僕たちは慌てて手招きされた方へ向かった。同じキュートエリアの、隣のステージだ。
話によれば、ここで次の曲を早速やってほしいと言われているらしい。そう言われたら喜んで答えるのが、僕たちだ。
「せっかく来てもらったから、次はエッジくんの出番だね」
僕が言うと、エッジくんはちょっと驚いた顔をした。
「僕でいいんですか?」
「うん。ていうか、キュートエリアだし、僕とイレイザーくんよりエッジくんの方がいいんだよね」
「そう……なの?」
不安そうな顔でエッジくんは、僕と、横にいるイレイザーくんを見た。
「より適切、みたいな」
イレイザーくんはエッジくんに小さい声で言った。理論的にそう、ってことなんだよね。
「そうそう、そういうことだよ。キュートさを発揮しちゃって!」
理論よりは実情、絶対エッジくんなら大丈夫。
「キュートさ、は、よくわかんないけど、せっかくの舞台、はりきっていきまーす!」
エッジくんはそう言うと小さくガッツポーズをして見せた。
「お守りの花の冠だよ」
僕はカスタマイズアイテムを渡した。
「ありがとうございまーす!」
エッジくんはそういいながら、すぐにそれを被った。
「……何のためらいもなく……」
イレイザーくんはちょっと驚いているみたいだけど、エッジくんは花の冠を被ったまま、裁判所のステージの真ん中に走っていった。
「裁判官の役とか憧れちゃうなー。こう、指差して、「有罪!」なーんてね!」
「かっこつけてるんだろうけど、花の冠でわりと台無しなんじゃ」
イレイザーくんは小さな声で言った。
「可愛ければ何でもいいんだよー。イレイザーくんは細かいこと気にしちゃ駄目だよ?」
「う……」
僕がそう言い聞かせると、諦めたようにイレイザーくんはエッジくんの方を見直した。
曲が始まる。
今回も、順調に進んで、変身の時が来た。
「おーい、誰か来てー!」
「……えええー! なになになにー」
「さっ、かくかくしかじかでー、だから早く来て!」
「かくかくしかじかじゃ分かんないよ、ってあああ~!」
半ば強引に引っ張られてきたのは、スクールジャージくんだった。その場をなんとか切り抜けるように踊って、曲が終わった。
「お疲れー、ようこそスクジャくん!」
まだ状況が分からないらしく、スクジャくんは周りをきょろきょろと見回している。
「ここは……」
「ほら、そろそろ引っ越すって話してたじゃん? ここのことだよ」
「あっ……そうなの?」
スクジャくんは納得した顔をした。
「僕、居眠りしてたんだよね……ああー、なんかやっと目が覚めてきた。そっか」
「ここに来るときはいきなりステージに呼ばれるから、ちゃんと心の準備しておいてって言った気がするんだけどなあ……」
はあ、もう。緊張感がないっていうか。よく最後にそれなりに踊ったよね……。
とりあえず、僕たちは部屋に戻った。
「比較的早くこれたなー。トップ3入りだ」
スクジャくんが言って、それから、イレイザーくんとエッジくんを見た。
「最初にイレイザーくんが来てね、それからエッジくんが来たんだよ」
「へえ、仲良い二人が連続だったんだ、いいなあ」
「そうそう。イレイザーくんのサンドバッグがすぐに来てくれてよかったよねー」
「ああ、いつもイレイザーくんに殴られる係を引き受けてくれるからサンドバッグ……って、え?」
「は?」
スクジャくんとイレイザーくんが、僕の方に同時に首を向けた。
「えっ、殴る相手が必要なんじゃなかったの?」
イレイザーくんといえば、あることを原因に突然殴りかかることがあって、毎回殴られそうになるその誰かをかばって、エッジくんが必ず代わりに殴られるんだけど……。
「あ、あの、誰が来てほしいか僕に聞いたとき、ストレス発散が、って話してたのは、もしかしてホワイトエッジの話をしようとしてたのか……?」
イレイザーくんが僕に言ってくる。そう、エッジくんが来てほしいんじゃないかって思ったのは、いつも殴る相手だから……っていうのも……。
「僕もイレイザーのサンドバッグのつもりできたのに?」
エッジくんは僕の話が分かっているらしい。最近、割と好んで殴られにいってる節もあるし。
「殴るとか……そんなことしない……!」
イレイザーくんは声を震わせた。いや、結構殴ってたのに。
「……エッジくんが自分のことサンドバッグだと思ってるのも突っ込みたいけど、それよりなんでオリジナルさんもサンドバッグだと思ってたの!」
「違ったの?」
「違うに決まってんでしょ!」
スクジャくんに思いっきり突っ込まれてしまった。あっれー?
「僕としては、最近むしろ殴られないとなんか足りないっていうか?」
「エッジくん、その思考はいろいろまずいと思うよ!」
「やめてくれ……」
スクジャくんとイレイザーくんは、にこにこして言っているエッジくんを心配そうに見つめた。
さて、そんなことを確認しつつ、そろそろ次に呼ぶ人のことも考えなきゃ。ニュートラルと、キュートは二人ずつ。あと3つのエレメントの人を呼ばなきゃ。
次はどこにしよう?