寝息をたてるアルパーカーくんをひきずりながら部屋に入ってみると、中にはアルティメットくん、それに、アペンドがいた。起きたんだ。
アルティメットくんもアペンドと話したかったみたいだし、もう話した後かもしれない。
「おかえりー」
「ただいま。ベッド空けてくれる? アルパーカーくん寝ちゃってるからさあ」
「うん」
アルティメットくんが布団をめくってくれる。そして、アペンドは僕の引きずってきたアルパーカーくんに近づいてきた。
「よいしょ」
アペンドは軽々とアルパーカーくんを抱き上げて、めくられた布団のところに寝転ばせた。
「うわー、力持ちだね」
「そうかな」
「すごいよ」
アルティメットくんは驚いていて、アペンドはぴんときてないみたいだけど、アペンド、君って相当怪力だからね……。
「って、そっか。アルパーカーくんも来てくれたってことだよな。もうほとんど来たのか?」
アルパーカーくんに布団を被せてから、アペンドは聞いてきた。
「そうだね、あと鳳月くんだけかな」
「そうなんだ。もうそこまで」
アペンドが寝てた間も、僕達は頑張ってステージを回ったからね。
「俺も最後ぐらいついていこうかな」
「うん、いいんじゃない?」
「それなら行くよ」
……少し、まくし立てるように、アペンドは言っているように聞こえた。そして、僕を急かすように部屋を出ようとする。
「僕はどうしよう」
アルティメットくんが言って、アペンドは振り返った。
「留守番でもいいんだよ。アルパーカーくんのこと見ててくれるといいかも」
「……そうだね」
新入りに優しげ……には見えたけれど、少し違和感もある。
「じゃあね!」
返事を聞くと、アペンドはそう言って、僕より先に部屋を出た。
僕はそっとアルティメットくんの表情を確かめたけど、布団を被せられたアルパーカーくんを見つめているだけだった。
「ねえアペンド」
アペンドを追ってドアを閉めながら、僕は呼び掛けた。
「おはよう」
「……うん、おはよう」
「よく眠れた?」
「うん、ばっちり」
ぼけーっとした顔で答えているのは、なんというか、いつも通りだ。
「アルティメットくんとは話したんだよね?」
「話したよ」
「……何を?」
「自己紹介とか。俺は初めて見たし」
「それだけ?」
「……それぐらい」
何となく、僕からアペンドが視線を外しているような気がする。
……その話はやめてくれないか。
そう言われているような気がするのは、さすがに深読みしすぎかわからないけど、これ以上深く内容を聞いたら不思議がられそうだし、質問を続けるのはやめにした。
そういえば、他の皆がいない。……時間がかかりそうだったから、部屋に戻ってるのかもしれない。
とりあえず、クールエレメントの人たちがいる部屋のドアを開けてみた。
「終わったのか?」
僕を見るなりパンキッシュくんが言った。
「うん、布団に寝せてきたけど、……」
よく見たら、さっきまで一緒だった皆がこの部屋に集まってる。扇舞くんとかエッジくんとかイレイザーくんも含めて……にぎやかだ。
「勢揃いだね」
「どうせまた一緒に行くだろうし、って思ってさ。ついでだから色々話してたけど、な?」
パンキッシュくんが、鶴くんとブルームーンくんを見比べるようにした。鶴くんとブルームーンくんはお互いを見て微笑んでいる。あまり接点はなさそうだったけど、何かあったのかな。
「同期が心配な気持ちが似てるんだってさ」
同期……って、つまり、ブルームーンくんが藍鉄くんを気にかけるのと、鶴くんが鳳月くんを気にかけるのが似てるってことかな。
「鳳月もさっさと迎えにいかないとな」
「はい」
ブルームーンくんがそう言って、鶴くんがうなずいている。……仲良くなるのはいいことだよね。
「準備ならできてるから、そろそろ行くか?」
ライトくんが言って、皆立ち上がる。皆で、お出迎えだ。
次は和風のステージを選んでみた。和服の鳳月くんを呼ぶのにぴったりだ。ステージにはライトくんがスタンバイして、客席の隅には僕たちが並ぶ。そして、見守る。
「そういえば、アペンドさん、おはようございます」
小さな声で、イレイザーくんが話しかけている。
「あ、うん。おはよう」
「十分休めましたか」
「よく寝たよ」
「……アペンドさん、頑張っていたから、疲れがとれたなら、良かったです」
あーあ、心配されてるじゃん……。
「ありがとう。自分でも頑張ったと思うけど……なにより、こうやって皆が集まるのに、ほんとにライトくんが頑張ってくれたし、……それに、回数は違えど、皆ステージに立ったんだから、皆、頑張ったんだよ」
「……そうでしたね」
そう言って、二人ともステージに目を向ける。僕は横目でイレイザーくんを見た。
僕がここに来て初めてのステージで、イレイザーくんが来てくれて、それから、エッジくんが来て、……たくさんの僕を呼んで、今、最後の一人を、呼ぼうとしてる。思い返せば色々あったけれど、それもこれで、終わるんだ。
「頼んだ!」
交代のタイミングに、ライトくんが声をあげる。待ってた。鳳月くんだ。
しっとりとした雰囲気の曲に合わせて、そこに立つ鳳月くんの姿は、女の人と見間違えるほど綺麗で、……ほんとに、ぴったりだった。
「これで揃ったな!」
ライトくんがそう言いながら、鳳月くんを連れて僕達のいる方へ降りてきた。
「よかったな、待ってたんだろ。……?」
ブルームーンくんが鶴くんに言って、首をかしげた。鶴くんは、鳳月くんを見つめたままで、ブルームーンくんの声に反応していなかった。
「鳳月……どきどきしたよ」
鶴くんは鳳月くんをまっすぐ見て言った。その顔が若干赤く見える……ま、まさか惚れ……。
「……何を言っているんだ」
一方の鳳月くんは、小さい声であきれたような声を出した。それはまさに僕の声だ、当たり前だ。
「気持ちはわかりますけどねー」
扇舞くんはくすっと笑って、確かにね、とエッジくんも笑っている。
「何にしても、これで全員なんだろ? 早く部屋に行こうぜ!」
パンキッシュくんがそう言って、ステージの出口へ走っていく。
「あっ、そういう取りまとめは僕の役目なのに!」
僕は慌てて追いかけて、皆もそれに続いて、ステージを出た。