交差#29「全ステージの終わり」 - 1/3

※3話分まとめになっています


今度は特撮っぽいステージにやってきた。
特撮は男の子のロマンで憧れ! ……と、いいたいところだけれど、ここの曲はそれとはちょっと違う……よね……。
「このねこをこうして? えっ?」
「ここであざといポーズ?」
「瓶をここでがしゃーん?」
動きを確認しているライトくん、ラディカルくん、トムくんの3人は、常に首をかしげっぱなしだ。
「ねえー、そろそろ始められない?」
僕は呼び掛けたけど、3人とも不安そうだ。といって、せっかく機会をあげたのに、諦めろとも今さら言えないし……。
「アペンド、心の準備はしておいてね」
僕はアペンドにそっと言った。多分、失敗したら次はアペンドが出ることになっちゃう。
「ま、まじかよ……」
できればやりたくない、って顔してる。でも、指示が出たら誰でもやらなきゃいけないからね。……僕でもね……。

3人はあたふたしながらパフォーマンスを始めた。
「いけー! やれやれー!」
半ばやけくそにパンキッシュくんが声援を送っている。そうでもしないと盛り上がらないもんね。助かるよ。
途中で出てくるステージの仕掛けや爆発にも、3人は飛び跳ねてばたばたしている。なんなんだろこのステージ……難しすぎるにもほどがある。
結局、交代なんてなくて、最後の決めの立ち位置だけは、ちゃんとできた。真ん中のライトくんは、キリッとした表情でごまかしている。
「……どうだ……」
「うん、駄目」
決めているライトくんに、僕ははっきり言った。
「うわー! 無理だあんなのー! 交代交代!」
僕の言葉を聞いたとたん、ライトくんはそうわめいて、ラディカルくんとトムくんを引き連れてステージから降りてきた。

「ということだから?」
僕は、いつの間にか皆の後ろに隠れていたアペンドに言った。
「いない、俺超留守にしてる。誰か代わりに行っていいよ」
「だめだめ」
僕はアペンドの手を握って、無理やり引っ張った。
「誰か道連れにしないと……」
アペンドは僕が握っていない方の手を空中で動かした。
「別に自分が分身すればよくない?」
僕は言ってみたけど、その途端にアペンドが僕の顔を睨んだ。
「お前は来いよ」
僕が握っていたはずの手を握り返されて、ものすごい力を入れてくる。
「痛い、折れる折れる!」
もう、怪力なんだからやめてほしい!
「手が大事なら、これ以上無駄口叩くなよ」
「君ねえ……!」
と、そこまで言って、皆が僕たちを見ているのに気付いた。あっ。皆の前では仲良くしているふりを貫いていたのに、つい……。
それに、道連れは明らかにもう一人必要だから、アペンドが誰を狙っているか、皆がどきどきしている……気がする。あの怪力に手を握られる恐怖つきだし、余計だよね……。
アペンドは僕を逃がさないよう、相変わらず固く手を握ったままで、もう片方の手を伸ばして、……一番近かったイレイザーくんの腕を掴んだ。いつも比較的冷静な顔をしているイレイザーくんに、少しだけ恐怖の表情が見えた。
「どうしてもあと一人……いるんだ、来てくれる……?」
アペンドは優しげに言ってるけど、イレイザーくんは明らかに痛みに顔を歪ませている。
「あ、……」
イレイザーくんは何か言おうとしてるけど、声になっていない。そのあとすぐ、さらにイレイザーくんの表情は辛そうになった。……多分、手の力を強められたんだ。
「返事もできないのかよ」
「……」
アペンドは僕とイレイザーくんを引っ張りながらステージへの階段を上り始めた。
「イレイザー……大丈夫かなあ……」
遠ざかる皆のなかで、エッジくんが小さい声で言っていた。

まだ握られていた手がじんじんしているけど、僕たちで曲の段取りを確認した。はぁ、なんでこんなことを……。
僕は割り振られたポジションの動きをやってみた。ここであざとく決め、……。
「お前そんなのでいいと思ってんのか!」
「ええっ!!」
ポーズを練習してるところで、アペンドに怒鳴られた。
「もっと、視線はこっちで! 角度はこう!」
「な、なんで、ちゃんとやってるよ!」
「甘いんだよ! 重要なところなんだ、ふざけるな!」
体を掴まれて角度を修正され、怒鳴られ……なんでこんな厳しく……。て、ていうか、僕に口出しなんて、アペンドのくせに偉そうに……ああ、もう本当に腹立つ! 僕の方がうまくやってやるし!
そうやって僕がやけくそになっている間に、今度はイレイザーくんが怒鳴られている。
「ここはもっと速く動かないと俺と動きが合わないんだよ、ちゃんとやって!」
「は、はい……」
「あとその表情、いい加減にしたら? そこは俺を押し退けて動くんだから、……しみったれた顔しやがって」
「……が、がんばり、ます」
……アペンド、急に機嫌悪い指導になってるし、……本気なんだろうけど、ちょっと前まで弱音吐いてたとは思えない。……だから人格迷子なんだよ。

そんな風に準備をして、もう一回曲が始まった。後になって小言なんて言われたくないから、精一杯僕は頑張った。たぶん、それはイレイザーくんも同じで、見る限り問題なくやっている。それで、アペンドはというと、あらゆる恥ずかしそうな動きも何食わぬ顔でこなしている。……あんなに僕たちに偉そうに指導していただけはあるよね。
悔しいけど、ちゃんと確認してやったおかげで、ステージは順調だった。そして、交代のタイミングが来ると、アペンドは、僕たちを見守る皆がいる客席へ降りていった。
「シロクマくん、いこっか」
降りていって一番近かったシロクマくんが、手を握られた。そして、引っ張られる。
「任せたからね、もしできなかったら……」
「が、頑張るからー!」
危険を察知して、シロクマくんはステージにかけ上がってきた。……ああ、犠牲になっちゃったね……。
半ばアペンドの視線にびびる形で、曲の最後まで、3人でパフォーマンスをした。……成功だ。

成功したから文句ないよね! 僕は先頭でステージを降りた。さっき失敗してしまってからの不安は消えたようで、客席にいたライトくんたちは皆、笑顔で迎えてくれる。……アペンドだけ、難しい顔してるけど。
なんだよこいつ、と思っていたら、しばらくして、その表情が緩んだ。
「がんばったね」
そう言って、僕の後ろにいたイレイザーくんとシロクマくんに近寄っていくと、それぞれ軽く手を取って握った。
「はい」
イレイザーくんとシロクマくんが安心した顔になったのを見る限り、今度は本当に軽く握っているだけみたいだ。あいつ、力加減できたんだな。
「ぼ、僕だって頑張ったよ」
僕が言うと、アペンドは手を離してこっちに振り返った。そして、
「お疲れ様」
と、声だけ優しげにして、僕の手をものすごい力で握ってきた。
「……った……!」
僕が思わず睨むと、アペンドは鼻で笑って手を離した。……な、なんなんだよこいつ……!
「さ、次で最後だったよね。行こうか」
そんなことになっているのは皆には気付かれないままで、アペンドがライトくんにそう言って、移動が始まった。仕切るところまでやられた……。