交差#02「とりあえずの目標」

最初のステージを終えた僕たちのところに、リンがやってきた。
「無事呼べたんだね。あ、いらっしゃいイレイザーくん」
リンに言われて、イレイザーくんは頭を下げた。
「それでさ、すっかり忘れてたんだけど」
リンは大きな紙袋を僕に差し出した。中を覗くと、羽とか、スピーカーとか、そういうものが詰め込まれていた。
カスタマイズアイテム、っていうやつだ。前からあったけど、初めて見るものもある。

ライブも何があるかわからないから、アイテムをつければ、場になじめて盛り上がりやすい……らしい。
あと、いい感じの組み合わせでまとめて入れてあるらしい。
「とりあえず、私はエレメントごとに一人ずつは来てもらったから、レンもそれ目指したらどうかな。まだミク姉も含めて皆集まってるわけじゃないし、一区切りついたら、またミク姉とかにバトンタッチね」
「わかった、そうする」
僕は順番が最後だから、リンとか他の人にならって、情報を聞きながら皆を呼ぶことになりそうだ。僕はやっと一人を呼んだだけだけど、リンもまだ、僕より多いって言っても、全員には程遠い。……気長に、頑張るしかなさそうだ。
ずっとステージを見ているだけか、助っ人で行ったぐらいだから、すっかりミク姉任せになってたけど、クリスタルを集めたりもしなきゃいけないし。やることはたくさんだ。

リンと別れた後、とりあえず、次のステージのことを考えることにした。
「イレイザーくんに次は行ってもらうとして、エレメントごとに一人ずつ……となると、ニュートラル以外のところに行ってみるのがいいかな」
「そうですね。……どこにしますか?」
順に隣のエリアに行くのも悪くないと思うけど、ふと、思った。
どうせなら、イレイザーくんと仲のいい人を呼べたら、いいかもしれない。
「ねえ、次のステージで、イレイザーくんは誰に来てほしい?」
僕は聞いてみた。
「誰でも歓迎します」
イレイザーくんは真面目そうな顔を全く変えずに言った。
「偉いなあ、好き嫌いとかしなくて。……でもさ、話しやすい人が来る方がいいんじゃないの?」
「それは、……そうかもしれないが」
僕が少し顔を近づけて、目を見つめて言ってみると、イレイザーくんは目をそらしながら言った。少し話し方が、素に戻っている。
「で、誰がいい?」
「……そ、それでも、僕は誰でも構わない……」
イレイザーくんとよく話してた人は、僕は何となく把握してるつもりだけど、イレイザーくんも、いずれ全員を呼ぼうとしていることを気にしてくれているんだろう。
「まあ、いずれ全員を呼ぶとしてさ。多分、今回は皆を呼ぶのが結構大変なんだよね。そのうちストレスがたまっちゃうかも」
「……確かに」
「それで、イレイザーくんは、ストレスの発散といえば何だと思う?」
イレイザーくんは聞かれたことに驚いたようで、一瞬考えてから、自信なさげに答えた。
「……食べること、かな」
「ああー、それもわかる。けどさ、他にもあるんだよね。例えば……暴力とかね」
「!! オリジナルさん、そんな物騒な」
思い付かなかったんだろうか、すごく目を見開かれた。
「クッション投げつけたり、殴ったりさ……」
「……こわい」
例え話をしたつもりだったんだけど、想像以上にびびられてしまった。
「実際あまりやらないけどさ。でも、イレイザーくんてそういう発散はしないかな。サンドバッグほしいとか思わない?」
「……なんでサンドバッグ……」
「てっきり僕はイレイザーくんがサンドバッグ欲しいと思ってたんだけど。思い違いだったかな?」
「考えたことなかった……」
イレイザーくんて、人前ではおとなしそうだから、どこかで発散するときに何か殴ったりしてる……と、思ってたけど。……まさか、自覚がない、とか?

