前のでニュートラルの曲のステージは全部成功させたから、今回からはキュートの曲のステージだ。
「俺のエレメントはクールなのに……」
ちょっとだけライトくんは乗り気じゃないようだ。でも、こんなことは前にもあったよね。
「ライトくんがこの曲のステージを成功させるところ、僕は見たいな~」
「そ、そうか? ……そう言うなら頑張るしかないよな!」
単じゅ……う、うそうそ。そう言われて頑張るからすごいんだよ。そうそう。
というわけで、いつものように曲が始まる。
今回も全然問題なさそうだ。僕は安心して、ノリノリで踊るライトくんを見守っていた。
そして、変身のときがやってきた。
「続き頼むぞー!」
「よっしゃー!」
「って水着さん!! え!!」
なんと、現れたのは水着くんだった。しかも、また日焼けしている。
どこかで焼いてきたのかなぁ……。ていうか、新しい仲間をさしおいて出てきちゃうなんて。
ライトくんも曲の最中に止めに入るわけにも行かないし、日焼けした水着くんが踊っているのをただ眺めていた。
でも、偶然にもここは海底ステージで、水着姿はまさにぴったりで、ステージも無事成功をおさめた。
「水着くん……」
僕とライトくんは、ステージから降りてきた水着くんを白い目で見た。
「こんなステージ、僕を呼ばないで誰を呼ぶの。僕のためにあるようなものじゃないの?」
「いや、水着くん以外にも水着いるし」
ボクサーくん、まだ来てないけど多分来るはずだし……。
「ここはー、元祖水着のおしゃれな日焼けスタイルで決めるところなの!」
「へ、へぇ……」
水着くんの主張に、ライトくんはとりあえず空返事をしていた。
「言っとくけど、新しい仲間を差し置いて来たわけじゃないからね。
日焼けも一つのおしゃれとして、今回はステージでお披露目するってことになってるんだよ」
「それは自分で勝手に決めたんじゃ……」
「違うよー。僕以外の水着も皆やってるよ」
「そ、そうなんだ、そう言うならそういうことで」
皆やってるって、水着姿ってそんなにアピールしなきゃいけなかったんだ……。
「ちょっと、仮にも自分の衣装のことなんだから、そんなめんどくさそうに聞くなよ!」
水着くんが、適当に受け答えしていた僕の服を掴んだ。
「だ、だってさ、正直水着って衣装というには……」
「こらー! 僕のことを軽く見るなぁ!」
「そっ、そういうんじゃなくて!
日焼けしてるしてないがそんなに重要とか思ってな、あっ、痛っ! やめ!」
僕は、服を掴まれたまま、しばらく水着くんに揺さぶられていた。
「あの、水着さん、そろそろやめてあげて……」
ライトくんが横から言ってくれて、ようやく僕は揺さぶりから解放された。
「まったく、この日焼けスタイルの魅力が分かってないんだから」
水着くんはまだそんなことを言っていて、でもこれ以上何か言ってもまた揺さぶられそうだったから、
僕は「わぁ、魅力的」と言っておいた。
ライトくんは次のステージの準備をしにいって、僕と水着くんで部屋に戻ることにした。
「ていうか日焼けするとエレメントが変わるなら、早くそう言ってよ」
部屋に着いてから、やっと僕はそれに気づいた。
正直、また水着くんが出てきた、って方にすっかり気をとられてしまっていたから、
本当に別の姿という扱いになってたなんて……。
ある意味、かなり物理的だけど、「二つの姿」に変身できるのが水着くん、ってことだったんだ。
こっちに来る前の藍鉄くんと同じような感じなのかも。
「気づいてなかったんだ……そうだよ。焼けてないときキュート、今はビューティって感じ」
「日焼けってビューティなんだね……」
「ちょっと大人の男になった感じがするでしょ!」
「いや、あまり変わってない。それより暑苦しくなった」
「何それひどい!」
そんなことを話していて、そういえば、今はエレメントで部屋を分けているのに、
部屋はキュートとビューティのどっちにいてもらえばいいんだろう、という問題にぶちあたった。
別に、必ず分かれていてもらわなきゃいけないわけじゃないけど、
いざというときにどこにいるか分かりやすい方がいいかと思って、割り振りをはっきりさせているつもりだ。
「今は日焼け状態だからビューティの部屋に行っとくの?」
水着くんに聞くと、うーん、と水着くんは悩んだ。
いつも水着くんは外に泳ぎに行っちゃっていないことの方が多いんだけど、
とりあえず皆が集まるまではここにいることにしているみたいだし。
「ずっとキュートの皆と話してるのもあれだし、ビューティの皆とも話しに行っておこうかな」
「そっか。じゃあとりあえずそっちで」
そう言って、水着くんはビューティの皆のいる部屋に入っていった。
僕も一旦ニュートラルの部屋でも覗いて、そのあとライトくんの様子を見に行こうかと思っていたら、
すぐに水着くんが部屋から出てきた。
「どうしたの」
「何か、中、怖いから出てきた」
「え、どういうこと」
水着くんは、なんだか意味が分からない、という顔で、中の様子を話してくれた。
「まず、ブレイブくんとランサーくんは美についてのこだわりをずっと話してた。
なんか、誰にも邪魔できない感じだった」
「あの二人いまそんな仲になってるんだ……」
ビューティの人たちってそんな感じなんだ……。
「いや、でもそれはまだいいんだよ。問題は妖狐くんとアヤサキくん」
「え、あの二人? 全然問題児とかじゃないでしょ」
「問題児とかそういうのじゃないよ。ただ、あの二人、そんなに仲よさそうじゃないっていうか、
……アヤサキくん、かなり妖狐くんのこと、警戒してるように見えたよ」
「それは、なんとなく雰囲気が悪いってこと……だよね?」
「そう。妖狐くんはただ微笑んでるだけだけど、それはそれで気味が悪くないかな」
「……そっか。教えてくれてありがとね」
とりあえず水着くんはキュートの部屋に帰っていった。
何で妖狐くんが別の姿でいるのかって話……もしかして、原因に関連するなにかに、
アヤサキくんが気づいてるってこと……なのかも。