交差#38「解禁されない世界」 - 2/4

布団から出てすぐ、何もない部屋を何となく見回した後、自分の手のひらに視線を落とした。ゆっくり、指を動かして、寝る前と同じことを確認する。俺は確実に俺で、あの別の意識が確実に消えているかどうか。
一度寝たせいで、寝る前のことすら夢のように思えたが、確かに寝る前には、その意識を消したはずだ。消したことも、そもそも、その意識が存在していたことも、夢ではない。
今改めて思い出すと、明らかにあれは、俺達を標的に据えた攻撃的な意識だったが、あの思念からしても、おそらく自分と似た何かだったのだろう。自分の中に入り込んできたときに、異常なのに、どこか、しっくりくるような……いや、それは、さすがに気のせいかもしれないが。
どれだけ寝たかはよく分からないが、俺が寝ている間にも、オリジナル達は仲間を集めにいっているはずだ。もしかして、この部屋を出たら、もう新しい仲間が来ているかもしれない。ドアを開けたらそこはニュートラルの部屋だし……。
そう思ってドアを開けると、本当に、新しい仲間がそこにはいた。
ベッドに座る後ろ姿は、何かフードのようなものに、……たてがみ? が、ついていて、背中に格子柄の何か……がついていて、その下から、ふわふわとした尻尾……? が、はみ出ている。
「あの、……はじめまして」
その背中に声をかけると、振り返った。茶色っぽい目が、俺を見た。
「……アペンド」
そして一言目に、そう言った。
「え、……」
自己紹介もせずに呼ばれたのは、確か、初めてだ。俺が驚いている間に、そいつは立って、俺の方へまっすぐ向いた。
「はじめまして。僕はレン……じゃなかった、アルティメットって中のレン、だから、アルティメット」
「アルティメットくん、なんだね」
「うん」
こういう名乗り方をしてくるのも、多分、初めて……かも、と、俺は思った。
「……よろしく。俺はアペンド……、って、そういえばさっき言ったよね、知ってる?」
「うん、知ってる」
その後、アルティメットくんは言葉を続けずに、俺を見つめた。その表情はどこか、緊迫して見えて、俺も何も言葉を発することができなかった。
「この世界ではステージに立ちながら仲間を集めるんだよね」
表情は変えないまま、アルティメットくんが言って、俺は小さくうなずいた。
「アペンドもステージに立った?」
「え、……まあ」
「そうなんだ……」
少しだけ、アルティメットくんは視線を落として、すぐまた俺の目に視線を戻した。
「そのステージはどうだった?」
「……色々、邪魔が入って。照明が落ちたり、雑音が鳴ったり……あ、でも、もうそれも終わった。もうそういうことは起きない」
「……へえ」
こんな話をしたら、怖い、とか、そうなるのかと思いきや、なぜかどんどん表情を険しくしていく。
「あ、あの、それは俺が行った時がたまたまそうだったっていうか、……」
俺が付け加えている間に、アルティメットくんはなぜか俺の方へ距離を詰めて歩いてきた。俺は意味がわからずに、壁に向かって後ずさりをした。でもアルティメットくんがどんどん向かってくる。俺はそのまま壁にまで追い詰められた。
「その邪魔ってやつを壊せるんだっけ? 知ってるよ」
「……」
名前をいきなり呼ばれたぐらいだし、スキルのことを説明しなくても知ってることなんて、別に驚かない。でも、どうして。
「よくも僕のかわいい仲間を消してくれたね」
アルティメットくんの目は俺を敵視している。
「なか……ま?」
「君の中に入り込んだはずだったんだけど、いないよね? 消したんだよね?」
気持ちを追い込まれて、何も言えなくなっていたが、言葉をなんとか理解すると、……アルティメットくんが、さっき俺が消した意識のことを、仲間だと呼んだ。ということは、さんざん俺や皆を襲った邪魔は、アルティメットくんの仲間だということじゃないか。
「お前があの邪魔を仕向けたっていうのか!?」
俺はアルティメットくんの方へ一歩踏み込んだ。アルティメットくんは、少し後退しながらも、不敵な笑みを浮かべた。
「違うかな。僕が言ってそうした訳じゃない。あいつの意志でしかない」
「でもお前は知ってるんだろ、仲間って言ったよな。認めてるんだよな? あの邪魔で皆危険な状態に晒されたんだ。どういうつもりなんだ」
「僕は、君があいつのことを何もわからずに一方的に消したってことに腹が立ってるんだよ」
「何なんだよ、あいつって」
俺はちゃんと仲間を守ろうとしただけなのに、なぜか腹が立つとか言われて……しかも、部屋に鍵をかけて一人で何とかしたはずなのに、それを消したことも分かってるなんて、それにしても、こいつにしても……何者、なんだよ。
「一緒の体にいて分かんなかったの? 君と全く同じだよ」
「同じ……? ……どういう意味なんだよ、はっきり分かるように言え」
「ほんとに分かんないの?」
確かに、異常なのに妙にしっくり来た感じがあったのは否定できない。でも、そんなことよりこいつの態度が気に入らない。最初からこんなにずけずけと喋るやつも初めてだし、……初めて……だった、はずだけど……。
「……そうか、あまり深くまでは調べない癖があるんだね? それはそっちのオリジナルの方針?」
少し優しげなようで、やっぱり俺を馬鹿にしているかのように、微笑む。
しかし、『そっちの』という言い方をしてきたってことは……。
「……俺はあいつとは方針が違うんだよ」
俺はアルティメットくんの手首を掴んだ。効くか、分からないが。もしそうなんだとしたら、俺の制御はこいつには、効かない。
「制御効かないの分かったんだ」
やっぱり。本当なら眠らせようとしているのに、全く効かない。
「……お前が『オリジナル』なら、な」
「正解。……なら、わかったよね!」
突然、頭が痛んだ。掴んだ手を通して、押し寄せてくる。
こいつは、俺の『オリジナル』ではないから、さすがに俺を思い通りにはできないようだが、それでもさすがは、どこかの『オリジナル』だけはある、……その、どこかの『オリジナル』の見た、記憶が、押し寄せてくる。……そして、こいつにとっての、『アペンド』が……。