僕たちは、次のステージについて考えていた。
「ねえスクジャくん、これ被ってみてよ」
僕はイレイザーくんやエッジくんにも被ってもらった花の冠を渡してみた。
「えー何これ」
スクジャくんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「ださーい」
「文句言うなんて。他の二人は何も言わずにつけたんだからね!」
ほんとにイレイザーくんもエッジくんも、素直につけてくれたのに。
「えっまじで」
スクジャくんはかなり驚いてる。
「そんなスクジャくんには仕方がないから違うのを渡してあげるよ~。ほら」
僕は紙袋に入っていた緑色の帽子をスクジャくんに投げつけた。
「ちょ、オリジナルさん乱暴」
「それ被って。ほらさっさと」
「ひどい、スパルタだ」
微妙に涙目になってるけど、知らない。嫌がった罰だ。エレメントがキュートなんだから、むしろ花の冠こそ似合うはずなのに。わかってないやつだ。
「これは口にくわえるやつだから。絶対落としちゃだめだからね」
今度は四葉のクローバーを手に押し付ける。
「歌うのに!? 無茶だよ!」
「つべこべ言うな!」
「うわー、うるさいー! 助けて二人ともぉ!」
「あっ逃げるな!」
少し離れたところにいたイレイザーくんとエッジくんの方へ、スクジャくんが逃げやがった。
「こら」
僕はスクジャくんの後ろに回って、肩にかかっているネクタイを引っ張った。
「うわ! 苦しい苦しい!」
「よくできた後輩と違ってスクジャくんはなんなの? あー、二人はスクジャくんのことなんか気にしなくていいからね? ほっといてほっといて」
イレイザーくんとエッジくんは、はあ、と言いながら、戸惑いの目でスクジャくんを見ている。
「さ、早くステージに行くよ。先輩らしく決めてきてよね」
「だ、だから、苦しい……ネクタイ……」
僕はネクタイを掴んだまま、スクジャくんをステージにつれていった。イレイザーくんとエッジくんも、後ろからついてきてくれた。
「これくわえてると眼鏡邪魔なんじゃないの? 預かるよ」
「それしてないと落ち着かないんだけど!」
「ステージのためには仕方ないでしょ」
ステージに来てからも散々文句ばかりのスクジャくんに、正直ステージを任せるのは怖かったけど……。
眼鏡を外したスクジャくんは、僕と同じ顔で、髪型も同じで、ああ、やっぱり僕なんだよな、って思う。ていうか、別にスクジャくんに限った話じゃなくて、皆顔は本当は同じなんだし、皆が僕なんだけど。
僕である以上、ステージをやりとげてもらわなきゃ。いや、できるんだ。
スクジャくんのステージでも変身の時がやってきた。
「あっ。来た来た。後は任せたよー」
「はーい」
新しくやって来たのは、藍鉄くんだった。
ステージの続きを踊る藍鉄くんを見てて、スクジャくんよりは安心して見てられる……なんてのはさすがにスクジャくんに失礼だけど、安定したパフォーマンスで、曲の終わりを迎えた。
「藍鉄くん! ようこそー」
僕と、スクジャくんと、ついてきていたイレイザーくんとエッジくんで、ステージから帰ってくる藍鉄くんを出迎えた。
すると、藍鉄くんは両手を前に出して、振りながらこっちの方へ走ってきた。
「みーんなー、きーたよー。よーろしくー!」
藍鉄くんが、目をくりくりさせて、そう言って僕たちを見つめた、……。
僕たち4人はみんな、藍鉄くんを呆然とした顔で見た。
「?」
前に出していた手をおろして、藍鉄くんは首をかしげて、かわるがわる僕たちの顔を見る。
「……先輩」
イレイザーくんとエッジくんが声を揃えて言う。
「……後輩」
それにならって、スクジャくんと僕は言った。
「どうしちゃったんですかー!」
エッジくんが全員の気持ちを代表して言った。
えっ、なに。なに。
この屈託のない笑顔が違うんだろうか。
誰にでも敬語をやめなかったはずが、こんなに緩い口調だから違うんだろうか。
「どうしちゃったってー? なにがー?」
藍鉄くんは交互に足をあげながらゆらゆらしている。
「キャラが! どうしちゃったんだよって!」
何か変なものでも食べたのか、と、スクジャくんが藍鉄くんの両肩をにぎり、ゆれるのを止めさせる。
「キャラってー?」
「あの、その話し方が、先輩らしくないという……」
「そーかなー?」
イレイザーくんが説明しても調子はそのままで、皆変なものを見るような目になっている。
……あっ、もしかして、
「藍鉄くん、イメージチェンジでもしたの?」
そう言われても、藍鉄くんはきょとんとした顔で首をかしげるだけだった。