※3話分まとめになっています
扇舞くんと鶴くんが抜けて、僕達は次のステージへ向かった。
「クールエリアに来てからは調子よさそうだな」
パンキッシュくんがライトくんの背中をぽんぽんと叩いている。
「ここで本領発揮できなかったら、クールエレメントを背負えないからな」
「それは確かに。じゃ、次も頼むぞ、……」
そう言いながら次のステージを見上げたパンキッシュくんは、照明から火花が落ちているのを見て、思わず言葉を失っていた。
「……ここは、難易度高いと思うな」
「……」
ここは、パンキッシュくんが来てくれたときと同じ曲のステージだから、余計分かったんだろうな。
「い、いざとなったら、リベンジだし!
ほら、アペンドさんが控え……」
そこまでライトくんが言って、一瞬で皆に不安な雰囲気が溢れた。
「控えてないな……」
そう言ってパンキッシュくんが、皆を代表して僕を見た。
「あっ、言い忘れてた。アペンドは控えてるよ」
「えっ!!」
今度は皆が一斉に驚いた顔に変わる。その反応にはなるよね、だってあの後起きてるのを見せてないし。
「え、あの後起きたのか? え?」
「そうそう、僕が部屋に連れてったら起きたんだけど、「あんなところで倒れるなんて、皆にあわせる顔がない……」って恥ずかしがって、一緒にはこっちに来ないって聞かなくて」
「そんなこと誰も気にしてないのに」
「だって、ライトくんの方がはるかにたくさんステージに立ってるのに、昔からいる身としては情けないんじゃないかなあ」
「プロ意識なんですね!」
「めんどくさいだけだと思うけどね……」
我ながらうまくごまかしたと思う、これならしばらくは、ステージにだけ出てきてすぐひっこんでも、恥ずかしかったからってことにできるし……ふう。
「って、なんで戻ってきたときにアペンドが起きたのを教えてくれなかったんだよ」
パンキッシュくんに言われて、また僕はどきっとしてしまった。
「あ、アペンドがさあ、「本当にステージに必要な時だけ出る、だからそれ以外の時は俺のことなんか忘れてくれ、名前も出すな」って、うっとうしいぐらい恥ずかしがってたから、僕からは皆が言うまで黙ってようと思って……」
「本当にめんどくさいな……」
またよくわからないアペンド像を築いてしまったけど、いいや。……言ってなかった間にごまかす方法を考えてたって、パンキッシュくんあたりには悟られそうで怖かったけど、これで安心かな……。
控えもばっちりなのを確認したし、ライトくんはステージに上がった。
難しそうだからって怖じ気づいてても仕方ないし、自信満々でパフォーマンスを見せる。激しい曲は、より様になるなあ……やっぱり、さすがはクールエレメントの象徴、なんだ。
ステージの邪魔も、目に見えるものはなさそうだし、特にアペンドからも何も知らせが来ないってことは、今は比較的大丈夫なのかもしれない。
「交代だ!」
ライトくんが言うと、なんだか柔らかい足音が聞こえてきた。
「……!?」
「いえーい!」
ライトくんが驚いた顔で、出てきた新しい仲間を見ている。なんだかもこもこした白い何かが……。
「えっ、あれ何だ」
「ああ、あれは……」
多分、ここにいる人って誰も会ったことないんだよね。僕が辛うじて知ってるだけだ。
「アルパーカーくんだ」
このかっこいい曲で、まさかかわいいのが出てくるなんて……ちょっとびっくりだ。
「続きだよね! がんばる!」
そう言ってアルパーカーくんがステージの中央に行こうとすると、照明からふわりと火の粉が落ちてきた。
「あっ、あぶないあぶない! 燃える!」
ライトくんが、慌ててアルパーカーくんの服を引っ張った。
「ふええっ!」
ステージの端に引っ張られたアルパーカーくんは、落ちてくる火の粉に涙目になっている。
こ、これじゃあ、まともにステージができない……。
「このステージって、こんなに火の粉って降ってきたか……?」
パンキッシュくんが、ステージを見上げながらつぶやいた。
「ちょっと、多すぎると思います……」
同じくこのステージに立ったことのあるエッジくんも言ったから、間違いない。
続けられないままのステージを眺めているしかできないでいると、急に、頭痛がした。
『危険』
アペンドだ。アペンドがステージを見ている。
『避難を』
そう脳内に響いてくる。
「皆、一旦ステージから出て。このままだと危ない。
ライトくん! ライトくんも一旦逃げて!
アルパーカーくんも!」
曲はもうすぐ鳴り止むけど、僕はそう叫んで、客席の皆を外に出した。
ステージに立っていたライトくんとアルパーカーくんと、ステージの外で合流した。
「うう……」
アルパーカーくんが涙目になっている。
「もう大丈夫だよ」
「うん……また、今度来るね……」
アルパーカーくんはそう言うと、光に包まれて消えてしまった。
「失敗、ってことだよな……」
ライトくんが呟いた。そうだね、と、皆でうなずく。
「たぶん、アペンドが準備してる。さっきの火の粉の対処をしてると思うから、僕、見てくるね。準備ができたら呼ぶから、待ってて」
僕はそう言って、皆を待機させてステージに戻ることにした。