交差#23.5「分離の真実」 - 1/2

※2話分まとめになっています

#視点:扇舞さんです


僕は、オリジナルさんたちのステージ巡りから抜けて、来てくれた鶴くんを連れて、部屋の方へ向かった。
「あれって、一緒にいなくていいやつなのか?」
後ろから、鶴くんに話しかけられる。
「大丈夫だよ、皆ついてきてる訳じゃなくて、部屋に何人も残ってるし」
「そうなんだ?」
別に、オリジナルさんたちと一緒に行ってもよかったのだけど、鶴くんには相談がしたかったから、こうして部屋を案内するという口実を作って連れ出した。
「部屋に残ってる中に、藍鉄くんもいるんだけど、藍鉄くんのことで相談があるんだ」
廊下の途中だけれど、僕は一旦立ち止まった。
「藍鉄くんが何かあったの?」
鶴くんの方に振り返ると、鶴くんは首を少しかしげて言った。
「僕達、藍鉄くんは妖狐の姿になれるって聞いてたでしょ。でも、今、藍鉄くんと妖狐の藍鉄くん、別々にいるんだよ」
「えっ!?」
「それにね、藍鉄くんの性格が、何ていうか……全然違うの。会った方が早いかもしれないけど、すっごく明るいっていうか、幼いっていうか……」
「ぜ、全然想像できないんだけど」
鶴くんは、ちょっと想像しようと腕を組んでみたみたいだけど、すぐに横に首を振った。
「それでね、相談の本題はここからなんだけど、……アヤサキくんに、言われたことがあって」
僕は、アヤサキくんに話された、「妖狐の善悪を見定めること」を、鶴くんに伝えた。
「それから、僕も見かけたら、藍鉄くんの様子も、妖狐くんの様子も、気にかけてはいたけど、全然分からないんだ……」
妖怪の力とか、アヤサキくんの感じているらしいものも分からないし、確かに昔と違うことは分かっても、それが問題なのかというのは、分からない。
「僕も妖怪なんて全然分からないけど……」
「で、でも、僕も分からなくて。アヤサキくんは、僕に「やっと相談できそうな相手が来た」なんて言ったけど、僕には何もできないよ……」
自分の手袋の中で、汗が蒸れるのを感じて、僕は思ったより焦っているのを自覚した。
「……そっか、扇舞くんも、何もできないって言える相手がいなかったんだね」
鶴くんが、僕の肩の辺りにそっと手を乗せた。
「それで僕に話してくれたのなら、少しは気分が軽くなった?」
「……」
鶴くんは、すごいな……。分かったんだ。
僕も、よく話すから相談してみようって、思わず連れてきただけのつもりだったけど、僕はこの焦りを何とかしてほしかったんだ。
「僕もよく分からないのは同じだと思うけど、藍鉄くんのことは気になるから。とりあえず、会ってみたいかな」
「……うん、じゃあ、部屋に戻ろっか」

こうして僕達が部屋に向かっていくと、ちょうどブレイブくんとランサーくんが部屋を出て、僕達の方へ向かってきた。
「あの人たちは?」
「こっちの新しい仲間だよ。紫っぽい方がブレイブ・バタフライ、もう片方はホーリィランサーっていうんだって」
「へえ……なんか大人っぽいなあ……それに色っぽいところ、鳳月とちょっと似てる?」
「二人ともエレメントがビューティなんだって。鳳月くんは来てないけど、ビューティなんじゃないかなあ」
そんなことを話しているうちに、二人と僕達の距離はかなり近づいていた。
「おかえりなさい、かな?」
「はい、とりあえず……」
ブレイブくんに言われて答えると、ランサーくんが、僕をじっと見た。
「僕達の方が後輩……」
小さい声で言われて、僕ははっとした。
「はっ、はいじゃない! うん! 部屋を案内しに来たの!」
「扇舞くん、なんでそんなに必死なの……」
「だ、だって鶴くんが、先輩なら先輩らしくって言ってたから、僕はそれを守ろうと!」
今でも初対面の人にはつい丁寧になる癖があるけど、鶴くんが言ってたから、できるだけ敬語とかやめようって意識してたのに。
「はい、でもよくない? 二人とも大人っぽいし、無意識にそうなっちゃっても仕方ないかなって思ったんだけど」
「えーっ何それ!」
鶴くんがこんなときだけ緩い……。
「大体、ホーリィランサーくん、だっけ? 君が気づいて言っちゃうから、扇舞くんがこんなに大慌てしてるんじゃ」
鶴くんがランサーくんに向き直って、ちょっとだけ睨んでいる。
「扇舞くんが先輩らしく頑張ろうとしてると、ライトくんから聞いていたから、どんなものなのか見てみたかった……というと、いじわるかな?」
「目の前で面白いものを見られたよ」
ランサーくんとブレイブくんが顔に優しげな笑みを浮かべている。僕、後輩にからかわれてる……?
「いじわるだな! あまり扇舞くんをからかうと、僕が黙ってないからな」
僕をかばう鶴くんが、すごく先輩らしく見えた。
「はいはい、わかりました。……失礼ですが、どなたでしたか?」
改まって丁寧な言葉で、ブレイブくんが尋ねてきて、鶴くんの顔が赤くなった。
「も、申し遅れたなっ、僕は鶴だ、よろしく!」
「よろしくお願いしますね、先輩」
「あー、なんかこの二人に先輩って言われるのむずむずするなー! アヤサキくんもそうだけど、後輩に謎の威厳がありすぎるんだよ、もうっ」
騒ぐ鶴くんに、二人は呆れながらも笑っていた。
「ところで、扇舞くんと鶴くんはこれから休憩するの?」
「休憩っていうか、こっちに藍鉄くんがいるって聞いたから、会いたいと思って」
「まだ部屋にいるようだよ。ブルームーンくんとずっと話しているみたいだ」
「ブレイブくんとランサーくんは?」
「リンモジュールの部屋に出掛けてくるんだ。そこでダンスを練習する約束になっていて」
「そんなことしてたの?」
「オリジナルさんが、こっちに新しく誰が来たかをリンモジュールの皆に全く伝えてないらしいんだ。それを代わりに伝えるのも兼ねてね。ずっと相方を待ってる人もいるようだし」
「ああ、雨や桜月にもあとで会わないとなあ」
「ぼ、僕も胡蝶に全然会ってないっ」
ずっと部屋で何してるんだろうって思ってたけど、そういうことだったんだ。
胡蝶には今すぐにでも会いに行きたいけど、そのために戻ってきた訳じゃないし、我慢だな……。
僕達はそこで別れて、鶴くんと僕は部屋へ入った。

