今度のステージの曲も、メドレーだ。でも今度は、ステージに立つのは一人だ。
このメドレーは、今までたくさんあった曲の中でも「難しい」って言われてる曲ばかりが集まっていて、
それをいわゆる「ラスボス」とか言うんだけど、このメドレーでステージに立つと、
まるでその人がラスボスみたいになる、そんな威厳のあるステージ……っていうと、何だかすごそうだよね。
「ラスボスかぁ。ここで俺のクールらしさを存分に発揮すれば……!」
「ま、ここもほんとはニュートラルなんだけどねぇ」
張り切っているライトくんには悪いけど、僕はそう言った。
「でもやっぱりラスボスにはクールが似合うと思うんだよな」
「それもありだと思うよ。
……でも、最終的に犯人が現場に戻ってくるように、
ラスボスもニュートラルにきて真価を発揮……!」
「いや、オリジナルさん、例えが何か違う」
「言ってみたかっただけだよー!」
軽く冗談を飛ばしてみたけど、普通に見えて実は強い、なんていうのも、なかなかいいと思うんだけどなぁ。
僕だって皆の頂点に立つ強い存在……とかいったら、かっこいいかも? なんてね!
そんな、頂点なんてつもりで普段過ごしてない。ないない。
前のステージの勢いがあるからか、ステージに立ったライトくんは何だか自信に満ちあふれている。
その自信で堂々としてこそ、この曲に合う姿になれるんだよね。よかった。
この感じなら、今回は大丈夫そうだ。いくら難しい曲が集まっても、今なら、いける。
そんな気がする。
無事変身の時を迎えた。
「さあ、続きを頼む!」
「分かった」
今回も誰かが来てくれていたみたいだ。
ライトくんと交代して現れたのは、アヤサキくんだった。
このメドレーで立ちはだかる、まるで敵のような雰囲気も、アヤサキくんなら見事にやりのけてくれそうだ。
なんていうか、アヤサキくんにはそういう影がある。それもまた、一つの僕の姿……。
ステージは心配することもなく終わった。ライトくんとアヤサキくんのところへ、僕は歩いて行った。
「おつかれさまー。いらっしゃい、アヤサキくん」
「ああ。やっと来れた」
そう話している間、ライトくんはアヤサキくんの後ろに立っていた。
「ん、ライトくんどうしたの?」
「いや、髪が気になって、見てみたいと思って」
そう言われて、アヤサキくんは黙って長い髪を触らせた。
「……っていうか、ほんとに俺たちの仲間なのか?」
ライトくんはアヤサキくんの顔をまじまじと見つめた。
「確かに、間違いなく」
そう答えながらも、アヤサキくんはちょっと戸惑っているようだ。
「だってこれすっげーさらさらだぜ!
ていうか、オリジナルさんと見比べると余計だけど、面影ほとんどないよなぁ。
うっわまじでさらさら。ずっとこうしてたいかも」
とにかく髪のさらさら具合にはまりこんでしまったライトくんは、ずっと「さらさら」と言い続けていた。
「あ、あの、そろそろ……」
僕は何とかライトくんの手を止めさせて、部屋に案内することにした。
「アヤサキくんはビューティエレメントだもんね。
今は全員が集まるまで、とりあえずエレメントごとに部屋を分けて一緒に過ごしてもらうことにしてるんだ。
新入りのランサーくんとブレイブくんが先に来てるよ。ブレイブくんはアヤサキくんに似て長髪系なんだよねー」
「そうなのか」
簡単に説明しながら、部屋の前まで来た。
「あー、あとは妖狐くんも最近来たなかではビューティだったかな」
「妖狐……?」
少し、アヤサキくんが眉を寄せた。
「妖狐くんてわかるっけ? 藍鉄くんの別の姿なんだけど」
「会ったことがないから」
「うーん、やっぱり皆そうだよねぇ。藍鉄くんが滅多になろうとしなかったし、会ってない人の方が断然多いよね」
「ていうか、それなら藍鉄さんはずっとその姿で過ごしてるってことか?」
「いや、ちがうの。今はそれぞれ別にいるんだよ」
「……?」
さらにアヤサキくんは険しい顔になった。
「藍鉄くんも、こっちに来てから性格変わったからね。
とりあえず、今はそうだと思っておいて」
「……そうしておく」
そう言ってから、部屋の戸を開けた。
目の前には、話していた妖狐くんが立っていた。
「新しく来たのかな? よろしくね」
妖狐くんがアヤサキくんに言った。
「……」
アヤサキくんは見定めるような目で妖狐くんを見て、何も答えなかった。