「いいなーイレイザー」
僕は移動する皆の中で、話しているエッジくんの声を聞いていた。
「何がだ?」
「アペンドさんから直々に指導なんてうらやましいよ~!」
「……」
イレイザーくん、明らかに困ってる。エッジくんの声はうきうきしてるし、目はきらきらさせてるし。
「怖かったんだが……」
イレイザーくんはかなり小さな声でそう言った。大丈夫、アペンドはかなり離れたところで歩いてるから、聞こえやしないと思うけど。
「恐いアペンドさんも僕はいいと思うな~! 僕も怒られてみたいな~」
「……何で……」
エッジくん、さすがイレイザーくんのサンドバッグを自称してるだけはある……じゃない、仮に自称サンドバッグでも、それはさすがに……。殴られ過ぎておかしくなってるのかなあ。
「ふ、普段は優しいんだよ。部屋ではいろいろ話もしてもらって……」
イレイザーくんはそう言って、印象を修正しようとしているようにも見える。……まあ、優しいか、無駄に喋るか、もしくはぼーっとしてるか、そんなだと思うけど。
「そっか、イレイザー同じ部屋だもんね。ますますうらやましいなー。でも、やっぱり多彩なのがすごいんだよ、あの恐いのも!」
「……ああ、うん……」
結局あいつはあんなに厳しくして何がしたかったんだろう。結果成功したんだから、今さらだけれど。
さて、最後のステージは3人がステージに立つことになる。一人目はいつも通りにライトくん。二人目は、このエリアの象徴ってこともあって、トムくんが入ることにした。いわゆる「僕のパート」だから、いるべきポジションについた、ってことだ。あとは三人目、ほんとなら「リンのパート」だけれど……。
「藍鉄くん! いくにゃー!」
トムくんがそう言って勝手に選んでしまった。
「ぼ、僕ですか……!?」
「あの狐じゃなくなった今のうちにゃー! あそぼーにゃ!」
「え、そんな……ちょ、ちょっと、僕はその……」
藍鉄くんはまともに反論もできないまま、ステージに連れ出されてしまった。
「藍鉄くんもカオスエレメントだし、このステージに立つのはちょうどいいと思うよ……」
不安げに見つめている皆に、僕はそう理由付けしておいた。実際は、あのトムくんを説得するのが面倒なだけなんだけどね。
藍鉄くんは比較的、撮影系の仕事はこなしている方で、自信無さそうにしているけど、ステージに立ってさえしまえば、普通にやりとげてくれる。
今回も、3人の中ではトップバッターで動き始めて、上々な滑り出しだ。
「……っ……」
見守る皆へ目をやると、ひとり、明らかに、藍鉄くんを食い入るように見つめている人がいた。
「可愛いなあ……」
……ブルームーンくん……親気取りなのかな……。横でパンキッシュくんが冷えた目をしてるけど、多分気づいてない。
続いて、はじめから準備していた二人目のトムくんのパフォーマンスも始まった。藍鉄くんと息ぴったりの動きを見せてて、さすが、だと思う。
「……うらやましい……」
今度はブルームーンくんが、悔しそうな顔で二人を見つめている。やっぱり横でパンキッシュくんは冷えた目をしている。……ブルームーンくん、藍鉄くんと一緒に踊りたかったのかなあ。それはもろもろ終わってから、勝手にやってくれればいいと思う。藍鉄くんなら仮に嫌でも断りはしないだろうし……優しいもんね……。
しばらくトムくんと藍鉄くんのパフォーマンスが続いて、最後に、メインのライトくんが現れた。
こうして全部のステージをライトくんにやってもらってきて、ここが、最後かと思うと、感慨深いものがあるなあ、と、僕は思った。新入りだからまだまだとか、そんなのは初めからなかった。でも、やっぱり、初め以上に、頼もしく見える。どのエレメントのステージも、頑張ってくれたもんね……。
「あー、来てくれてないみたい」
交代のタイミングがきて、舞台袖を覗いたライトくんは残念そうに言った。
「誰でもいいから交代だけ頼む」
そう言ってライトくんはステージから降りてくる。
誰が行く? と、客席の皆で顔を見合わせて、僕と初めに目があったのは、スターマインくんだった。
「僕の独断でスターマインくん!」
「え?」
「時間ないよー急いで!」
「あ、はい!」
適当に決めちゃったけど、スターマインくんは、人数おおめのステージでダンスの経験あるし、ちょうどいいよね。スターマインくんは、ステージにかけ上がって、ラストに向かって踊り始めた。藍鉄くんとトムくんもそれに合わせる。
曲は終わって、ステージも成功した。
「おつかれさまー!」
ステージに上がっていた皆を、まずは迎えた。
「終わりましたね」
「楽しかったにゃー、また一緒にやろうにゃ!」
「え、あ、はい……」
藍鉄くんに、トムくんがすりついてる……ほんとによくなついてるなあ。
「息ぴったりだったよね、二人」
「確かにな」
スターマインくんがライトくんに言っている。
「お、俺だって……」
それを聞いて悔しそうにしているブルームーンくんは、とりあえず放っておこう。
「これで! 全ステージ、やりきったよ!」
僕は、締めの言葉を言った。そして、ステージで頑張ってくれた皆や、来てくれた皆全てに、感謝の気持ちで、拍手をした。
それから、あとで、僕はリンたちに報告しなきゃいけないし、一旦皆で部屋に帰ることにした。
部屋に戻った後は、各部屋でくつろいだり、リンモジュールの部屋に挨拶しにいったり、皆はそれぞれ自由時間に入った。
僕も全ステージをなんとかした事務報告だけ終えて、あとは仲間を集めることに専念していいって方向性も決まった。つまり、皆が集まるまでは、ライトくんにずっとお世話になるだけだ。もう、あの邪魔ばっかりのステージにはいかなくていい。
「そっか。なら俺はもうステージにいかなくていいんだ! よし寝よ!」
それがわかった途端、アペンドが生き生きした顔でそう言った。
「……そこまで潔く言われると、逆にむかつくな」
「ぐー」
僕があきれる反応も無視で、口でそんなことを言って目を閉じてしまっている。……頑張ってたから、僕もあまり偉そうにはできないけど……。
「はー、もう。おつかれだったね。寝るなら布団にしてよ」
まだここ、共用スペースで喋っているのに、突然寝られても困る。とりあえず立ち上がって、ニュートラルの部屋に入った。
イレイザーくんやシエルくんはいないから、多分リンモジュールの部屋で挨拶している人たちと一緒にいるんだろう。
「……あのさ、しばらく寝るから、起こさないで」
アペンド用に作っていた奥の部屋の前まで行くと、アペンドはそう言って、部屋へ入った。
そして、中から鍵がかかる音が聞こえた。
僕は一人になった。……初めと、同じだ。
すぐ隣の部屋にも、皆がいるのは分かっているけど、今僕の見る範囲には、僕が一人だ。
さっきの鍵の音で、急にそんな感覚が襲ってきた。
「……いいもん、あと少しなんだから」
僕は自分にそう言い聞かせた。