交差#10「キュートエレメントの力」

各エリアのボルテージも順調に溜まっているから、各エレメントの象徴モジュールを皆呼んでくることにした。残るは、キュートエレメントの新しいモジュール、カオスエレメントの新しいモジュールだ。

ひとまずキュートの方に行ってみることにしたけど、そうすると今のメンバーで行ける人は、エッジくんかスクジャくんだ。どっちに行ってもらおうかな……と皆の様子に目を向けたら、スクジャくんが昼寝を始めていた。
「だらしないなあ」
僕は床に寝転ぶスクジャくんを見下ろしていたけど、
「ごろごろしてたオリジナルさんには言う資格ない……」
イレイザーくんに静かに呟かれちゃった。
「お布団かけてあげないとー」
藍鉄くんが掛け布団を持ってきて、スクジャくんに被せた。そして、ちょこんと横に座ると、布団の上からとんとんと優しく叩き始めた。……親かな……。

この様子じゃスクジャくんには頼めそうもないな、と諦めて、僕はエッジくんにお願いすることにした。
エッジくんはその頃、アペンドと話をしていた。
「いつから邪魔を叩きのめせるなんて特技があったんですか?」
「そんなの、皆も特技なんてこっちで自覚したんじゃないの?」
「僕は自覚すらしてなかったですけど」
「そうなんだ」
スキルの話みたいだ。僕はライブ始めて最初は絶対安定させられるんだけど、それに集中できるだけで、後はなるようになれって感じなんだよね。
「うーん、でも、前に鍵のかかったドアを殴って開けたりしたからかな」
「つよーい!」
エッジくんはきらきら笑顔で拍手しはじめちゃったけど、そこはあまり尊敬するとこじゃないっていうか、ドア修理するの大変なんだからやめてほしいっていうか……はあ。
短気なんだか知らないけど、何も考えてないような顔で突然ドア殴ったりするし、素手だし、そのあとも顔色変えずに「痛かった」だけ呟くし、得体がしれないんだから……。
「あのー、エッジくん」
とりあえず得体のしれない奴は置いといて、ステージに行ってもらわないと。
「何ですか?」
「キュートエレメントの新しいモジュール呼びに行きたいから、エッジくんに行ってもらおうかと思って」
「やったあ! 行きます!」
エッジくん、やっぱりステージ好きなのかな? すごく嬉しそうだ。
「あーよかった。キュートエレメントじゃないと行けないからさ。……ほら、スクジャくん寝てるし」
「ははは……」
まったく、先輩なのにスクジャくんは……。
気持ちよさそうに寝てるから放置して、僕はエッジくんを連れてステージまで行くことにした。
「俺も見に行っていいか?」
さっきまで喋ってたアペンドが聞いてきた。
「うん」
「モジュール呼ぶのって一応初めて見るから、見ておきたいと思って」
「そうだね、今まで僕が全部ステージ見届けてきたけど、もうアペンドに任せてもいいかなー」
「いや、別に今後もオリジナルでいいんだけど」
それなりに仲間集めのこと、気にかけてるみたいだ。代表としてはそれぐらい考えててくれなきゃ、だけどね。

僕たちは海底のようなステージにやってきた。
「見られるのちょっと緊張するなあ……」
ステージの中央に立ったエッジくんは、僕とアペンドをちらっと見ながら、照れくさそうにしている。
ステージでは結構堂々とするタイプだと思ってたんだけど、やっぱり緊張するのかな。
「別に緊張することないと思うけど」
アペンドが言うと、エッジくんはまたその言葉で顔を赤くしている。
「ステージに立つのも好きだけど、ほんとはアペンドさんとか、オリジナルさんみたいなベテランがステージに立ってるのを見てる方が好きだから、二人に見られてるのが……はは」
「???」
どういうこと、って顔でアペンドが僕を見てくる。
「エッジくん、ああいう子だから」
僕はそっとアペンドに言った。エッジくん、いつも「ダンス上手い人憧れるー」とか「演技上手い人憧れるー」とか言ってるから、僕はさておき、色々こなしてるアペンドはほんとに憧れなのかもしれない。
それに、エッジくんは「憧れの人みたいに自分もなりたい」っていうより、割と「憧れの人を見ていたい」って言うんだよね……。そこはよく分かんないけど、とにかくエッジくんはそういう子なのは確かで、そんななのに、憧れの人に見られるって逆の立場だと、照れくさいのかもしれない。
「大丈夫だよー、エッジくんになら安心して任せられるから!」
僕は大きめの声でエッジくんに呼びかけた。アペンドも横でうなずいて見せた。
「はい、ありがとうございます!」

