交差#09「期待のスキル持ち」

しばらくステージに立つ予定もなくて、僕は退屈な時間を過ごしていた。早く来てない仲間を呼びたくて仕方ないのに……。
僕は部屋でだらだらと体勢を崩していた。
「オリジナルさん……」
イレイザーくんが、そんな僕を見下ろしている。
「あー。ひまひまー。ひまー!」
「子どもですか」
「14才は子どもだからいーのー! あーごろごろごろ」
「口でごろごろ言ってどうするんだ……」
ふと見ると、ライトくんとブレイブくんが、イレイザーくんの後ろから、同じように僕を見下ろしていた。
「すまないな、とてもこの状態で僕たちの代表には見えないだろうけど、一応そうだから……」
イレイザーくんが二人に話している。二人はそれを素直に聞いていて、なんだかちゃんと先輩と後輩みたいになっている気がする。

そんなことを思っていると、部屋のドアが鳴った。
「やっほー」
僕が起き上がると、ドアからリンが入ってきていた。そして、よく見ると、後ろからもう一人来ていた。
「へー、こっちはこうなってるんだ」
「まだ殺風景でしょ」
「そうだね」
リンと話しているのは、リンのアペンドだ。
「そっちはアペンド来たんだ」
僕が言うと、リンとリンのアペンドはうなずいた。
……そういえば、まだアペンド、来てないんだった。
うーん、来てなければ喧嘩もしないしうるさくないからよかったけど、あいつもやっぱり呼ばないといけないよな。今後いろいろあいつに投げたりしたいし……。
「これからアペンドにステージは任せるんだ」
リンが言った。
「得意なんだよね、新しいモジュール呼ぶの」
「うん」
ああ、スキルってやつのことかな。モジュールごとにスキルがあるんだけど、ステージ中のボルテージを上げやすいとか、そういうのをみんな持ってる。今まではそれを意識しなくてもなんとかなってたから、新しく来た人に次のステージに立ってもらうようにしてたんだ。
これから全員を集めようとすると、新しいモジュールを呼ぶのが得意なモジュールが、基本的にステージに立った方がいいってことかも。
「ルカ姉とかもだけど、みんなニュートラルエレメントのクリスタルが溜まったときにやったステージで来たモジュールが、新しいモジュール呼ぶの得意なんだって」
「そうなんだ」
「KAITO兄さんとMEIKO姉さんがオリジナルで、ルカ姉がV4Xで、私がアペンドだし、レンもニュートラルのとこで呼べるのはアペンドでしょ」
「流れ的にそうだよね。てことは、新しいモジュールをこれから呼ぶこと考えても、アペンドには早く来てもらわないといけないのかな……?」
今の目標からして、アペンドのスキルってすっごく重要なんじゃないのかな。うわあ、期待のスキルじゃん。
「そうと決まれば、今度はニュートラルの曲のステージを」
「新しいモジュール?」
僕が言いかけたとき、ライトくんが、僕とリンの間へ、覗き込むようにやってきた。
「それなら俺得意だぜ?」
「えっ?」
ライトくんが、自信満々な顔をして僕を見ている。
「ねえ、クールエレメントのモジュールもそうなの?」
リンの方のクールエレメントの象徴モジュールはどうなんだろう。たしか、バーニングストーンって名前らしいけど。
「えっ、こっちはレアモジュール呼びやすいって言ってたよ」
「え……」
「あー、でもミク姉のニュートラルのステージで来たV3は時間でボルテージ上げるらしいし」
「でも、ミク姉はモジュール多いからさあ。ミク姉以外はみんな、ニュートラルのステージで来たモジュールが、新しいモジュール呼ぶの得意なんだよね……?」
リンと僕と、あと、その周りの僕ら皆で、首をかしげる。
「仮にアペンドがニュートラルのステージで来るとして、あいつは何が得意なんだ……?」
「……それは知らないけど、早く呼んであげたら」
リンのアペンドが言って、そうだよね、とリンに確認した。
「そうだよ。もうクリスタルも集まってるし、あとは呼ぶばっかりだよ」
「……うん、準備するよ」
そろそろ行くね、と、リンと、リンのアペンドは部屋を出ていった。

