卑怯イエローくんをなんとか部屋につれてきて、とりあえずカオスエレメントの部屋に入れてきた。
「今ので、僕の持ち歌の人、皆来たんだよねえ」
僕はカオスエレメントの部屋のドアを閉めてから、後ろにいたパンキッシュくんたちの方へ振り返った。
「そうだよなー。これでここの新入りも皆揃ったのか?」
パンキッシュくんが言うと、ライトくんがえっ、という顔をした。
「……足りないと思う」
「え、そうなのか?」
「ちょっと待って、思い出す。えーと、……俺たちさ、ここ来る前に待機してる場所があってさ……」
ライトくんがなにか思い出そうとしている。ここに来る前……って、そうだなあ、皆、何してんだろう。
「そういえば俺達も、呼ばれる前は待機だったもんな?」
パンキッシュくんはイレイザーくんとエッジくんに確認した。
「なんだか随分と昔のことのように思えるが……そうだった気がする」
「僕も初めの方に来たし、……でもそうでしたねー」
……呼ばれる前の場所のことって、皆あまり話さないけど、皆記憶してないものなのかなあ、この感じだと。多分「必要のない記憶」なのかも、ね。
「俺、クールエレメントのステージで呼ばれたただろ。ラディカルとかトムとかブレイブもそうだったけどさ、……俺、ここに来る前に、その辺と一緒にいたんだよ。でも、何かおかしくないか?」
ライトくんに言われて、その三人とライトくんを順に思い浮かべる。
キュート、クール、ビューティ、カオス……。
「ニュートラルはいないの?」
「そう、それなんだよ。ニュートラルのときって……」
それぞれのときのことを思い出して、僕がニュートラルのステージに行ったときのことを思い出した。
「あのとき呼んだのアペンドじゃん! なにそれ!」
えー、アペンドがニュートラルの象徴? 嘘だー! ここまで新しい仲間がきてて、一人だけ新鮮味のないアペンド!
……と、そこまでは口に出さなかった。いくら寝てるとはいえ、ね。
「もう一人いるはずだよね、そーだよね。……ただ普通にステージやるだけじゃだめだったかなあ?」
僕はステージのことを色々思い出してみた。
「……あ」
「何かあるのか?」
「うん、……ラディカルくんとか、ライトくんとか呼んだとき、ちょっと違うステージだったよね。エッジくんとパンキッシュくんは行ってくれたからわかると思うけど」
エッジくんはラディカルくんを呼ぶときに、パンキッシュくんはライトくんを呼ぶときに、それぞれ来てくれてるからね。
「イレイザーくんは行ってくれなかったもんね、僕が行ったけど……」
「い、行きたかったんじゃないんですか、僕が悪いみたいな……」
ちらっとイレイザーくんを睨んでみると、イレイザーくんは反論してきた。実際行ってほしかったんだけど、何故か僕が行きたいことにされたんだった。
「ま、冗談だよ。ああいうタイプのステージって、他にも色々あるんだよね。3曲編成してやったりとかするんだけど、ミク姉たちがやってるからいいかなって思っててやってなかったんだ」
「じゃ、そこ行って呼ぶか! そうと決まれば張り切るぞー!」
さっそくやる気を出したライトくんはさすがすぎる。引き続き、さっきいたメンバーで、そのステージへ向かうことにした。
ここはとりあえず、イレイザーくん、エッジくん、ライトくんの順でやることに決まった。
3曲分連続っていうのもなかなか大変だよね。次の出番の人のためにへまはできないし、逆に自分の番で前の人のを台無しにもできないし。でも、あんな大変なステージを乗り越えてきた僕らには今更な試練だ。
僕はただ客席の隅っこで、心を落ち着けて、新しい仲間が来るのを待っていた。
「やっぱり来た!」
ライトくんはそう言って、その新しい仲間と交代すると、舞台袖を通過して僕の方へやって来た。先に1曲目と2曲目をやっていたイレイザーくんとエッジくんも、すでに僕の隣に来ていて、今回は見守り側のパンキッシュくんもいる。
「あれがニュートラルの……へえ」
パンキッシュくんはそう言って、とりあえず最後までは黙っていることにしたみたいだ。
あれは、馬……なのかな。背中側が見えると、たてがみのようなものと、尻尾のようなものがついているみたいだ。
