※5話分まとめになっています
これまでを振り返ってみると、いつのまにか結構仲間が集まってきている。だから、ライトくんがいくら新しい仲間を呼ぶのが得意でも、来てない仲間の残りが少ないから、つまり、応援に来ている皆の出番が少しずつ増えることになってきていた。
それは次のステージでも同じだった。せっかくクールエレメントで新しく来たから、という理由で、変身のタイミングでは、執行部くんがパンキッシュくんに背中を押されてステージに上がった。……パンキッシュくんは、他にだれかいなかったら自分が行ったんだろうけど、
「一人で目立つのってよくないよねえ」
って、水着くんが、パンキッシュくんがなにも言わない間からわざとらしく言っていたから、かなり遠慮していたみたいだ。
「雰囲気よかったな。同じクールエレメントの仲間として自慢だ」
「そ、そんなもったいないお言葉……」
「謙遜するなよ、よかったぜ」
ステージから戻った執行部くんに、パンキッシュくんはちょっとうっとうしいぐらいの誉め言葉をかけていた。……後輩を可愛がりたいんだよね。
そして、クールエリアのラストは、バンドでやるタイプの曲だ。
とりあえず、メインのライトくんが、センターポジションとしてドラムの位置につくことになった。
「ど、ドラム……」
いざドラムを目の前にしたライトくんは、スティックを握ったまま硬直した。
「ま、まだギターは雰囲気でなんとかなってたけど、ドラムって……」
そう言っているライトくんを見ていたパンキッシュくんは、バッドボーイくんの方へ突然顔を向けると、にっと笑った。
「ほら、後輩がお困りだから、ちょっと教えてやれよ?」
バッドボーイくんは、内心では相当びっくりしてしまっていたと思うけど、……断れもしないから、何食わぬ顔の雰囲気で、硬直したままのライトくんに近付いていった。
「バボさん、ちょっと見本見せてみたらどうかな?」
執行部くんが助け船を出して、一旦バッドボーイくんがドラムの前に座った。そして、スティックを構えると、軽くドラムを叩き始めた。
「おお……」
間近で見ているライトくんはもちろん、客席側で見ている皆も感心している。もちろん僕も、さすがだなって思って見ている。
ある程度ドラムを叩いたバッドボーイくんは、叩くのをやめると、そっと立ち上がって、横で見ていたライトくんの方を見た。そして、相変わらず声は出さないままで、うなずいてみせた。
「心配しなくてもできるよ、だって」
執行部くんが代弁した。
「何で何も言ってないのに分かるんだろう……」
「通訳みたいだにゃー」
ラディカルくんとトムくんがつぶやいて、
「しっ、静かにっ!」
なぜかスターマインくんは二人を黙らせようと必死になっている。多分、執行部くんとバッドボーイくんについて噂をしていると怒られるとでも思ってるんだろうけど、過剰反応だよ。
「ごめんね、バボさん喋らないからわかりにくくて」
「いやー、執行部さん来てから代弁してくれるから助かるぜ」
執行部くんにライトくんが言って、執行部くんは苦笑いした。バッドボーイくんはそそくさとドラムから離れて、ライトくんから顔を背けている。
「僕も別にわかってる訳じゃないから、適当なこと言ってるけど。バボさん嫌な顔してないから合ってるんだろうね」
「おかげで見本も見せてもらえたし、やれそうな気がしてきたな。あとはベースとギターか……」
ライトくんがそう言いながら、また客席の僕たちに目線を向けた。
「せっかくクールの締めだし、ブルームーンがいたらやってもらえればよかったんだけど。あいつギターもベースも得意だし」
パンキッシュくんは残念そうに言った。ブルームーンくんは今ごろ、まだ藍鉄くんと話でもしているのかな、だからこっちにいないんだと思うけど……。
「鶴もある程度ギターやるって聞いてたけど、鶴もいないしな」
鶴くんはこっちに現れた直後に、扇舞くんに連れていかれて、……それからどうしてるかは知らないけど、わざわざ呼びに行くわけにもいかないよね。
