部屋にいて水着くんと話をしていたら、すっかり長引いてしまって、
ライトくんはすでに次のステージで準備を終えていた。
「あっ、やっと来た」
「ごめーん。話し込んじゃってて」
「すぐにでも始めるぜ!」
「うん、お願いね」
別に勝手にやっててくれてよかったんだけど、と言おうとしたけど、
スターマインくんと同じ目に遭う人をこれ以上出すわけにも行かないし、
やっぱり僕が見届けなきゃいけないんだよね……。
そろそろアペンドあたりに代わってもらおうかなぁ。アペンドもライトくんの説明不足は補えるよね。
正直、説明不足さえ何とかなれば誰が立ち会ってもいいんだ。
たまたまライトくんが新入りで誰とも面識ないから、
新入り以外の人がこっちに来ると「お前誰だよ!」ってなっちゃうだけで。
それでもオリジナルの僕が全員のお迎えをちゃんとしないのも、問題か。
これからもちゃんと見届けていくしかない。
今回の曲も、とくに問題なく進んでいる。相当かわいらしい曲だけど、
ライトくんもかなり様になってきた……んじゃないかな?
もちろん、決してぴったりなわけじゃないけど。
「おっ、また来てるな。続きを頼む!」
「シロクマがきたよー!」
いきなり名乗り出てきたのは、恋するシロクマくんだ。
いつも部屋に訪ねてくるときは「シロクマがきたよー」でおなじみだ。
シロクマくんの自分アピールなのかな?
ステージに立ったシロクマくんは、恥ずかしげも見せずに曲の最後まで踊って見せた。もともとかわいい曲の担当だったし、似合ってるなあ。
ステージも成功というわけで、僕はシロクマくんを迎えにいった。
「シロクマくん、お疲れー。いらっしゃい」
「わーオリジナルさん! シロクマがきたよー!」
「うん、僕今シロクマくんって言ったよね。わかってるよ?」
「シロクマだよー!」
僕の言ったことは無視なんだろうか……それとも「シロクマだよー!」が言いたいだけなのか……。
「シロクマな……嫌でも覚えるわ」
ライトくんが横でぼそっと言った。すると、シロクマくんはにこーっとしてライトくんに顔を近づけた。
「こんなに同じ顔の僕らがそろった今、積極的に名乗っていかないと覚えてもらえないからね!
シロクマだよー!」
「分かったから! 覚えた! 覚えたから!」
ライトくんは必死で後ずさりした。
「で、オリジナルさん、これ誰? 名乗らないからわかんないよ」
シロクマくんが僕に向き直って言って、ライトくんはいらいらした顔をした。
「こいつがこんなに自己主張激しくなければ……」
「ライトくんが名乗り出せないなんて……」
前はライトくんがいきなり名乗ったのが問題だから僕が先に話すようにしたのに、
まさかそれを突っ込まれることになっちゃうなんて。
「ら、ライトニングストーンだ……」
今までの名乗り方がまるで幻かのように、ライトくんは静かに名乗った。
「へー。……とに……とーん……なんだっけ?」
「ライトニングストーンだ!!」
全然名前をちゃんと聞いていなかったシロクマくんに、ライトくんがきれて大声で名乗った。
自己主張の方が勝ちすぎだよね……。
「名前が長いからライトくんって呼んでるんだよ。
そもそもシロクマくんだって、正式には「恋するシロクマ」だからね」
僕は二人に説明して、とりあえずお互いに名前を覚えさせた。
「そういえばさぁ、かっこいいねぇ」
シロクマくんはライトくんに言った。
「えっ、かっこいい? ……照れるじゃねーかよ」
クールエレメントの象徴なわけだし、それを言われるのは嬉しいんだろうな。
嬉しそうにしているライトくんの頭に、シロクマくんが両手を伸ばした。
「うん、かっこいい」
手を伸ばして、ライトくんが頭につけていたバンダナとゴーグルを外している。
「ああ、これかぁ。いいだろ」
確かにあれをつけていることによって、かっこよさが増してる気はする。
「いやーほんとかっこいいよぉ」
シロクマくんは外したバンダナとゴーグルを持ってそう言いながら、ステージの外の廊下へ歩き始めた。
「え、ちょっと待って」
「新人にまたかっこいい人が増えたってことだよねぇ。
うんうん、今までにいない感じでいいね」
「いや、だから待ってって」
僕とライトくんは、独り言をぶつぶつ言って歩き続けるシロクマくんの後ろへ、慌ててついて行った。
「僕後輩できるの楽しみにしてたんだよねー。
よろしくねーライトくーん」
「ちょっと待てええええ!」
ずっとバンダナとゴーグルに話しかけているシロクマくんから、ライトくんはそれを取り上げた。
「とりあえず返せ! っていうか何やってんだ!」
「えっ、君だれ?」
「だから俺はライトニングストーンだって言っただろ!」
「えっ、ライトくんはこっちじゃなくて?」
シロクマくんが、ライトくんが取り上げたバンダナとゴーグルを指さして言った。
「これは! 俺の! 衣装の! 一部!」
「シロクマくん……」
ライトくんが取り返したバンダナとゴーグルをつけはじめて、僕はシロクマくんの肩をぽんと叩いた。
「ライトくんの本体はゴーグルじゃないからね……」
「んん?」
「ねえいつも思うんだけど、それわざとやってるの……?」
今までにも、アヤサキくんのお面を本体って言ったり、エッジくんの上着を本体って言ったり、扇舞くんの帽子を本体って言ったり、シロクマくんは前科だらけなんだけど、そろそろちゃんと叱った方がいいかなぁ……?
「何の話かなー、オリジナルさん」
シロクマくんはそう言いながら、僕のネクタイを手にとった。
「だからネクタイも僕の本体じゃないから!!」
「えっ、じゃあこっち?」
今度は僕の前髪をシロクマくんが掴んだ。
「違うよ! っていうか頑張ってセットしてるんだからぐしゃぐしゃにしないでー!」
結局、シロクマくんには僕もライトくんも振り回されっぱなしのまま、何とか部屋に戻った。
エレメントはキュートだから、同じ部屋にはエッジくんとスクジャくん、スターマインくん、ラディカルくん、あと水着くんがいることになるけど、
皆大変かも……でも、面倒見切れないから、任せた。僕はもう知らない……。