交差#20.5「闇の見定め」

#視点:扇舞さんです

新しい場所に来て早々、僕は驚いてばかりだ。
オリジナルさんにつれてきてもらった部屋で会った藍鉄くんが、あんなに明るかったこと。
それに、今、こうしてアヤサキくんに呼び出されていること。
正直藍鉄くんの様子に驚いたせいで放心状態だったのに、
そこにさらにアヤサキくんが現れて、どうして、僕に話があるんだろう。

ステージがある方とは反対の方へ、早足でアヤサキくんは歩いて行く。
僕は必死でそれについて行った。こっちは、どこに繋がってるかすら、僕はまだ知らない。

やがて、中庭のような場所に出た。
そこでアヤサキくんは立ち止まって、僕の方を見た。
「ここは、そうそう誰も来ないだろうな」
アヤサキくんは言った。そんなこと、まだ僕は分からないけど。
「……お前は「霊」とか「闇」とか、そういうのは分かるか?」
静かな声で聞かれて、僕は息の音も気をつけなければいけないぐらいに緊張した。
「そういうのは……あまり」
僕が答えると、そうか、とアヤサキくんがため息をついた。
「桜花さんの仲間だから、分かると思っていたが、違うか」
「ああ……桜花さんには、そういうことは何度も教えられそうになったけど、
正直僕には手に負えない世界だと思って、諦めてたから」
桜花さんは、妖怪とか、悪霊とか、そういうのと対峙できる能力があるんだけど、
僕はその見習いになりかけて、でも実力がなくて、すっかり修行なんてしなくなっちゃった。
大体、普通に暮らしている限り、そんなものとは遭遇なんてしないし。
「多少は、そういう感覚を磨いておいた方がいいと思うぞ」
「そう……かな……。僕なんて一般人なのに」
「お前には多少素質があって、それは他の皆にはあまりないものなんだ。
素質があるなら、万が一のために、身につけておくべきものはあると思う」
まさか、そんなことを言われるなんて思っていなかった。
単純に、アヤサキくんは妙に後輩とは思えずにいたけど、余計にそう感じてしまう。
「……ねえ、でも、今までこんな話僕にしたことないよね。
アヤサキくんが多少そういうのに詳しそうだとは思ってたけど、どうして今そんなことを?」
僕が聞くと、アヤサキくんは少し僕に近寄って、声を潜めた。
「近くに、闇を感じるから」
「近く……?」
「俺のかすかな記憶にある闇とは違うかもしれないが、あまり、いい予感がしないんだ」
アヤサキくんのいう記憶の話が何なのかも分からないけど、でも、アヤサキくんが言うんだから間違いないだろう。
「さっき藍鉄さんには会ったな?」
「え、うん、会ったけど……」
「様子がおかしかっただろ」
「確かに前とは全然違ってびっくりしたけど、それが闇とかいうのと関係あるの?」
「問題なのは藍鉄さん本人じゃなくて、妖狐の方だ。
まだ会ってないだろうけど、今妖狐は藍鉄さんとは別にいる」
そうなの、という間もなく、アヤサキくんは続けた。
「部屋が同じだから、しばらく妖狐の近くにいたが、名前に嘘がない、とでもいうのか。
あれは確かに妖怪の類だ」
「妖怪って……」
「妖怪だからといって、俺たちに害をなすとは限らない。
現状、俺も何かされたわけではないが、どうして二つの姿になったのかも、
様子がおかしくなったのかも分からない。だから俺はずっと疑っている」
「疑う、っていうのは、妖狐の藍鉄くんを、っていうこと?」
「……そうだ。
だが、俺はどうも、すぐに物を悪と決めつける癖がある。
この手で誤って何かを斬ってしまうことになりかねない。
だから、お前にも、妖狐の善悪を見定めてほしいんだ」
何だか、とても僕にはできないことを、頼まれてしまった気がする。
「僕にそれを頼むの……?」
「……俺も、誰にこのことを相談すればいいか、今まで分からなかったんだ。
やっと、相談できる相手が来てくれたと思って、お前に言ってるんだ」
さっきの「素質がある」といい、僕には全く自覚がない。
でも、確かに、あの藍鉄くんを見てしまった以上、僕も気に掛かってしまうから。
「できる、限りのことは」
僕はそう答えた。