交差#16「そっくりな分身」

前回初めてのステージ失敗を経験したライトくんは、今度こそはと意気込んでいた。
そして、次のステージの曲は、さらにその意気込みを強くした。
なんていったって、メドレー曲のセンターだから!
この曲だけは特別で、リンやミク姉皆に来てもらわないとできないんだよね。
その大舞台を、ライトくんにお任せするわけだ。
「燃えるぜ!」
次のステージに対して緊張するどころか、ライトくんはそんなことを言っている。
「緊張しない?」
「緊張してたらいいステージはできないからな、ここは気分を高く持つんだ」
「……いいね、その調子なら、僕も安心して送り出せるよ」
「任せとけよな。今度こそは成功させて、仲間もついでに呼んでやるぜ」
そう言うと、すでにステージの袖に来てくれていたリン達の方へ、ライトくんが走っていった。
頼もしいなぁ。新しい仲間なのに、すごいや。

今回は長いけど、こっちに来る前のいろんなことを思い出す曲が流れている。
これを端から見てると、つい、思い出に浸っちゃうな。
はじめて、ここに来て、歌って、踊って、曲がどんどん増えていって……。
僕の衣装も、どんどん増えて、それでいつの間にか、大変になって分身しちゃって。
分身にたくさん仕事を任せて僕がさぼってたなんて時期もあったかも。
ああ、それって今もそうだよね。僕はライトくんに仕事を任せて見てるだけってことだ。

……あの、分身が、僕であって僕じゃないあいつだった……のも、今じゃただの思い出話だよね。
そのあいつは、まだこっちには来てないか。

いつの間にか思い出に浸りすぎて、メドレーも半分を過ぎていた。
そろそろ、変身の時も近いかな。
皆がいるだけあって、今回はお客さんも盛り上がっているように見える。この分なら、安心そうだ。

「よっし、今回は良い調子だな! 続きを頼む」
「待ちくたびれた~! やっと出番だ!」
誰かが来てくれていたみたいだ。しかも、すごいやる気だ。
ライトくんと交代したのは、……ああ、ストレンジダークくんだ。

ストレンくんはステージ好きな方なのかな。
というか、多分、注目浴びて皆に褒めてもらうのが好き……なんだよね。
そのためには完璧にパフォーマンスしてみせる、ってところは、
見られる立場としては重要な能力を持ってるって言えるかな。
曲の終わりまで見事に決めて、ステージは成功した。

「おつかれさま~!」
変身前のライトくんと、変身後のストレンくんと、あとは一緒に踊ってくれたリン達が皆でハイタッチしている。
そして、その後解散したところへ、僕は歩いて行った。
「あれ! オリジナルさんが二人!」
僕を見て、ライトくんが言った。……え?
「な、何言ってるの?」
「えっ、だって今回は誰も来てくれなくてオリジナルさんが代わりに出てきたのかと、……ん?」
ライトくんを、ストレンくんが睨んでいる。
「もしかして……僕とオリジナルさんの見分けがついてないの……?」
「え、……あー! 確かによく見ると全然違う!」
ライトくんが、僕とストレンくんを何度も見比べて声を上げた。
ま、まさか、見分けがついてなかったなんて。
確かに服装は似てるかもしれないけど、目の色とか髪型だけでも結構違うはずなのに。
「こんなにかわいい僕と見間違えるなんてどうなのかなぁ」
ストレンくんが言って、あっ、自分でそういうこと言っちゃう、って思ったけど、ストレンくんだからね。
「ご、ごめんなさい」
ライトくんが慌てて謝ると、ストレンくんはにこっとした。
「すぐ謝ったのはえらいな。なかなか見込みのある後輩じゃん」
ああ、ストレンくん、先輩気取りがしたくて仕方なかったんだな……。
見た目がちょっとかわいいせいで、先輩扱いされにくかったっぽいし。かわいいことは武器にしてるくせに。
「これからも僕を先輩としてちゃんと慕ってね?」
「はい、先輩」
ライトくんは何となく嫌な予感を察知したようで、素直にストレンくんの言葉に応えた。

「ストレンくんが来たよー」
部屋に戻ると、今度は共用のスペースにスクジャくんがいた。
どうも冷蔵庫の中をあさっていたみたいだ。飲み物でも探してたのかな。
「あー! バナナの化身だ!」
ストレンくんの姿を見るなり、スクジャくんが大きな声で言った。
「はぁ?」
ストレンくんはじろっとスクジャくんを見ると、スクジャくんに詰め寄って殴りかかった。
スクジャくんはそれをすっと避けた。
「はっはー! 外してやんの!」
避けきって余裕そうなスクジャくんがからかうように言って、ストレンくんはすかさずまた殴りかかった。
今度は避けきれなくて、スクジャくんのほっぺにパンチが炸裂した。
「いてー!」
「失礼なこというやつには当然の制裁だよ!」
ほっぺを押さえているスクジャくんと、満足げなストレンくんを、僕とライトくんは遠目で見ていた。
「バナナの化身って何だ?」
ライトくんが聞いてきた。
「あ、ああ……なんとなく、ストレンくんって、バナナに見えない……?」
僕は小さな声で言った。
「そ、そうか……?」
「見えるっていったら、ああいう目に遭うから、見えない方がいいと思うけど……」
僕はそう言いながら、そっとその場を離れることにした。
「ライトくんは次のステージの準備しようね……僕はこのへんで……」
「あ、ああ……?」
ついでにまた恥ずかしい出来事を思い出しちゃった……。
ストレンくんがバナナに見えて抱きついたことがある……なんて、もう、この新しい代の僕の仲間には、伝わらなくていいよ……。