ちょっとかわいい雰囲気のダンスも見事にこなして、今回も順調そうだ。
そして、いつも通りに変身のときがやってきた。
「よろしくおねがいしまーす」
「まかせて!」
パステルカラーな衣装の僕が、そこに現れた。あっ、これが、アイドルってやつかもしれない。
エッジくんと交代して、続きから終わりまで、かわいく踊って見せた。

「おつかれさまー」
「はじめまして! はじめまして!」
ステージから降りてくると、見ていた僕とアペンドにかわるがわる頭を下げてきた。
そして、頭を上げたときの明るい笑顔……やっぱりアイドルかもしれない。
「とりあえず皆の前で自己紹介してほしいから、行こう」
そういって部屋に連れて行く間も、廊下の壁や部屋を見て目を輝かせている。
エッジくんがアペンドと話してる時も相当だったけど、ほんとにきらきらしてるなぁ……。

「ぼくはラディカルスター! よろしくね!」
名乗ったとたんに、見ていた皆が眩しさに目をやられそうになっていた。僕も思わず手を目の前にかざしたぐらいだ。
「まさにアイド……むぐ」
部屋に戻った頃にはちゃんと起きていたスクジャくんが、言いかけて口を手でふさいだ。ちょうど横にイレイザーくんが立っていたからだ。
「アイドルだな」
イレイザーくんは感心したような顔で普通に言った。横でスクジャくんがびくびくしている。イレイザーくん自身が言うのはいいんだ……。
ラディカルスターくんは僕たち皆を一通り見た。そして、誰かに目を止めた。
「この中だとあなたが……」
と、言われているのは、イレイザーくんだ。
「ステージ映えしそうな格好だね!」
イレイザーくんの表情が一瞬ぴくりとした。ま、まだセーフだよ。でも、スクジャくんとエッジくんは、何となく危険を察知しているみたいだ。
「ええー、イレイザーもそうだけど、他にもいるじゃん、ほら、えっと、ライトくんとかブレイブくんとか、ランサーくんも、ほらパンキさんとかさーあははは」
「そうだよそうだよ」
まるでイレイザーくんを隠すように、エッジくんとスクジャくんは、皆をひっぱりだしていく。
「うーん、皆さん素敵だけど、まっすぐっていうか、正統派っていう意味ではその……」
ラディカルスターくんはイレイザーくんを見ようと必死で身を乗り出している。そして、言ってしまった。
「アイドルらしいなって」
エッジくんやスクジャくんを筆頭に、イレイザーくんの周りの皆が、一瞬で表情を凍らせた。そして、イレイザーくんは例に漏れず、怒りに満ちた顔でラディカルスターくんのことを睨むと、前にいた皆を怒りの空気で押し退けて近付いていった。
次に拳が、と思ったところで、サンドバッグ……を自覚しているエッジくんが、とっさに前に出て殴られた。
「いて……あっ、あのね、イレイザーにはアイドルって言葉言わない方がいいよ、ってあっ!」
今度は自分が言ったせいで殴られてる……。
「……すまない」
殴った後に、イレイザーくんはぽつんと言った。
「その、さっきのは、言わないでくれ、手が勝手に、その……」
初対面でいきなりこうなったのも、相当気まずいんだろうな。イレイザーくんは目線を落とした。
ラディカルスターくんはというと、何が起きているか分からない顔をしていた。
「あのね、なぜか自分がアイドルっぽいって言われると、無意識に怒って人を殴るから、極力言わないであげて。本人も別に殴りたいわけじゃないらしいから……」
「そうなんだ……」
イレイザーくんには聞こえないように説明すると、ちょっと落ち込んだ風に納得した。
「でも喧嘩が強いってかっこいいなあ! 喧嘩の強いアイド……むー!」
言ったそばからラディカルスターくんは言いかけて、さっそく口をエッジくんに塞がれてしまった。
「喧嘩も強くないからね!」
「うう、絶対素敵なアイ……なのにい……」
「しばらく監視しないと……」
エッジくんはため息をついた。せっかく本当のアイドルなラディカルスターくんに、殴られた痕なんてつけるわけにいかないし……って、エッジくんなら殴られてもいい訳じゃないんだけど……。