藍鉄くんは僕とスクジャくんにとっては後輩、イレイザーくんとエッジくんにとっては先輩だけど、先輩後輩同期を問わず、誰にでも敬語を使い、いつも謙虚で、人見知りで、怖がりで。だから心配されて、でも可愛がられてもいて、得意の料理を振る舞うと皆に感謝されて……って感じなんだけど。
まさか、心配されてるのを実は密かに気にしていて、この、環境が大きく変わるときを機に、イメージチェンジでもしたのかな、と、僕は思った。
「……うーん、とにかくさ! まだまだ仲間を呼ばなきゃいけないし、次のステージのことを考えるよ!」
心配した目で藍鉄くんを見つめている皆に、僕は言った。
「流れ的には、次は藍鉄くんの出番かな。やってくれるよね!」
「はーい」
イメージチェンジしたならそれに合わせなきゃね。僕は何もなかったことにして言った。藍鉄くんも素直に聞いてくれて、さっそく次のステージへ移動することにした。
電線がたくさん張られたステージに、僕らはやってきた。
「な、なんだか暗いとこだね」
エッジくんが、夕暮れの空を見上げながら言う。するとその視線の先で、黒い鳥が大量に飛び立った。
「ひっ!」
「ぎゃー!」
エッジくんとスクジャくんが、同時に声を上げて、間に挟んでいたイレイザーくんの腕に片方ずつしがみついた。
「いたっ、……怖がるなよ……」
イレイザーくんは呆れている。イレイザーくんはびびらなかったみたいだ。
「だってー……」
「今のはびびったもん……」
エレメントがキュートの二人は、心なしか女々しくなってるような気がしてしまう。
そして、本来ならこんなときに一番びびりそうな藍鉄くんが、微動だにせずに空を見上げていた。藍鉄くんのエレメントはカオス、だけど、カオスってなんか、よくわかんない、って感じなんだよね……。よくわかんないからカオスなんだって僕は理解したつもりだけど、つまり理解できないということを理解したっていう、どっちなんだかよくわからない、……つまりわかんないんだ。
そんな様子を見ながら、僕は紙袋をあさった。こんな不気味なところに似合うアイテムは……。
「藍鉄くん、これを背中に」
「はーい」
藍鉄くんには、黒い翼のアイテムをつけてもらってみた。そして、ステージの中央に立ってもらう。
「わあ、雰囲気あるー」
思った以上にいい感じだ。すぐに曲を始めることにした。
少し不気味な雰囲気も、藍鉄くんは見事に演じて見せてくれて、僕たちは皆で見入っていた。
そして、変身のときがやってきた。
「……?」
藍鉄くんがきょろきょろしている。
……誰かが、来てないみたいだ。
どうしよう。まだ曲は続いているのに。
「だれもいないの?」
藍鉄くんが呟く。もう、時間がない。
どうしよう。僕が見つめていると、一緒に横で見ていたエッジくんが、ステージに向かって走り出した。
「僕が代わるよ! 先輩、休んでて! あとは任せてっ」
エッジくんに言われて、藍鉄くんはこくんとうなずいて、ステージの袖に移動した。
曲の残りはエッジくんがやりきって、なんとかステージは無事に成功した。
「エッジくん、とっさに動いてくれてありがとう」
「えへへ。……ちょっとこういう雰囲気の曲もやってみたかったし、楽しかったです」
エッジくんはそう言うと笑った。
「よかったよー」
「せ、先輩、ありがとうございます」
藍鉄くんもステージの袖からエッジくんの方へ歩いてきて、にこにこして言った。
「来ないことってあるんだね」
スクジャくんは呟いた。
「準備ができてなかったのかもしれないな」
イレイザーくんは口元に握った手をもってきて考えている。
「ま、今回は今回だよ! 気を取り直して、次にいこっか!」
仲間が呼べないこともあるんだ。でも、諦めないぞ。僕たちはステージを移動した。
今度は教室を模したステージにやってきた。
「わー! ひっろーい」
皆でステージを見回す。ステージ袖にはギターが置いてある。最初はあれを持っていくらしい。
「かっこいいなあ……」
全員がステージを眺めるなかで、特にエッジくんが、ひときわ目を輝かせている。
もしかして、エッジくん、まだまだステージに立ちたいのかな。さっき、とっさにステージに上がってくれたのも、自分がステージに上がりたいって気持ちがあったからかもしれない。
「次はエッジくんにやってもらおっかな」
「えっ!?」
僕が言うと、エッジくんは僕の方へ慌てて振り向いた。声も裏返っちゃって。
「ここで歌ってみたくない? なんとなく、そう見えたけど」
「……そう見えちゃいましたか」
ばれちゃった、と、エッジくんが笑った。
「皆もエッジくんが次でいいよね。それとも僕がーって人いる?」
皆の顔を見ると、それぞれうなずいた。
「じゃ、さっそく準備しようね! さっき藍鉄くんがつけてた翼もお守りね」
ギターを抱えたエッジくんに、さっきの黒い翼をつけて、背中を押した。
今度は激しい曲だ。さっき持ってたギターは曲中に放り出しちゃって、全身から叫ぶように歌う。ちょっとだけ、エッジくんのエレメントがキュートだなんてことを忘れちゃいそうで、かっこいい。
「今度こそ、誰か来てくれる?」
変身のときになって、エッジくんが呼び掛けると、人影が見えた。新しい誰かだ。
「かっこいいステージには、俺は外せないだろ?」
「パンキさんだ!」
「任せな!」
随分頼もしいこと言っちゃって。でも、言葉に違わぬカリスマ性で、パンキッシュくんはステージを引き継いで、曲は大歓声の中で終わった。
「パンキ先輩だー」
「待たせたな」
エッジくんがまた目を輝かせている。その後ろでイレイザーくんもパンキッシュくんを見ている。憧れの目だ。
「僕パンキッシュくんと同期なんだけどな……威厳が違いすぎるよぉ」
スクジャくんがその様子を見てうらやましそうにしている。……僕なんてパンキッシュくんより先輩だけど、あんなきらきらした目で見られたことなんて多分ないし……。
「先輩」
スクジャくんの斜め後ろに、藍鉄くんが立った。スクジャくんが振り返ると、藍鉄くんがにっこりした。
「先輩も立派な先輩だよー」
「藍鉄くん~! ありがと~!」
藍鉄くんはいい子だな……。スクジャくんも機嫌が良くなってるし。
変身の時だれも来なかった、っていうのもあったけど、無事に新たな仲間を迎えられた。まだまだ進まないと、ね!