交差#20「劣等感と自然体」

「次の曲はソロじゃないな」
次のステージに向けて、ライトくんが、花の冠をかぶりながら言った。
「あ、そっか。ソロだけじゃなかったね。忘れてたよ」
いつも見届け役の僕は、ステージに行く前のライトくんの話し相手だ。
「だれか一緒にステージに立ってくれる人を呼んでこなきゃいけなかったなあ」
「……別にそれ、オリジナルさんでよくない?」
「へ?」
ライトくんに言われて、僕は面食らった。
「いつもいるわけだし、手間もかからないだろ?」
「ええ……僕はもうずっと見守る気でいたのに。
あっそうだ、もうこれからはアペンドを説明役につけるからさ。
万が一ステージ失敗したら、どうせ次はアペンドが代わるんだし、それの方がいいよ!」
我ながらいい考えだと思う。そうだよ。そうしておけば僕は部屋でごろごろして待ってられる……。
「でももう準備しちゃったぜ。今回はオリジナルさんが一緒に出てくれよ。な?」
「うーん……」
僕の心の準備は全然なんだけど……。
「何だよ、はっきりしないな。オリジナルさんって俺たちの代表なんだろ。
本来率先して俺たちに見本を見せてくれるんじゃないのか?」
「僕にそんな期待してたの? そんなじゃないよ。
皆に見本を見せるのは、むしろアペンドの方が適役だよ」
「……」
ライトくんはいまいち納得いかない顔をして、僕の目を見るのはやめた。
でも、本当にそうなんだもん。
僕なんかより、あいつの方が、優れてて、……僕なんて、ただ先に生まれただけの……。
「俺って新入りだから、全然オリジナルさんのこと知らないし、
オリジナルさんの聞かせてくれる他の人の話だって、まだ自分じゃ全然感じてないんだよ。
だからオリジナルさんがどんな人か知りたい。
口だけで自分の方が大したことないなんて言われても、信じられやしないな」
僕の劣等感には全く触れずに、ライトくんはそう言った。
こんなこと言われたら、もう僕には返す言葉もない。
僕が言ってたのは全部、わがままでしかないんだよね……。
僕の都合を、ほかの人の迷惑にするわけには、いかないし。
「……あー。ごめん。ちょっと僕が訳わかんないこと気にしすぎてたよ。
そーだよね、僕が一緒に出るのが手っ取り早いよね」
「だから最初にそうだって言ったじゃん」
「でも、今度ソロじゃないときは、他の人も呼んであげたいと思うよ。
またステージに立ちたいって思ってる人だっているからね」
「じゃ、それはまたそのときに考えよう」
ああ、うっかりだな。こんな弱い考えを皆に見せるつもりなんてなかったのに。
……なかったなら、このステージは、お手伝いでもちゃんとやりきらなきゃ!

ソロじゃない二人のステージだから、お互いの息を揃えることも大事だ。
僕はライトくんと何度も目で合図しながら、曲に合わせて踊った。
お互いにお互いを誘導して、うん、いい感じだ。
お客さんも、盛り上がってるみたいだし、この調子ならこのステージは大丈夫そうだね。

そして、変身の時を迎えた。
「お、今回も誰か来てくれてる」
「あっ、扇舞くんだ! 来て来て!」
ステージの袖で扇舞くんが待ってくれていた。
ライトくんに案内してもらって、扇舞くんがステージに上がった。
「あとちょっと、僕と一緒にステージで踊ってくれる?」
「もちろんです!」
僕に扇舞くんは笑顔でそう答えてくれた。
曲の残り、扇舞くんは途中からでもちゃんと踊ってくれて、たまに僕を見てくれて、
……なんとなく、信じてもらえてるというか……そんな気がして、
僕もそれに応えて、踊り終えた。ステージも、成功だ。