「アペンドを呼びにいくってことだね」
僕は自分に言い聞かせるように確認した。
「いってらっしゃい」
近くにいたブレイブくんが言って、横にいたライトくんも手を振ってくる。そうだよね、エレメント違うから行けないんだ。
「じゃ、イレイザーくんに呼んできてもらおうか……あれ?」
さっきまで近くにいたはずのイレイザーくんが、どこかに行ってしまった。
……と思ったら、カスタマイズアイテムを入れた袋の置いてあるところで、何やらものを探している。
そして、なにかを見つけて、僕の方へ持ってきた。
「いってらっしゃい」
「へ?」
「これつけて行ってください。ご武運を」
「……へ?」
僕の手には、ニュートラルエレメントのアイテムが持たされている。
「いやいや待って待って待って、僕はイレイザーくんに行ってもらおうと」
「ご武運を」
イレイザーくんが真面目な顔をして繰り返した。押しきるつもりなのか……。
「だ、だからね? あのステージはニュートラルエレメントでしょ? だからイレイザーくんが」
「ごーぶーうーんーをー!」
「なんでー!」
アイテムをとりあえず近くのライトくんに持たせて、僕とイレイザーくんはしばらく掴み合っていた。
「なんで僕に押し付けるのかなー?」
「オリジナルさんこそ、なぜそんなに僕に行かせようとしてるんですかー?」
僕はあいつのこと嫌いだし、イレイザーくんがせっかくいるなら行ってもらいたかったのに。……でも皆の前でアペンドが嫌いだとは言えないし……。
「そんなにその、アペンドというのは会いたくない相手なのか?」
アイテムを持ったまま、ライトくんが首をかしげる。
「いや、アペンドさんはカリスマだよ!」
騒ぎを聞き付けてエッジくんがやってきた。
「いい人だよー」
藍鉄くんがその横から現れてうなずいている。
「掴みどころのない奴だけどな」
パンキッシュくんは腕を組んでいる。
「たまによくわかんないよね」
スクジャくんはパンキッシュくんに同意している。
「……結局どうなんだ……?」
まだアペンドに会ったことのないランサーくんとブレイブくんは、皆の言葉を聞いて混乱している。……あいつは多分人によって印象が違うだろうし、こうなるのも仕方ない気がする。
「ていうかー、イレイザーくんは僕の命令が聞けないの!」
僕は掴み合ったままのイレイザーくんに言った。代表である僕の指揮で今までやってきたはずなのに、反発されるなんて。
「そういうつもりではなく、オリジナルさんはアペンドさんに誰よりも早く会いたいのかと思って」
まっすぐ見つめられて、僕はこれ以上駄々をこねることができなくなった。そんな澄んだ目で見ないでほしい。イレイザーくんは僕のことを気遣っていたんだ。……さすがにその好意を無駄にはできないな……。アペンドと仲が悪いなんて個人的な理由なんだし。
「わ……わかったよ」
僕はライトくんに持たせていたアイテムをもらって、ステージに立つ準備を始めた。

さて、アイテムだけど、操作盤、後ろにスピーカー、前になんか動いてる何か、それに目には電脳バイザーをつけて……何かすごいな……。でもこれで効果があるなら仕方ないよね。これはお守りみたいなものだから。
今回は明るいダンス曲で、あいつを呼ぶよ!
ずっと来てくれた皆にステージを任せてきたけど、僕もいいところを見せなきゃね。

そして恒例の変身タイムだ。ちゃんと来てくれてるかな……。
覗きこむと、アペンドの姿が見えた。今突然召喚されてびっくりしたかのような顔で立ち尽くしている。
「おーい! 出番だよ!」
呼ぶと、僕の方を見た。
「なにぼけっとしてんの、交代」
「ぼけっとなんかしてねえよ」
今度はむっとした顔になって、でもすぐに真剣な顔になると、僕の居るところへすたすたと歩いてきた。そして、僕を押し退けるようにステージへ上がっていった。

ステージにさえ上がればさっきの不満そうな顔も全く見せずに、続きを無事に踊って、最後のポーズを決めて見せた。
アペンドがステージから降りてきたところへ、迎えに行った。
「お前何だその格好」
僕を見下すような目で放った第一声はそれだった。……あっ、アイテムのことか! 僕は慌ててバイザーを外した。
「うける」
表情はそのままで静かにそう言って、ますます腹が立つ……。
「あのねえ、僕は君をわざわざ迎えに、わざわざ」
「何か後ろで浮いてる」
あーっだからアイテムのスピーカー!
「うける」
「うけるうけるってうるさいよ!」
「だってうけるし」
全く、わざわざ呼びに来たのに感謝の気持ちもないどころか、同じことばっかり言いやがって。
「もうっ、皆いるとこに行くよっ」
「はいはい、うけるうける」
「そればっかりもう! いい加減にして!」

なんとか普通の表情を取り繕って、僕は部屋に戻った。
「呼んできたよ。特に新鮮味のないアペンドでーす」
部屋で揃って待っていた皆の前に、アペンドを立たせた。
「何だその紹介! ……でももうお馴染みだよな……あ、はじめまして」
アペンドが新しい仲間に軽く頭を下げた。
「アペンドは、僕と同じくデフォルト系統のモジュールだから、代表だと思って、何か困ったら相談していいからね」
「別に俺じゃなくても、基本的にはオリジナルに頼んでいいけどな」
「頼みやすい方に、ね?」
よーし、これで役割分担できる。今後仲間を呼ぶ段取りも丸投げできるかなあ?
……仲間を呼ぶ、で思い出した。
「そういえばさあ、がっかりだよ。僕はアペンドが新しい仲間を呼ぶのが得意だって思って呼ぼうとしたのに、それはライトくんが得意なんだって?」
「がっかりされても」
アペンドはがっかりと言ってもさほど気に止めていない様子だ。
「ていうか、アペンドは何が得意なの?」
「ノルマブレイク」
「の、のる……なにそれ」
初めて聞くけど……。
「ライブやってるときの邪魔を叩きのめせる」
アペンドはそう言いながら、ボクシングのポーズをとって、エアでパンチを繰り出し始めた。
「力ずくなの?」
「かっこいいでしょ」
「……」
かっこいい……? 僕は白けた目で見たけど、アペンドはパンチの動きをやめない。パンキッシュくんとスクジャくんあたりは、なんだこいつ、みたいな目で見ている。新入りの3人も困惑ぎみだ。
「さすがアペンドさん~!」
エッジくんはなぜか賞賛していて、イレイザーくんがため息をついている。
「ホワイトエッジはアペンドさんのことほんと尊敬してるよな……」
「叩きのめすなんてヒーローみたいだよ!」
ヒーロー、かあ。そうなのかもしれないけど……。ライブの邪魔って、そもそも何なんだろう?