※3話分まとめになっています
聞けば浴衣くんのエレメントもキュートらしくて、
今、キュートエレメントの皆はほとんどお出迎え隊に付いてきてくれたから、
これから部屋にはこのメンバーがいるんだよ、という紹介は、ステージの下でされることになった。
そしてそのまま、次のステージには浴衣くんもついてくることになった。
「まだ来たばっかりだからしばらくはここにいるけど、
また落ち着いたら祭りに出かけてくるよー」
「浴衣くんいっつもそれだよねぇ……」
それでいつも浴衣くんにはバナナを渡してなかったんだけど、と思いながら僕が言うと、
「知ってる? 祭りの屋台には、必ずと言っていいほどおいしいバナナがあるんだよ」
浴衣くんがひそひそ声で言った。
周りの皆は、個人差はあるけど、きっとそのおいしいバナナが気になって、つばを飲み込んだみたいだった。
「何それ。ずっとそれを僕に言わずにいたの!」
そう声を上げたのは、ストレンくんだった。ストレンくんは人一倍バナナが好きで、いつも僕が配るバナナ以外にも、自分用にたくさんバナナを確保しているほどだ。
「えっ、言わなきゃいけないなんて聞いてな……」
「知らないのぉ? そういうバナナがおいしい話は、真っ先に僕に言わなきゃいけないんだよ?」
「う、うっそ」
「君後輩でしょ? 先輩への報告は絶対!」
浴衣くんがストレンくんに脅されてる……。確かに浴衣くんが後輩なのは確かだけど、
また、ストレンくんの先輩願望が爆発している。
「大丈夫だよ浴衣くん、そんな決まりないから」
僕が言うと、ストレンくんは舌打ちした。
「僕が決めたんだよ。今決めたの!」
「はいはい無効無効」
「んもー!」
ストレンくんは悔しそうにひっこんでいった。
「で、そのおいしいバナナって何?」
「オリジナルも聞いてんじゃねーか!」
僕が浴衣くんに聞いた途端、パンキッシュくんに突っ込まれてしまった。
「だ、だって、おいしいバナナだよ!?」
「お前とストレンは、ほんとバナナに関しては執着がひどいからな……全く」
パンキッシュくんは呆れた声で言ったけど、しっかり浴衣くんの話に耳を傾けてたってことじゃないか。
「で、おいしいバナナって」
「今度はアペンドかよ!」
いつの間にか浴衣くんの横にはアペンドがひょっこり現れていた。
「揃いも揃ってお前ら……」
「浴衣くんからいつまでたってもおいしいバナナの話が聞けないから。待てない」
だよね、と、アペンドが僕の方を見てきた。
「うん、待てない。パンキッシュくんがいちいち突っ込んでくるから」
僕は答えてパンキッシュくんを見た。
「だーっもう! おい浴衣、こいつらめんどいから早く言ってくれ……」
パンキッシュくんにそう言われて、浴衣くんは苦笑いして話してくれた。
「チョコバナナだよ。バナナにチョコがかかってる」
「おお……」
ただでさえバナナがおいしいのに、そこにおいしいチョコがかかってるなんて、おいしいしかありえない……!
