部屋に一旦戻ったあとは、僕とライトくんとパンキッシュくんで共有スペースの机を囲んで、次に向かうステージを確認することにした。
僕はもう同じ過ちは繰り返さない……次も3人のステージだ! なら、ライトくんと、絶対ついてきてくれるパンキッシュくんと、もう一人呼べばいいんだ!
「もう一人呼べば、僕は見守ってるだけですむね!」
僕が力説すると、ライトくんとパンキッシュくんに白い目で見られた。
「別にいいだろ、オリジナルがまた一緒にやれば」
「えー? 僕みたいなふつーの格好より、素敵な衣装が見たいお客さんの方が多いと思うしー」
そもそも、こんなにいろんな僕がいるわけだし、わざわざ僕みたいな普通の格好で何度も出ていかなくてもいいはずなんだよね。せっかくだから、他の皆が出ていった方がいい気がする。
「逆にオリジナルみたいな普通のを好む人もたくさんいそうなもんだけどな……」
パンキッシュくんはさらっとそう言ったけど、お世辞、だよね。
「パンキッシュくん、気遣いありがとね」
「いや、気遣いとかじゃなくて。……俺の知ったことじゃねえよ、お客さんの好みなんて」
そんなことを話していると、部屋のドアが開いた。そして、入ってきたのは、エッジくんとイレイザーくんだった。
「おかえりー」
「帰りましたー」
エッジくんの返事をちゃんと聞くより前に、僕は立ち上がって、並んでいるエッジくんとイレイザーくんの肩を叩いた。
「よし、今暇になったでしょ。次のステージ行こう」
「おいオリジナル、さらっとおしつけてんじゃねーぞ!」
後ろでパンキッシュくんが声をあげたけど、気にしない。この二人は断らないよ。
「次って……」
「あの特撮のとこ、3人いるからさー。また同行してくれない?」
「いいですよ!」
エッジくんの方は即答した。
「ライトくんはまだまだステージに立つんだよね」
「うん」
「僕もそろそろ出たかったんだー」
エッジくんはライトくんに声をかけて、色々と話し始める。
「……あそこ、か」
一方で、イレイザーくんはちょっと表情を曇らせた。
「いいんだぞー、オリジナルの命令なんかほっといて」
パンキッシュくんが横から入ってくる、失礼な。
「ついていく分にはいいのだが、……思い出すと……あの指導……」
「あ……」
イレイザーくんが暗い顔をした理由は、僕にも分かった。……アペンドの指導、厳しかったもんな……いまだに理不尽な気がしてる。
「あんな指導、気にするようなことか?」
パンキッシュくんが不思議そうな目で僕達を見た。
「パンキッシュくんは直接じゃなかったから分かんないんだよ。ねーイレイザーくん」
僕がそう返してイレイザーくんに言うと、イレイザーくんは僕とパンキッシュくんをかわるがわる見ながら、不安そうな顔をした。
「言われてたことは、もっともだから……怖がっちゃいけないん、だけど」
「真面目だなあ……」
やっぱりイレイザーくんは、真面目だ。理不尽なあれすらちゃんと受け止めてるなんて。
「僕も怖かったけど、あいつしばらく部屋で寝てるし、今度のステージはあのときほど厳しくもないから、余裕だよ」
「そうか、それなら……はい」
同意もとれたことだし、今度はエッジくんとイレイザーくんも加えて、5人でステージへ向かった。
とりあえず僕が見守る係なのは決定事項だから、ステージに立つのは、ライトくんとあと二人だ。
「僕は見ているので、二人で、どうでしょう」
やっぱりまだ指導の記憶が抜けきってない、という理由で、イレイザーくんはパンキッシュくんとエッジくんに出番を譲った。
「パンキ先輩と一緒だ~!」
「この曲だけどな。がんばろーぜ」
エッジくんは共演が嬉しいみたいだ。パンキッシュくんも照れながら答えている。
「俺もよろしくな!」
「うん!」
もちろん、メインで頑張るライトくんにも笑顔を見せて、3人はステージに上がっていった。
変身の時がやって来ると、舞台袖には誰かが来ているみたいだった。いつもなら「よろしく」とか、一言声をかけるライトくんが、その誰かを二度見、三度見しながら、舞台袖にはけていった。
ステージに引き続き残っているパンキッシュくんとエッジくんも、視線を何度か向けつつ、パフォーマンスの続きをしている。
その新しい僕の仲間は、まさにこの曲にぴったりな、戦隊もののスーツを着ていた。色は黄色で、背を見る限りも僕なんだろうけど、頭はマスクに覆われていて、顔は全く見えない。
「きれきれだぁ」
さすがその曲の衣装、というだけはあるのかな。動きは半端なくかっこよく見える。僕は思わず呟いて、
「確かに……」
と、横でイレイザーくんも同意した。
曲が終わって、ステージも成功だから出迎えようとすると、スーツの彼は、片手を軽く挙げた。なんとなく、「よっ」て言われたような……そんな感じで。
ぽかーんとした顔でパンキッシュくんとエッジくんが見つめていると、スーツの彼はそのまま舞台袖に走り去っていった。
「えっ、待って待って!」
僕がそう大声を出しても、手を振る後ろ姿がそのまま舞台袖の闇に消えていく。
「ど、どこいくんだよ! おい!」
舞台袖でライトくんも叫んだみたいだけど、戻ってくる気配はない。