パンキッシュくんは、ちらっと水着くんの表情を確認した。
「何」
水着くんがそれに気づいてむっとした。パンキッシュくんはそれを無視して、ステージの方へ向き直った。
「おい、執行部、俺とお前でベースとギターやろうぜ。バッドボーイはライトと交代するかもしれないから控えててもらってさ」
そう言うと、また水着くんの表情を確認した。
「文句はないな?」
散々今まで、パンキッシュくんがステージに行こうとする度に何か言っていた水着くんだったから、念のため、なんだろう。
「いいよ、クールの締めぐらいクールエレメントの皆でやる方がいいし」
水着くんはあっさりと答えて、パンキッシュくんは執行部くんとステージに上がっていった。
「何で僕に確認がいるんだよ。むしろオリジナルくんに確認した方がいいのに、ねえ?」
水着くんは僕にそう言ってきた。
「水着くんがずっと、パンキッシュくんがでしゃばってるとか言ってたからじゃないの……」
「そんなに言ってない!」
「いや、常に態度がそうだったし」
「だ、だってあいつが先輩面してるとなんかむかつくし!」
「水着くん……落ち着きなよ……」
「……わかってるんだよ、あいつが実力あるから、任せて安心なことぐらいさ」
水着くんは、これ以上はいい、みたいに僕から目を背けて、ステージで準備を整えた3人を見上げた。
「締めは俺達が決めてやろうぜ!」
「おう!」
「はい!」
パンキッシュくんの声に続いて、ライトくんと執行部くんが声をあげた。すぐステージに行ける位置で、バッドボーイくんも準備している。
曲が始まった。
「いいもん、次のビューティエリアは僕が活躍する番だから」
大きい演奏の音が響くなかで、水着くんが呟いた。
「え、何で水着くんが」
「忘れたの? 日焼けの僕の魅力を……」
「あ、ああ、日焼けね……」
なぜか得意気な水着くんに、僕は思わず呆れそうになったけど、機嫌を損ねられても困るから、ほどほどの反応にとどめた。
それに、ビューティエレメントの皆は他に誰も応援には来てないから、日焼けの水着くんだけがこっちにいる唯一のビューティエレメント……水着くんが……。
「ここはクールエリアで、そこそこ順調だけどさ、次からはやっぱりまた苦労するのかな?」
水着くんは改まって僕に聞いてきた。
「たしかに、エレメントが違うとライトくんは苦労するだろうね……」
僕は答えながら、確かにそうだったのを思い出した。
「でも、まだ仲間呼ばなきゃいけないもんね、なら、応援するしかないね」
「すごく頑張ってもらってるけど、そうだね、まだまだ……」
僕達はそう話しながら、ステージのライトくんを見つめた。
結局交代の時には誰も来なくて、予定通り準備をしていたバッドボーイくんがライトくんと交代した。
「やっぱりプロがやるとちがうな!」
交代を終えたライトくんが、バッドボーイくんのドラムさばきに目を輝かせていた。そして、今回の曲も無事に終わって、ステージは成功だった。
「おつかれー。いいステージだったよ!」
僕はステージから降りてきたパンキッシュくん、執行部くん、バッドボーイくんと、ライトくんに言って、見ていた皆も笑顔で迎えた。
「あれ、水着は」
「え?」
パンキッシュくんに言われて気づいた。いつのまにか、横にいたはずの水着くんがいなくなっている。
「水着さんなら、さっき出ていったよ」
シロクマくんが教えてくれた。
「ええっ、なんで……」
「『美しくなってくるから』とか言ってた、よくわかんないけど」
「日焼けのことだと思う……日焼けするとなぜかビューティエレメントになるから、水着くん」
思い出して首をかしげるシロクマくんに、僕は説明した。説明として大丈夫かはわからないけど。
「戻ってくるつもりっぽいね。それじゃ、次のエリアに行こっか」
ということで、次のステージに向かって、僕達は移動を始めた。