交差#36「バナナパーティー」

僕たちが部屋の前に近づいていくと、中からかすかに話し声が聞こえてきた。
「皆集まってるのかな」
「全員揃うわけだし、お出迎えかもな」
僕たちはそう言いながら、ドアを開けた。
「おかえりー!」
まず飛び込んできたのは、そう言いながら笑顔のクリスマスくんだった。そして、その後ろは、勢揃いの皆と、机に並べられたバナナだった。
「な、なに、これ」
香る甘いバナナのにおいに、ちょっと幸せな気分になる。
「皆集まったらバナナ食べることにしてたでしょ?」
「えっ、これ、用意してくれてたの……?」
僕が用意しようって思ってたのに、そんな、まさか。
「驚いてる暇ないよ、早く食べようよ!」
後ろから、ストレンくんが声を上げる。
「味見お預けされてたんだから、早く!」
トリッカーくんも急かしてくる。……そうだよね、僕だって早くこのときが来ないかって待ってたんだ。
「そ、それじゃあ、全員揃ったお祝いに! いっぱい食べようね!」
僕が合図して、念願のバナナパーティーが始まった。

「ここでもチョコバナナが食べられるなんて……」
「パーティーのために作ったからね」
浴衣くんに、執行部くんがそう言っている。
「クリスマスに呼ばれてたのはこれのためだったんだな」
「そうです、執行部さんやヘンゼルさん、あとトリッカーさんも一緒に用意したんですよ」
藍鉄くんもブルームーンくんに説明している。……それで調理室の常連っぽい人たちが集まってたんだ。
「和食だけじゃなくてお菓子もできたんだね」
鶴くんは驚いているけど、
「ぼ、僕は手伝っただけですから……」
藍鉄くんは照れ臭そうに言った。
皆の様子に目をやりながら、僕もチョコバナナに手を伸ばした。そして頬張る。……あー、やっぱりおいしい!

もちろん普通のバナナも、クリスマスくんの手配のお陰で、いつもより大量にある。いつもは1日に1本ぐらいだけれど、今日は特別だ。
僕もこんなときぐらいはたくさん食べたいな、と、普通のバナナを取りに行ったら、すでにストレンくんが同じことをしていた。
「今日は思う存分食べるからね!」
……さすが、僕達のなかでもとりわけたくさん食べるストレンくんだ。
「僕だって食べるからね!」
多分、僕も負けないぐらい食べるけどね。きっと僕とストレンくんが、食べる量ならトップだ。
「二人がよく食べるのは見越してるから安心してね」
クリスマスくんが頼もしいことを言ってくれる。わかってるよね、長い付き合いだもん。
……と言っているそばで、机の上のバナナがなくなった。
「……あれ、もうない?」
「え、いや、まだ持ってきたらあるけど、想定より減るペースが速いような……。オリジナルさんとストレンくん観察してればいいと思ってたのに」
クリスマスくんが戸惑いながら周りを見る。
「いつもより人多いからじゃない?」
「いや、そこもちゃんと考えたのに……」
そう言いながら、クリスマスくんは視線を止めた。
「……まさかなんだけどさ、アペンドさんって結構食べる?」
視線の先には、大量のバナナの皮を前に、黙々とバナナを食べているアペンドの姿があった。
「いや、アペンドはそんなには……」
僕は言いかけて思い出した。だめだ、あいつ、制限かけてないと……!
「ごめん、結構どころじゃない、かなり食べる! 止めてくる!」
「あ、うん、僕は次のを運んでくるから……」
クリスマスくんがそう言うのを聞きながら、僕はアペンドに詰め寄った。
「アペンドー!」
「……」
僕の顔を見るなり、アペンドが気まずそうな顔をした。
「分かるよね、何が言いたいか?」
「……うん」
「食べるなとは言わないから、ペースだけよく考えて」
「……うん」
こんなにたくさん用意されてたら、制限忘れちゃうだろうけど、さすがに3倍食べる姿は見せるわけには……。
そこにバナナの入った箱を持ってきたクリスマスくんがやってきた。
「アペンドさんもたくさん食べるんだね。補充しに来たから、気にせず食べて」
「あ、ありがと」
そして、クリスマスくんは別の机にもバナナを配りにいっている。
「気にせず……」
「常識の範囲内で」
呟くアペンドに、僕は釘を刺すように付け足した。