「ほ、本当にどっか行った……どういうことだよ……」
諦めた顔で、ライトくんはステージから降りてきた。パンキッシュくんとエッジくんも降りてきて、僕達は全員で首を傾げた。
「今までは、ステージが成功しないときに消えたぐらいだよな。自分からいなくなるなんて」
「……呼び戻すっていっても、どこにいるかわからないんじゃな……」
僕たちにできるのは、……。
「もう一回、やれば、来てくれるんじゃないかな。その時にとっつかまえて……」
「まじか、もう一回……」
もう一回かよ、と、ライトくんはうんざりした顔をした。
「……仕方ないよな。あ、もう一回なら、オリジナルさんとイレイザーさん、今度は一緒に頼むよ」
「え!?」
「えっ」
ライトくんの言葉に、僕もイレイザーくんも驚いて聞き返した。
「同じメンバーでもう一回じゃ、お客さんも飽きちゃうかと思うし」
「それはそうかもね。イレイザーもせっかくついてきたんだから、ステージ立とうよ」
エッジくんもライトくんの提案に賛成で、イレイザーくんに微笑んでいる。
「し、しかし、僕は、……」
「あの指導のことまだ引きずってるのかよ、むしろあんなに指導されてやったんだから、俺とエッジより大丈夫だろ」
困るイレイザーくんに、パンキッシュくんまで背中を押して、イレイザーくんはしぶしぶうなずいた。
「で、オリジナルもだからな、わかってるよな」
「うっ……わかったよ……」
イレイザーくんが出てくれるなら、僕も断るわけにはいかないよね……。
せっかくあのとき頑張ったし、アペンドと一緒にやってたときと同じポジションについた。ライトくんもそれならポジションは変わらないしね。
「ぜってー呼んでやるからな! っていうか戻ってこいよな!」
さっき姿を消された舞台袖へ、ライトくんはそう呼び掛けてから、曲が始まった。
もう慣れた僕たちには余裕だ。何も気にせず、交代のタイミングをもう一度迎えた。
すると、舞台袖にはまた姿が見えていた。……さっきと、同じ、黄色い戦隊もののスーツ。……けど、頭のマスクは、ない。
「僕……」
そのマスクの下は、僕と同じ顔をしていた。……今さら驚くこともないけれど。皆、そうだし。
また、その黄色いスーツの僕は、片手を挙げた。
「お待たせ! ヒーローの参上だよ!」
そして今度は、顔が見えているからか、はっきりそう言って、眩しい笑顔を見せて来た。
「はいはい、頼んだ」
ライトくんは、駆け寄ってからそう言って、背中へ回ると体を押した。
「せっかちだな、ちゃんと行くから」
体を押されてちょっとよろけた黄色いスーツは、ぶつぶつ言いながらもセンターにやってきた。
顔が見えてしまっても、体の動きは、さっき見ていたのと同じくキレがあって、中には彼がいたんだな、と、思った。パフォーマンス自体に、非の打ち所なんてない。そこは素直に認めるしかないね。
さて、曲が終わると、黄色いスーツは、後ろの僕とイレイザーくんに振り返った。舞台袖のライトくんと、客席のパンキッシュくんとエッジくんが、すぐに駆けつけてくる。
「いいステージだったよ! 君達やるねえ」
「……どうも」
な、なんだろう、この、腹立つ感じ……い、いやいや。ここは腹を立てるところじゃない。
相変わらず眩しい表情の彼は、また片手を挙げた。
「ヒーローはすぐに去るのさ! それじゃ!」
そう言うと、また走り出そうとした。
「行かせるか!」
二度はないぞ、と、ライトくんとパンキッシュくん、そして僕も、彼のスーツを一斉に掴んだ。
「なっ、何するんだ! ヒーローは帰らなければ!」
「どこに帰るんだよ」
「帰らなければ~!」
「まずは名前を聞かないとなあ?」
「名乗るほどの者ではないから~!」
理想のヒーロー像でもあるんだろうか。格好に見合ういい心がけかもしれないけれど、ここはオリジナルの僕が止めさせてもらうよ。
「まずは抵抗をやめて、おとなしく自己紹介してくれる? 僕の言うことが聞けないってことはないよね。まさかねえ」
「な、何だよ君は」
「僕が分からないの? 僕は僕だよ、君も僕だからね、分かるよねえ?」
「う……」
ふふ、さすがに僕の前には無力、ってとこかな。……こんな偉そうにするの、特例だよ。普段こんなことしなくても、皆わかってくれてるし。
「僕は卑怯イエローだよ! 卑怯戦隊の黄色担当! もちろんヒーローだよ!」
自己紹介はものすごく堂々としていた。堂々と卑怯、って言える辺り、すごいけど。
「何で出番が終わったらすぐ帰ろうとした?」
よろしく、の言葉より前に、パンキッシュくんは卑怯イエローくんを睨み付けて聞いた。
「だからー、ヒーローは魅せたらすぐに去るものなの、それがお決まり」
「潔いのは結構だけど、お前はこれから俺たちの仲間なんだよ。俺たち以外にも部屋で待ってるから、来いよな」
パンキッシュくんが言うと、卑怯イエローくんは、その言葉にはっとしたように、目を輝かせ始めた。
「仲間! いいね、熱いね! ヒーローには仲間がいるから!」
「……何かよく分からんが、来てくれるならいよ……」
「じゃあ早速部屋まで行く!」
こっちが主導してるのか、振り回されてるのか、全然わからないけれど、新しい仲間を無事に呼べたから、いいってことにしよう。