交差#23「和の凜々しさ」

ニュートラルの部屋では、先に部屋に入っていたイレイザーくんが椅子に座っていた。
「お疲れ様」
「オリジナルさんもお疲れ様です。……僕は見ていただけだし……」
「それは僕もそうだけどね」
僕も空いている椅子に座った。イレイザーくんは、部屋をなんとなく見回していた。そして、今入ってきたドアとは違うドアに目線を止めた。
「あ、気づいたよね。ドア一個増やしたの」
もともと壁だったところに、ドアを増やして、その奥に、さっき用意した部屋がある。
「いずれ前みたいに、皆に一つずつ部屋を用意するつもりなんだけどねー」
「部屋というのは、毎回突然増やしているのか……?」
「いや、いつもは何人いるとか分かってるし、一気に作っちゃうんだけど、今回は一人一人呼ぶのに時間がかかるし、……それに、今ぐらい、何人かで一緒に過ごすのも悪くないと思わない?」
「……そうかもしれない、ですね」
同意は得られたけど、説得力ない話だよね……ここには僕とイレイザーくん以外いないし……。
「うん、増やしたのはアペンドの部屋なんだけど、しばらくあっちで休ませることにしたんだ」
「そうだったんですね。今も寝ているんですか?」
「今は起きてるよ。でも、できるだけ寝たいってさ」
「そうですか……あれだけ疲れていたなら、そっとしておくってこと……」
少し残念そうな表情を見せたけど、やっぱりイレイザーくんは素直に話を聞いてくれて助かる。
「だから、元気になるまでは、あの部屋もそっとしておいてね」
「はい」
しばらく、僕達は休んでいたけど、ある程度休憩したら、次のステージに行かないとね。
「イレイザーくんはまたステージについてきてくれる?」
「そうするつもりです、ここにいても仕方ないから」
「ありがと。どうせアペンドも僕もここにはいないしね」
僕達はそう話して、部屋を出た。
共用スペースに出ると、ライトくんとパンキッシュくんが立っていた。待ちくたびれていた、みたいな顔で僕たちを見ている。それと、離れたところでバッドボーイくんが立っていた。
「ん? バッドボーイくんも来てくれるの?」
僕が声をかけると、バッドボーイくんはうなずいた。
「クールエリアだし、来いよって説得して、やっとなんだよ! やっとついてきてくれるって!」
パンキッシュくんが嬉しそうに言った。……おおむね無理やりだった気がする。
そして、キュートの部屋から変わらないメンバーが出てきた。
「そろそろ行くんだよね!」
「うん、……張り切ってるね」
相変わらず、なぜか水着くんが先頭だ。
そして、カオスの部屋からはストレンくんがで出てきて、後ろからトムくんが出てきた。
「あー、邪魔くさい、ブルームーン……」
ストレンくんが悪態をついてる。この様子だと、ブルームーンくんは藍鉄くんと話したくてカオスの部屋に入り浸っているのかな。
「あいつが来てから藍鉄くんが遊んでくれないにゃー!」
トムくんはそう言って、ストレンくんの後ろからしがみついた。
「もうっ、お前もうっとうしいっ! 藍鉄は優しいから遊んでくれてたんだよっ!」
「ストレンくんが遊んでよー!」
「嫌だっ、一人で遊んでろ! ていうかもっとおとなしくしろ!」
ああ、さすがに先輩面したがるストレンくんも、トムくんには手を焼いてるんだな……。大変そうだ。
「ねーえトムくん、僕と一緒にステージ見に行こうよ」
べたべたとストレンくんに甘えているトムくんに話しかけたのは、ラディカルくんだった。
「えー。遊ぶ方がいいよお」
トムくんはストレンくんの首辺りを腕で抱いていて、ストレンくんが苦しそうだ……。
「何言ってるの、ライトくんがこんなに活躍してるのに、僕らも負けてられないよ?」
それでも遊びたいんじゃ……と思ったら、急にトムくんははっとした顔になって、ストレンくんから離れた。
「……言えてる!」
「分かってくれた? よーし! 一緒に行こう!」
「余裕そうに部屋でくつろいでるブレイブくんを出し抜かなきゃ!」
「そ、そういう意味じゃなかったんだけどな……」
まさか、意外と野心家……? 考えが読めないよね……。
「ラディカルくんが相手してくれるならちょうどいいや……」
ストレンくんは安心したようにため息をついている。そして、僕の方を見た。
「はあ、変なことで疲れちゃった。僕、後で行くよ」
「そう? 気が向いたら来てね」
「そーする。しばらくここにいる」
ということで、ストレンくんはステージにはついてこないことになった。

メンバーがちょっと変わって、また僕達はステージに戻ってきた。ライトくんがステージに上がって、早速曲が始まった。
休憩も挟んだし、勢いに乗ってるね。
それに、何といっても自分のエレメントだし、前と同じで余裕そうだ。

そのまま、交代のタイミングを迎えた。
「おーい! 続きを!」
「うん、行くよ!」
誰か来てくれてたみたいだ。走ってくる音が聞こえる。
黒と赤の和服に、腰の花の飾りが揺れる。
少年らしく凜々しい出で立ちの彼は、
「鶴くんだ!」
扇舞くんが呼んだ名前の通りだ。
激しい振りを引き継いで、鶴くんは踊って見せた。
昔、出番があったとき不安そうにしてたのなんて、もう面影もない。自信に満ちあふれた表情で決めてくれた。

「先輩ー!」
今まで、比較的皆の中では落ち着いていた扇舞くんが嬉しそうにしていて、心なしか皆驚いている。
「扇舞くん、その先輩っていうのはやめよっか……? そんなに先輩でもないし」
「あっ、そうだった……鶴くん」
先に見てたブルームーンくんと藍鉄くんの再会に比べたら、微笑ましい方だけどね。
「さっきから扇舞くんがいってくれてる通り、鶴くんが来てくれたよ。よろしくね」
「よろしくー!」
とりあえず拍手で迎えて、それから、次のステージのことを考えることにした。
「……あの、僕、少し抜けてもいいですか?」
扇舞くんが僕に聞いてきた。次のステージにはついてこないってことみたい。
「え? うん、それは自由にして大丈夫だけど……」
「ありがとうございます。あの、鶴くんは僕が部屋に案内するので」
「それは助かるなー。じゃあ、頼んだよ」
「はい」
扇舞くんは廊下の方へ鶴くんを案内して、いなくなった。
「どうしたんだろ?」
水着くんが首をかしげたけど、
「まあ、気にするなよ。それより俺達は次、だろ?」
パンキッシュくんが言って、僕達は次の曲のステージに移動し始めた。