前回の反省をうけて、ライトくんに僕が付き添って、新しく来た人には僕から説明をすることになった。
ライトくんは新しいモジュールだから、来た人からすると誰なのか分からなくて戸惑っちゃう……ということが前回分かった。
さすがに僕のことなら誰でも分かってくれてるから、そういうことは起きないはずだ。これも「代表」だからなんだよね。……同じ意味なら、アペンドでも代わりは効くんだけど。
「どうせならかっこいい曲のライブがしたいなあ」
次のステージの曲を聞きながら、ライトくんが言った。
「気持ちはわかるよ……ここニュートラルエリアだし、本来僕とかがやるべきだとは思うんだ」
でもこれから、最近邪魔ばかりのステージで、全曲を僕らでなんとか成功させるって約束になっちゃったし、でも僕は仲間を集めたいし。
そうなると、ひとまずはライトくんにステージをお願いするしかない。その点はライトくんだって分かってくれてると思う。
「でもさ、かっこいいタイプのひとが可愛い曲を踊るのも、一種の魅力があると思わない?」
「そうなのか?」
「あれだよ、ギャップってやつ」
僕はライトくんに、何とか可愛い曲でもやる気を出してもらうことにした。
「たとえばだけど、この曲であのパンキッシュくんが踊るとしたら、どう思う?」
「えっ、クールなのに」
「でもパンキッシュくんはノリノリで踊ってくれるんだよ!」
昔自分たちがまだ人数少なくて、仕事を選べなかったから何でもやってた、というのは内緒だけど……それでもパンキッシュくんは積極的な方だったし、可愛い曲だろうとお構い無しだった。
「まじかよ……」
「それがプロってもんだよ」
「プロ……」
「プロになるかはさておき、ライトくんがこの曲で踊るの、悪くないと思うけどなー」
僕はそう言いながらライトくんを横目で見た。
「……やるぜ。どんな曲でもきやがれ!」
「えへへ、それでこそライトくんだよ。たのもしー」
「どんと任せな!」
多分、おだてればやってくれそうな性格なんだろうな……と、僕は思った。
すっかりやる気になったライトくんは、可愛らしい振り付けを全く恥ずかしがらずに踊った。これから全員呼ぶまでお願いするんだもん、やっぱりできる人じゃないとね。
そして、変身の瞬間が無事やって来た。
「さあ来い!」
その声に反応してやってきたのは、赤いマスクの……バッドボーイくんだった。
ここ、ニュートラルエリアだよね、と、僕は戸惑ったけど、新しくこっちに来てくれたことに変わりはない。
「続きを頼む」
ライトくんに言われたバッドボーイくんは、きりっとした表情のまま軽くうなずいて、すぐにステージへ上がっていった。
そうだよ、バッドボーイくんもかっこいいタイプなのに、こんな曲のときに来るなんて……このギャップ、ライトくんの比じゃない。
マスクをしたままで、いまいち表情の読み取りにくいバッドボーイくんは、曲通りの可愛らしい振り付けをやってみせた。そして、ステージは無事終わりを迎えた。
僕のところに、ステージを終えたライトくんとバッドボーイくんが歩いてきた。
「お疲れ様、バッドボーイくん」
僕が言うと、バッドボーイくんはいつのまにかまた鋭い目付きになっていて、少しうなずいて見せた。
「これが本物の……ギャップ……」
ライトくんは目の前で見てしまったからか、かなり驚いている。
「いいお手本がすぐに見れたでしょ?」
「ああ……尊敬だ……。さすがです先輩」
そうライトくんに言われたバッドボーイくんは、まあこんなもんだよ、みたいな目でライトくんを見た。ライトくんは、なにも話さないバッドボーイくんにちょっと戸惑った。
「あ、バッドボーイくんは話さないから、反応がよくわからないかもしれないけど、こういう人だからさ。ライトくん、まだ元気なら次の準備する?」
「する! どんどんいくぜー!」
気合いを入れて腕を振り回して、ライトくんは別のステージに走っていった。
僕はバッドボーイくんの方をちらっと見た。
「お疲れ」
バッドボーイくんの目から、いつのまにか鋭さは消え去っていた。
「相変わらず初対面の人にはその態度とっちゃうんだね」
そう言うと、目がうるんだ。
「あっ、別にそれが悪いとかじゃないから泣かなくても。話したかったらマスクとってもいいよ」
バッドボーイくんは首を横に振った。かわりに、いつの間にか持ってきていたらしいスケッチブックを取り出して、何か書き始めた。
『こわかったです』
そう書いた紙で口元を隠しながら、僕を見てくる。
「ええ、ライトくん全然怖くないでしょ……」
仮にも後輩なんだから、後輩にびびることなんてないのに。
「うん、でも、ちゃんと見た目っぽいイメージを守ろうとしてるのは分かってるから。
バッドボーイくんは努力家だよねー」
素を出せる相手は本当に限られてるからなあ。今ぐらいしか気を抜かせてあげられない。
僕は、両手でスケッチブックを持ったままのバッドボーイくんの頭を、ちょっとだけ撫でてあげた。