきた。
「出番だって。呼びに来たんだよ」
「……え?」
手を引かれて、僕は部屋の外に出た。
「皆を呼ぶんでしょ」
そう言ってリンは僕の目を見てうなずいた。
「うん、行くよ」
僕もうなずいて、それから、呼びに来てくれてありがとう、と付け加えた。
「ニート呼んできてね~」
ステージに向かう後ろから聞こえてくる言葉に、はいはい、と思いながら、僕は足を進めた。
さあ、僕の舞台だ。
舞台の袖で、皆のうちの誰かが待ってくれている。うまくやれば、曲の最中に、来てくれる。
誰が来るかは、分からないけど。
なにか不思議な力によって、呼応してくれる仲間が……だから、そのために、全力で、舞台に立つ。
「オレのステージ、ちゃんと見てくれよな!」
観客の光がまるで僕に力を与えてくれるようで、ますますその不思議な力は強くなって……。
いつもの僕じゃない。違う僕になれる。
その「違う僕」の可能性が、皆だ。
さあ、今回はどんな僕になれるかな……!
「ようこそ! バトンタッチだよ!」
「……はい!」
最初に来てくれたのは、イレイザーくんだった。ステージの続きを、イレイザーくんに託して、僕はそれを舞台袖から見ていた。
さすが、彼も僕だから。無事に、最後までやり終えた。
「というわけで! 第一号はイレイザーくんでしたー」
ステージを終えて、部屋にイレイザーくんを入れて、一息ついた。
「僕が一人目、ですか」
「そうだよ」
相変わらず、何だか真面目そうな雰囲気だ。
「どう、寂しい?」
「そうですね、さすがにここに二人だと」
イレイザーくんは部屋を見回した。僕も、見回す。……さすがに、まだ殺風景だな。
「大丈夫、これからどんどん皆を呼んで賑やかにするからねー」
「はい」
「そのためにはまた、僕らでステージに立たなきゃいけないんだ。今度はイレイザーくんが、行こうか」
僕が言うと、イレイザーくんは少しだけ驚いた顔をしたけど、すぐにうなずいた。