交差#26「容姿の相違」

休憩も大事だからー、って皆で部屋に戻ると、共有スペースに、ランサーくんとブレイブくんがいた。二人は、何かお菓子を用意しているようだった。
「ただいまー」
一応皆はそれぞれの部屋に戻る段取りだったから、まっすぐそれぞれの部屋に向かった。
「おかえりなさい。……あ、アペンドさんが起きてる」
ブレイブくんは僕に返事してから、近くのアペンドを見て声を上げた。
「おはようございます」
ランサーくんもアペンドに言った。
「えっ、あ、ああ、おはよ……???」
アペンドは立ち止まって、あわあわしながら二人に答えた。……ごめん、寝ながら歩いてるのを見られてたんだった……。
「あの、オリジナルさんもアペンドさんも、お疲れかと思いますけど、ちょっとここで待っていてくれませんか。お茶を用意していますから」
「え?」
勧められるがままに、僕たちは椅子に座らされた。そして、紅茶を目の前に出されて、僕とアペンドは、首を傾げながらも紅茶を口にした。
そして、その間にランサーくんが部屋を出ていった。
「紅茶はおいしいですか?」
残ったブレイブくんが聞いてきた。
「おいしい」
アペンドは即答して、紅茶を飲み干した。早いよ……。
「素晴らしい飲みっぷりですね」
「いや、褒めなくていいからね!?」
カップにはまた紅茶が注がれている。
「アペンド、紅茶ってもっと優雅に飲むものじゃないの」
「おいしい」
「それしか言えないの!? 大体熱いでしょ、そんな勢いで飲めるのおかしいよ……」
僕は紅茶に息を吹き掛けて、やっと二口目を口に含んだ。そんな僕の横で、もうアペンドは二杯目を飲み干している。
「そ、それより、ブレイブくん、一体何の用事で……」
僕が聞いたそのとき、さっきランサーくんが出ていったドアが開いた。
「さ、どうぞ」
ドアの外でランサーくんが言って、……。
「リン!?」
ドアから、リンと、リンのアペンドが入ってきた。
「おつかれー」
リン達はそう言いながら僕たちの向かいに座った。
「はい、紅茶です」
「ありがとー」
リンは注がれた紅茶に息を吹き掛けている。
「砂糖欲しい」
リンのアペンドの方が言って、もらった砂糖を紅茶に入れてる。結構入れるんだな……出されてる紅茶にも既に入ってると思うんだけど。
「あの、リンが来るから待っててってことだったの?」
ブレイブくんに聞くと、そうです、と、ブレイブくんがうなずいた。
「素敵なティータイムを」
ランサーくんがそう言って、ブレイブくんと一緒に、ビューティエレメントの部屋の前へ歩いていった。
「おかわりが欲しかったら呼んでください」
そう言いながら二人とも部屋へ入っていった。
「ランサーくんはいつも発言が気障だなー」
閉まったドアを見ながらリンが笑っている。そして、僕の方を見たとたん、その顔を急に変えた。
「レーンー!!」
「えっ、なに、なに」
すっごい怒ってる……! 僕は体を後ろへ傾けた。
「あんたねー! 最近何やってんのかなんっにも教えてくれてないじゃん!」
「……えっ」
「私たち皆、誰が来たのか知りたがってるのに!」
そ、そうだったんだ……し、知らなかった。教えなきゃいけなかったんだ。
「部屋に行ってもいっつもいないじゃん。だから部屋にいたブレイブくんとランサーくんに話聞いてたの」
そういうことだったんだ……。
「特にトランスミッターちゃんが「ニートまだ?」って言ってる。最近周期短くなった」
リンのアペンドはそう言いながらお菓子に手を伸ばしている。こっちのアペンドもそれに倣ってお菓子を取ってる……。
「レシーバーくんはまだ来てないな……」
僕が答えると、リンたちが、はぁ、と大きくため息をついた。また「ニートまだ?」を聞くことになるもんね……。
「とりあえず、近況はちゃんと伝えてよね」
「わ、わかった。ごめん」
リンに言われて、僕は小さく頭を下げた。
「それともうひとつ、これは確認だけど」
リンは僕の横へ視線をずらした。その先には、とめどなくお菓子を食べ続けているアペンドがいる。
「ちょ、アペンド、ストップストップ!」
「ん?」
見てないうちにこいつ、なんでこんなにお菓子食べてんの……。
「……そっちさ……元気なんだよね、それ」
リンが、呆れた声で言った。
「お、俺?」
お菓子を食べやめたアペンドが、リンを見た。
「だよ。ちょっと前ぐらいまで調子悪かったりしたんじゃない?」
「……え」
僕はそっとリンのアペンドの方を見た。リンのアペンドは心配そうな顔で、こっちのアペンドの方を見ていた。
「若干だけど、分かるからね。元気になったならいいけど」
「……そう、だったんだ」
アペンドは申し訳なさそうに言った。
「でも、もう大丈夫だから。もう」
今度ははっきりとした声で言って、リンのアペンドもほっとした顔をした。