ステージが無事終わると、その新しい僕が降りてきた。
「おつかれ! 名前は?」
パンキッシュくんが先に聞いてくれる。
「レンだよ」
その僕はそう答えた。
「あ、そうじゃなくて、……ああ、でもそう……えーと」
言われてみれば、名前って、僕達は誰でも、そうだね……。
「衣装の名前、っていうの? それを教えてほしいかな」
僕がそう付け加えると、なるほど、という顔をした。
「そっか。君たちにそう言っても意味なかったね。僕はアルティメット、その中の騎士を担ってるよ」
「……じゃ、アルティメットくん、て呼ばせてもらおっか。よろしくね」
というわけで、僕達はアルティメットくんを仲間にして、部屋へ向かった。
「ごめんね、もともと他の仲間と一緒に来たんだけど、皆アルティメットだったから、ずっと名前で呼び合ってて……」
事情を聞いてみたら、そういうことだったみたい。ライトくんの仲間が皆ストーンってなってるのと同じことだね。
「にしてもなんだこの尻尾。馬か」
パンキッシュくんがアルティメットくんの尻尾に触った。
「う、馬じゃないもん! 騎士だもん!」
「わ、悪い」
アルティメットくんはすぐさま言い返した。……きっと馬って言うたびに怒るに違いない。
ようやく部屋まで来てみると、ちょうどブルームーンくんと藍鉄くんが反対方向から歩いてきていた。きっとリンたちのいる方に行って、相棒に会っていたんじゃないかと思う。
「よ、おかえり」
「おう」
パンキッシュくんがブルームーンくんに言って、ブルームーンくんが応える。その横で藍鉄くんも小さく頭を下げた。
「また仲間集め行ってたのか?」
「そうそう。アルティメットっていうんだって」
パンキッシュくんがアルティメットくんを僕たちの前まで誘導した。……すると、ブルームーンくんが、じっとアルティメットくんを見た。
「?」
アルティメットくんがその視線にちょっとだけ首を傾げると、ブルームーンくんはアルティメットくんに近付いて、そして、後ろ側を覗きこんだ。
「尻尾……!」
「えっ?」
「ふさふさだな! もふもふだな!」
そう言うと、ブルームーンくんはその尻尾を触り始めた。
普段はクールに振る舞ってる気がするのに、まるでそんな感じはしない。明らかにテンションが上がってる……藍鉄くんとやっと会えたときも、そんなだったかもしれないけど……。
「あ、あの、ブルームーンさん」
藍鉄くんがきっと止めようとして名前を呼んだんだろうけど、ブルームーンくんは止める気配がない。
「いや、藍鉄の尻尾はもちろんまた触らせてほしいけどさ? 嫉妬なんて……」
「嫉妬じゃなくて!」
「まさか他にもふもふできる尻尾が来るなんて……嬉しいな……」
「う……」
尻尾を触られ続けるアルティメットくんは声を漏らした。
「ほ、ほら、迷惑ですよ……! 僕はいいとして、アルティメットさんにいきなり同じことしちゃ……」
藍鉄くんがブルームーンくんに必死で言い聞かせている。っていうか、藍鉄くんはいいんだ……。
「う、う」
アルティメットくんは尻尾を触られながら、また声を出して、それからちょっと眉を寄せた。
「馬じゃないんだもん!!」
「……」
ブルームーンくんが思わず手を下ろした。
「どうせ君も僕のこと馬扱いなんでしょ、勘違いしないでよね! 僕は誇り高き騎士なんだっ!」
アルティメットくんにそう言われると、ブルームーンくんはちょっと戸惑ったあと、静かに言った。
「……いや、俺は単にその尻尾にしか興味ないから、そこ触らせてもらえばよくて……誤解させてたなら悪かった、馬だとは思ってないから。騎士なんだな、わかった」
「それならいいよ!」
ブルームーンくんの言葉を聞くと、アルティメットくんは嬉しそうに自分の尻尾部分をブルームーンくんの手に近づけた。
「……いいのかよ」
パンキッシュくんは小さな声で言って、藍鉄くんと目を見合わせていた。
そして、僕とイレイザーくんとエッジくんは、アルティメットくんの背中をじっと見ていた。
腰辺りのそれは……鞍なのでは……。
「鞍がついているよな……」
「……乗れるよね……」
「馬だよね……」
そう交わす声は、アルティメットくんに聞こえないよう、慎重に小さくした。