聞いていた皆も目を輝かせているみたいだ。
聞いたことないわけじゃないけど、やっぱり特別なものってイメージが強かったし……。
でも、それを浴衣くんは出かけるたびに食べてるってこと……抜け駆けだ。
「それ持ってきてよ!」
ひっこんでいたストレンくんに言われて、また浴衣くんはびびった。
「ま、また今度、皆で食べにい……行きましょう……」
ストレンくんからの視線にびくびくしながら、浴衣くんはそう言った。
バナナの話はとりあえずその辺にしておいて、次のステージに着いた。
ここでキュートエリアの曲は終わりみたいだ。
「よし、メドレーだな。気合い入れるぞ!」
ライトくんが早速ステージに上がっていった。もう準備万端なんだな。
早速曲を始めてくれって感じだったから、すぐに曲が流れ始めた。
「ライトくんはたくさんステージに立っててすごいなあ……」
ラディカルくんが、ステージで踊るライトくんを見てつぶやいた。ラディカルくんはライトくんと同じ、ここでの新しい仲間で、エレメントの象徴モジュールだってことも同じだし、こんなにステージに立つ回数の差をつけられてるのは寂しいかもしれないな……。ライトくんは新しい仲間を呼ぶのが得意だからずっと立ってもらってるわけだけど。
「キュートのメドレーだし、やっぱりラディカルくんが似合いそうなのは確かだね」
ラディカルくんがつぶやいたのを横で聞いていたスターマインくんが話しかけている。
「でも、ライトくんは頑張ってくれてるし、それにすごく様になってるし、ああいうのもいいよね。
僕もあれを見習って、今度あの曲で踊りたいなあ」
「きっと皆が集まったら、今度は僕らそれぞれがステージに立つ機会があると思うよ。今までもそうだったし。そのときはラディカルくんのステージを見に行くよ」
「はい、僕もスターマインさんの出番の時には絶対見に行きます!」
「えへへ、楽しみだねー」
すっかりスターマインくんとラディカルくんが仲良くなってて、安心するというか、微笑ましいなあ……。
メドレーだから長いけど、曲は無事進んでいって、変身するタイミングが近づいてきた。
お客さんの盛り上がり方はまずまずで、成功するかどうかはなんとも言えない……。
そう思っていると、突然、何かが落下する音が聞こえた。
「……また邪魔かよ」
アペンドが言ったのが聞こえたと同時に、今度はステージと客席の照明が落ちた。
曲は流れ続けている。でも、ライトくんの姿も、互いの姿も見えない……。
「な、なあ、交代のタイミングなんだけど……」
ライトくんの声が聞こえる。
「だれか行かないと」
アペンドが僕を含めた皆に言う。
「で、でも、ステージに行けなくない? 何も見えないよ……」
僕は、アペンドの服で発光している部分を見て、アペンドのいる場所を把握したけど、それだけじゃ何の解決にも……
と、思ったら、他に発光している何かが見えた。
あれって、祭りの夜店で売ってる光るおもちゃ……。
「浴衣くん、ステージに行って!」
「えっ、僕!?」
「その光ってるやつで照らしてステージに行って!」
「こ、これ……!?」
暗闇で色とりどりの光がゆらゆらしている。
「足元見えそう?」
「暗いところは慣れてるから、割と見えるけど……」
そうか、祭りなんていつも夜にやってるし、浴衣くん、割と暗いところでも大丈夫なんだ!
「おい、早く、もう時間が……!」
ライトくんが呼んでる。
「待ってて、行く!」
下駄の音が響いて、それが遠ざかった頃、少しずつ照明が点き始めた。
なんとか、浴衣くんはステージに立っていた。
でも、照明が落ちていた間にも曲はずっと流れ続けて、もうほぼ曲の終わりに近づいていた。
それでも最後までやれることをやらなきゃ。浴衣くんは曲の終わりまで踊ってくれた。
……当然、だけど、ステージは失敗に終わった。
「突然でよく頑張ったよ、ありがとね」
沈む客席の様子に落ち込んでいる浴衣くんに、僕は言った。
「新しい人も来てなかったみたいだし、仕方ないな。さすがにあの状況じゃ来れないよな」
ライトくんも残念そうな顔でそう言った。
「でも、まさかこれがあったおかげでステージに行くことになるなんて……」
浴衣くんは握っていた光るおもちゃを掲げてみせた。イルカの形をしたプラスチックの半透明なおもちゃの中で、周期的に発光を繰り返している。
「そんなの買ってたの?」
子供かよ、みたいな顔でストレンくんがおもちゃを覗きこんでいる。
「た、たまたまだから……!」
恥ずかしそうに浴衣くんはおもちゃをしまった。