用事はそれだけだったみたいで、机に用意してあったお菓子が無くなると、リンたちは帰っていった。……ほとんどアペンドが食べた気がするけど。
ブレイブくんとランサーくんには、お茶とお菓子、あと今までの留守番についてお礼を言って、僕達はニュートラルの部屋に戻ることにした。
ドアを開けると、ベッドにイレイザーくんが寝転がっていた。でも、ドアの音に気づいたのか、飛び起きてベッドに座り直した。
「あっ、寝ててよかったのに」
「も、もう! 十分に休んだ、から!」
イレイザーくんは肩を上げて焦った顔で言った。……なんだか、あまりイレイザーくんがくつろいでいるところって、見たことがない気がする。僕達がいると、気を遣わせちゃってるかなあ……、僕達なんて気を遣うような相手じゃないんだけど。
アペンドはそんなイレイザーくんの方へつかつかと歩いていくと、イレイザーくんが座ったベッドの隣のベッドまで近づいた。
「いえーい」
アペンドはそう言いながら、ベッドにダイブした。そして、ベッドの上でごろごろと転がり始めた。
「ちょ、アペンド、イレイザーくんが座ったのに」
「うるさいなあ。休憩なんだからごろごろしよう、ほら」
アペンドはイレイザーくんの座っている近くに転がっていくと、くいくいと腕を引っ張った。
「で、でも……」
イレイザーくんは僕の方を見て困っているけど、……ああ、なるほどね。
「だーいぶ!」
僕もイレイザーくんの横のスペースへ転がり込んだ。そして、アペンドと同じようにイレイザーくんの腕を引っ張った。
「あの、二人とも……」
「えーい」
「うわっ」
イレイザーくんも寝転ばせて、僕達はまるで川の字で寝ている状態になった。これで、気遣いを無理矢理やめさせた、ってわけだ。
僕達は揃って天井を見つめた。
「結構、仲間を呼べましたよね」
イレイザーくんは言った。そうだ、イレイザーくんは初めて来てくれた仲間だから、僕と同じく初めから仲間が増えていくのを見届けているんだ。
「俺がステージに行くようになってからも、結構増えた気がするけど……」
アペンドが言って、この部屋の全員を思い出してみると……。
「この部屋、全然人が増えてないよね……」
天井に僕達の声が一つずつ響いて、終わりだ。あれ、こんなにもニュートラルエレメントの人って来てないのかな。他に比べたら、少ない?
「あーっ。やっぱりさみしい! 早く呼びにいかなきゃ!」
僕は体を起こした。
イレイザーくんとアペンドも体を起こしている間に、僕は部屋を出た。

僕とアペンドがリンたちと話していた時間も含めれば、他の部屋の皆も、そろそろ休憩は十分にとれたんじゃないかな。僕は各部屋を覗いて、声をかけていくことにした。
もうラストのエリアだし、留守番に徹していたスクジャくんや、ブレイブくんとランサーくん、あとはブルームーンくんも含めて、全員で新しい仲間を出迎えることにした。ここでぐらい、オリジナルな僕の命令を聞いてもらっちゃう。
「そんな大勢で押し掛けていいものなのか」
ブルームーンくんは首をかしげていたけど、キュートエレメントの皆なんてほとんど皆いたし。それだけですごい人数だったからね。
「客席の端の方で見守るんだよ、それなら邪魔にならないし」
「ふーん、そうなんだ」
「ほんと惜しいよなあ、ブルームーンもいればよかったのに」
「……それは悪かった」
パンキッシュくんがブルームーンくんに説明している。クールエリアで楽器弾いてもらえなかったもんね。
「ま、藍鉄が行くなら俺も行くからな」
ブルームーンくんが、部屋から出てきていた藍鉄くんの方を見て言った。もう、何か言ったら次には藍鉄くんだよね、相変わらず。藍鉄くんは、ちょっと戸惑いながらもうなずいている。
「そういえば、元に戻ってから、トムくんはさみしそうにしてないの? ずっと遊んでたみたいだけど」
僕が藍鉄くんに聞くと、何か思い出したような顔をした。
「さっき、スタエナさんが来ましたよね……今はスタエナさんが一番の遊び相手みたいですよ」
「へえ、そうなの?」
そっか、スタエナくんもカオスエレメントだから、同じ部屋になったんだ。
「やっと解放されたね、お疲れ」
「そ、そんな……」
ストレンくんがにやっとして言って、藍鉄くんが困っている。
「でも余計騒がしくなったよ。まだ藍鉄と遊んでるときの方がましだった……」
ストレンくんは今度ため息をついた。
「なに、走り回ってんの?」
トムくんはなんだか身のこなしが軽そうだし、それはスタエナくんもそうな気がするし。
「そーそー。人の迷惑も考えてほしーよ。部屋も広くないのにさあ。ベッドで跳ね回るし、休めないから置いて出てきた」
「それは大変だね、……そろそろ部屋も何とかしなきゃだなあ」
いずれは皆一人一人に部屋を、って思ってるし。そのためにも、早く皆を呼ばないとなんだよね。
部屋でまだ遊んでいたトムくんとスタエナくんにも出てきてもらって、カオスエリアのステージを目指した。