「おじゃましまーす……」
カオスエレメントの部屋の戸を叩いて、そっと中を覗くと、目の前にストレンさんが立っていた。
「何の用?」
ストレンさんは、じとっとした目で僕達を見た。……歓迎されてなさそうだ。
「あの、鶴くんが来たので、藍鉄くんと会いたいって……」
僕が言うと、ストレンさんは腕を組んで、僕と鶴くんを爪先から顔まで一通り眺めた。
「騒がないって約束ならいいけど。少なくともブルームーンよりはお前らの方がましそうだから心配はしないけど、……何で藍鉄はそんなに人気があるんだよ」
不機嫌そうなままだけど、ストレンさんは横に動いてくれて、僕達を部屋の中に入れてくれた。
中では、藍鉄くんとブルームーンさんが楽しそうに喋っている。もう結構な時間が経っていると思うけど、話すことは尽きないのかな……。
「ずっとこれだよ? ほんっとこっちの身にもなってほしいよ」
ストレンくんが、ぽかーんとしている僕達に言って、僕達も表情でストレンさんに同意した。
「あのさ藍鉄、せっかく会ったし、俺の頼みも聞いてくれないか」
「なーに?」
ブルームーンさんが何か頼もうとしているけど、……何だろう。
「……尻尾……触りたいから、妖狐になってくれないか?」
噂には聞いてたけど、本当に尻尾を触りたがってたんだ……やっぱり意外すぎる。
でも、今の藍鉄くんは、
「それ、前も誰かに言われたんだけど、僕、なれないよ?」
そう答えるよね。
「何を今更」
ストレンさんがあざ笑うように呟く。
「……」
ブルームーンさんは、しばらくはっとした表情のまま固まっていたけど、すぐににこっとした。
「そうやって一度は断るんだよなー? 分かってるよ」
まるで甘い親みたいだ……ていうか、今回のは「なりたくない」じゃなくて「なれない」なのに……分かってないみたいだ。
「俺は狐のお前もちゃんと慣れてるから。何の心配も要らない。気にしなくていいんだよ」
「……心配って何の話? それよりまだ話してないことがたくさんあるよー、話そうよー」
優しいブルームーンさんを完全に突き放して、藍鉄くんがまるでわがままな子供みたいだ。
「……藍鉄がそういうなら仕方ないなあ」
ブルームーンさんはブルームーンさんで、本当に子供を溺愛するような態度だし、……僕達はいつになったら話せるんだろう?
「お前らさあ、ブルームーンなんか追い出して藍鉄と喋っていいんだよ」
ストレンさんが僕達に言って、それから、戸を開けた。
「もうあいつらが喋ってるの見飽きた!」
「え、どこに……」
「この部屋は任せたよっ」
ストレンさんはそう言い残して、部屋から出ていってしまった。
「……どうする?」
僕は鶴くんに聞いた。
「……どうって、……うーん」
「あ、でも、藍鉄くんがどんな感じかっていうのは分かった?」
「分かった。……はっきり言うけど、変だね」
鶴くんはきりっとした顔で僕に言った。やっぱりそう思うよね……。
「お前ら、いつからそこにいた?」
「!」
気が付くと、ブルームーンさんが、僕達の方を睨んでいた。
「えっ、あ、あの……!」
「な、何でもないです!」
鶴くんが僕の手首を掴むと、ぐいっとひっぱって、戸を開けて外に走り出した。そして、僕も部屋の外に出たのを確認すると、戸を勢いよく閉めた。
「なっ、何急に!」
僕が聞くと、鶴くんは戸に背を押し当てて息を吐いた。
「邪魔するなって言われそうで怖かったから……」
「う、うん……」
結局、一言も話せなかった……。
「お前達」
息をつく暇もなく、誰かに声をかけられて、僕と鶴くんは慌てて声の主を見た。
「ひっ、……あ、アヤサキくんか」
また誰かに睨まれているのかと僕は思ったけど、違った。多少、顔は険しいけど、僕達を睨んでいるのとは少し違う。
「お久し振り!」
鶴くんが言うと、それにアヤサキくんはうなずいて、それより、と真剣な顔をした。
「さっき、妖狐がストレンさんと一緒に出ていった」
「……え?」
「多分、中庭だろう。……つけよう」
僕達三人は、妖狐くんとストレンさんの後を追うことにした。