「お疲れさまー。いらっしゃい扇舞くん」
「こんにちはー」
扇舞くんは、軽く帽子の向きを手で整えて、僕とライトくんに礼をした。
「こっちはここで新しく来た仲間だよ」
「ライトニングストーンだ」
「はじめまして。オリジナルさんが言ってくれてましたけど、正式には弐ノ桜・扇舞といいます」
「そうか。よろしく」
やっぱり扇舞くん、初対面の人には丁寧に接するなぁ。
「扇舞くん、またこれで後輩が増えたことになるわけだけど」
「はっ……そ、そっかぁ……」
自分が先輩であることに言われて気づいたみたいで、
扇舞くんはライトくんの顔をちらちらと見ながら、ちょっと顔を赤くしている。
「鶴くんには、先輩になるなら堂々としろって言われるんだけど、ついつい忘れちゃうな……」
「はは、僕は自然体でいいと思うんだけどね。
ライトくんだって、先輩後輩とか気にせずに普通に話してくれるし」
「俺は丁寧に話すのが性に合わなくて、どうしてもな……」
表情を見る限り、ライトくんも多少は先輩に対する話し方に不安があったのかもしれない。
でも、とりあえず僕と扇舞くんに関しては、あまりそういうことは気にしない方だ。
「いいと思いますよ、……あ」
扇舞くんは言って、口を押さえた。思わずまた、丁寧になってたみたい。
「いいと思うよ!」
そう言い直されて、ライトくんは思わずふきだした。
「面白い先輩だなぁ」
「べ、別に僕以外にも面白い人なんてたくさんいるし……!」
扇舞くんはそう言って、慌てて歩き出した。
「出口こっちですよね、は、早く行きましょうっ」
僕は言われて、仕方なく部屋に誘導した。

部屋に行く間、扇舞くんには今来ているメンバーの話をすることにした。
「あ、ちなみに鶴くんはまだ来てないよ」
「そうなんですね……。え、他に来てるのは誰ですか?」
「うーん、もう今20人ぐらいになってるけど、扇舞くんと仲いい人だと、まだトリッカーくんも来てないし、
それに執行部くんも来てないし……」
「トリッカーくんはおいとくとして、執行部くんは別に仲良くないですけど」
「えっ、そうなの。学生服っぽいところが似てるから……」
「似てるからって仲がいいわけじゃないです」
「あ、そう……」
なんかごめんね……と、僕は目をそらした。
それにしても、扇舞くんってそこまで人の好き嫌いしなさそうに見えるけど、
執行部くんにはちょっと態度が違うように感じるな。よく知らないけど……。
「うーん、あとは、……和服つながりなら藍鉄くんとアヤサキくんが来てるね」
「そうなんですね。いつも鶴くんとなら一緒に話すんだけど……」
「そんなに鶴くんが必ずついてくるの?」
「えっと、仲良くなるきっかけには鶴くんがいる、って感じで。
鶴くんは色んな人と話そうとするし、僕をよく連れて行ってくれる……から」
多分だけど、鶴くん自身はかなり友好的で、よく人の心配をしてくれるけど、
それと同時に後輩としてかなり扇舞くんをかわいがっているのかもしれない。
それで、扇舞くんもずっと慕ってるってわけだ。
「うーん、でも最近は藍鉄くんとはよく話すようになったし、部屋に行ったら話そうかなぁ」
扇舞くんがそう言って、僕ははっとした。
確かに扇舞くんと藍鉄くんは性格に共通点もあるし、仲良くなってるとは思うけど、
それは、こっちに来る前の話だ。今話したらどうなるか……。
「あっ、あのさ、藍鉄くんなんだけど」
僕がそういう頃には、もう部屋のドアの前まで来ていて、
話しながら扇舞くんはドアを開けていた。
「あー! 扇舞さんだー!」
そして、ドアを開けた先で待っていたのが、藍鉄くんだった。
「えっ、藍鉄くん……?」
両手をあげて手を振っている藍鉄くんに、扇舞くんはびっくりして固まってしまった。
「お久しぶりー!」
「お、おひさ……し、ぶ……」
扇舞くんが何とか声を絞り出して答えていると、カオスエレメントの部屋のドアが開いた。
「藍鉄くーん、あそぼー、にゃー」
開いたドアから、トムくんが手招きしている。
「遊ぶー! あっ、それじゃーねー!」
藍鉄くんはそう言って、部屋に入っていってしまった。
「……」
扇舞くんはしばらく閉まったドアを見つめて、それから、
後ろに立っていた僕の方へ、何も言わずに顔を向けた。
「藍鉄くんなんだけど、こっちにきてからあの調子なんだよね……って、ちょうど言おうとしてたんだけど……」
「う、嘘でしょ……」
そう言いたくもなるよね、と、うつむく扇舞くんに合わせて僕も目を伏せると、
今度はビューティエレメントの部屋のドアが開いた。中から出てきたのは、アヤサキくんだった。
「あ、アヤサキくんだ」
僕が言うと同時に、アヤサキくんは扇舞くんの前にすたすたと歩いてきた。
「話がある」
アヤサキくんはそう言うと、ついてこい、という感じで、廊下の方へ向かって歩き始めた。
「……何だろう」
「呼ばれてるなら、行ってきなよ」
「はい」
不安そうな扇舞くんに僕は言って、見送った。
……さすがに、何を話してるか、僕が見に行くわけにはいかないか。
ライトくんの次のステージもあるし、僕はそっちに集中しようか……。