ステージに立つのは、引き続きライトくんだ。
「ライトくんはちゃんと休めた?」
結局のところ、ステージにずっと立ってるのはライトくんだし、一番休んでもらわなきゃいけないのはライトくんなんだよね。
「休めたぜ。ていうか、休憩前の最後はアペンドさんたちだったから、早くステージに立ちたかったし!」
「あっ、そっか。じゃ、たのむよー!」
ステージの上にライトくんを送り出す。そして、皆が見守るなかで曲はスタートした。

うん、順調そう。ちょっと変わった曲だなあ、って思うのは……やっぱりカオスエリアの影響なのかな?
「あっ」
交代のタイミングで、舞台袖を見たライトくんが声をあげた。
「今度はいけそうだから、頼む!」
「はい、今度は」
今度は? と思って待っていると、出てきたのは、なんだか暖かそうな服装の……。
「ああ、シエルくん、来てくれたんだ。よかった」
僕の横にいたアペンドが、安心したような声で言った。……ああ、ライトくんとアペンドだけステージにいたとき、一回来たけど消えちゃったって言ってた。
シエルくんは続きを難なくやって、今度は間違いなくステージも成功に終わった。

「ということで、シエルくんが来てくれましたー」
「よろしくお願いします」
紹介を簡易的にすませると、シロクマくんとエッジくんがシエルくんへ近づいていって、ようこそ、と歓迎した。イレイザーくんやアヤサキくんも、その近くへ歩み寄っている。この5人は同期組だったね。比較的皆仲良くしているような気がする。
そういえば、僕はずっと、思っていたことがあるんだけど、ここでシエルくんを目の前にして、思い出した。
「ずっと考えてたんだけど、やっと思い出した!」
僕が言うと、皆がこっちへ振り向いた。
「ランサーくん、前からずっと誰かに似てると思ってたんだよ……」
「僕?」
ランサーくんが、驚いたように言う。
「シエルくんとすっごく似てる!!」
そう、そうなんだよ! あー、やっとすっきりした!
……僕は言い切って、皆から、無言で見つめられた。
「……そうか?」
パンキッシュくんが、シエルくんとランサーくんをまじまじと見比べている。
「そうでもないと思うな……」
ランサーくんの横にいたブレイブくんも言ったけど、……おかしいなあ。
「髪型とか、靴の感じとか服の大まかな形とかさあ、ねえ?」
「お、俺に同意を求めるなよ!」
アペンドに言ってみたけど、返事はそんなだから、たぶん同意はされてない。……なんで。
「……ふむ」
ランサーくんは、シエルくんの方へ、優雅に歩いていった。そして、シエルくんの正面に立つと、頭の先から爪先までをゆっくりと見つめた。
「……全然違いますよねぇ」
そう言ったランサーくんに、シエルくんがむっとした顔をした。
「……あなた、その目は何ですか」
「僕の方が魅力に溢れていますよね?」
「……!」
ま、まさかランサーくんがそんなことを言うなんて。て、ていうか、この二人、あまり気が合わなさそう……!?
「オリジナルさん」
ランサーくんから目線を外したシエルくんは、僕に体を向けると、言った。……う、怒ってる……?
「この人とどこが似てるんですか」
「え、……その」
シエルくんが僕に近づいてくる。
「大体あの人、フードじゃないですよ。その時点で違いますから」
……今度は、その一言で、皆が言葉を失った。
「僕はフード同盟なんです。ねえ、シロクマくん、エッジくん」
シエルくんはシロクマくんとエッジくんに振り返った。
「……はは」
シロクマくんとエッジくんは、ものすごく困った顔で笑い返した。
「ということですから。一緒にしないでください、あんな失礼な人と」
「フード同盟なんてばかばかしいことを言っている人と、僕も一緒にしないでほしいですね」
シエルくんとランサーくんはそれぞれ言って、お互いは離れていった。
「……オリジナルくん、やらかしたよ、これ」
水着くんに言われた。
「ぼ、僕のせいなの!?」
「大体そうだよ!」
「うわーん、皆仲良くしてよねー!」
ああー、もー、こんなことになるなんて思わなかったよ……。
「シエルくんって、エレメントはニュートラルかな」
僕が落ち込んでいるなか、アペンドがシエルくんに話しかけている。
「……はい、そうですけど」
声の調子を普通に切り替えながら、シエルくんが答える。
「そっか! やったねイレイザーくん」
「ああ、そうだった。シエルくん、来てくれてありがとう」
イレイザーくんとアペンドが歓迎モードになっている。
「待ってたんだよ、ニュートラルって全然新しく来てくれないから」
「そうだったんですか、……イレイザーくんもだったんだ」
多少シエルくんの雰囲気も和らいで、僕は、落ち込んで地面を見たままだけど、会話を聞いて安心していた。
「俺もだよ!」
「ああはい、アペンドさんはそうですね、見るからに。……てことは」
「オリジナルも仲間だから」
ああー、見てないけど、シエルくんの視線が絶対怖い。
「よろしくお願いします……」
僕は小声で地面に向かって呟いた。