「とりあえず、キュートエリアにしよっか?」
「はい」
イレイザーくんを後ろに従えて、僕はキュートエリアのステージに向かった。
「イレイザーくんが誰でもいいとか言うからー」
「うっ、すまない……」
ああ、こうやってからかうと真に受けちゃうんだ。
「冗談冗談」
「や、やめてください……」
「キュート、なんだからね? あまりかたい顔しないで、さ!」
そんなことを話しているうちに、ステージの袖までやってきた。
「さっきもらったアイテム、早速使おうか。キュートだと……そうだなー」
僕は紙袋をあさった。
「これ、かわいいね!」
僕は花でできた輪を2組取り出した。イレイザーくんはそれをじっと見つめた。
「とりあえず、つけて」
「……」
イレイザーくんは真面目な顔のまま、何も言わずにそれを受け取った。
「一個首にかけて、もう一つは頭にのせてみて、で、そこ、立ってみて」
言った場所に歩いていってから、イレイザーくんはこっちに振り返った。

「似合ってるよ!」
「……そうかな……?」
ちょっとだけ不安そうなイレイザーくんに、僕はさらに声をかけた。
「僕らのエレメントはニュートラルでしょ。ニュートラルは中立、つまり、何でもできるの。何でも似合うの」
「な、何でもって」
「それぐらいの自信で、ってこと。このステージ、任せたよ」
「……」
イレイザーくんは黙ってうなずいた。そして、ステージの中央へ向かった。
「ちゃんとやれるって僕は知ってるし、信じてるから、ね」
僕は呟いたけど、聞こえなくても最初から、心配ないはず。

無事曲は進んで、変身の時がきた。
「おーい! イレイザー!」
「……ホワイトエッジ」
「任せてよ! はい、さっと交代しちゃお」
「ああ、任せた」

曲が終わると、イレイザーくんと、ホワイトエッジくんがならんで僕の方へやって来た。
「エッジくん、いらっしゃーい!」
「こんにちはーオリジナルさん!」
元気だ。エレメントがキュートなのもあるのかな。初めて姿を見たときは、おしゃれだし、てっきり格好いいタイプかと思ってたんだけど、結構活発というか、何となく可愛らしいところが見え隠れするんだよね。
「お疲れ」
イレイザーくんが微笑んでエッジくんを見て言った。
「うん、イレイザーもね」
二人は同じ時期に来た仲間ということもあって、結構仲良くしてたんだけど、……そうだ。
「イレイザーくん、仲良い人が来たね!」
結果的に、仲良い人が呼べたんだ。偶然かもしれないけど、よかった。
「……そ、そうだな……」
少しイレイザーくんは恥ずかしそうな顔をした。
「エッジくんもイレイザーくんと直接交代できて良かった、よねえ?」
「はい!」
エッジくんはイレイザーくんと違って即答だった。しかも満面の笑みだ。
「っていうか、他の人は来てないの?」
「そうだよ。一人目がイレイザーくん、エッジくんは二人目」
「そうだったんだ。イレイザー、僕が一番仲良くしてるしさ。もしイレイザーがしばらく来なかったら寂しかったかも」
エッジくんはそう言った。僕はイレイザーくんの方をちらっと見た。
「……だって?」
「……」
「イレイザーくん、次に仲良い人が呼べる方がいいんじゃない、って聞いたのに「誰でも良い」とかいっ」
「あー! それは言うな!」
「~!」
イレイザーくんは突然僕の口を塞いできた。ううっ、息ができないー!
「イレイザー、オリジナルさんまじで苦しそうだからやめてあげて!」
慌ててエッジくんがイレイザーくんの手を離してくれた。はあ、どうなるかと思った。

「さてさて、どんどん仲間を――」
当面の目標は、各エレメントの仲間集めだ。話はこれぐらいに、と思っていたら、エッジくんに肩を叩かれた。
「……オリジナルさん、なんかあっちで手招きされてる」
「え?」
……『急いでスタンバイして』、?