二人きりを願う世界

 帰り道は、リンとレンの二人きりだった。特に珍しくもない、いつもの帰りに、特に意味もない会話をしていた。
「もし世界が終わって、自分と誰かしか残らないとしたら、誰と一緒がいい?」
 ありえない話を、敢えて心理テストのように聞く。別に、心理テストでもない。ただ、リンはそれをレンに聞いてみただけだ。
「二人きりかー。……リンは?」
 レンは特に深く考えずに、聞き返した。特に意味もない問いなのだから。
「私が聞いたのになんで返してくるの?」
「……リンの答えにもよるし」
 リンが少し怒って見せると、レンは少し考えたようだが、やはり答えは返さなかった。
 仕方なく、リンは少し考えて、答えた。
「……私はレンがいいかなぁ」
 今話しているのはレンだから、まず思い付いたのはレン。他に好きな人とか、そういうのもいないから、そうなると、いつも一緒にいるレンが、最後に一緒にいる相手になりそうな気がする。他には思い付かない。
「そっか」
「レンは?」
「……なら、僕もリンかな」
 レンの答えは一緒だ。いつも一緒なのだから、リンにとってレンがそれなら、レンにとってはリンがそれになっただけのことだ。
「そっか」
 そんな会話をしたのは、夕方。紫と橙を混ぜたような色の空。リンはそんな空を覚えていた。

「そんなとき、ほんとに来ると思ってなかったよ」
 覚えていた空の色より、ほんの少し赤みの強い空を見て、リンはレンに言った。
 黒い影が空の下を引き裂いて、人も物もその黒い影に壊された。その状況を知らせるテレビやラジオの音もやがて鳴らなくなって、残ったのは、確かに、リンとレンの二人のようだった。
 本当に世界の終末が来た。ないと思って話していたことが現実になって、二人はその話をしたことを思い出していた。
「誰と一緒がいいかって言ってたけど、リンは僕って言ってたよね」
 レンは、空を見つめる隣のリンに呼びかける。
「うん」
 リンはレンの方を向いて返事をした。レンも、リンの方に体を向けた。
「僕もそれがよかったよ。だから世界を壊したんだ」
「……?」
 リンはレンの言った言葉が、すぐに理解できなかった。次に、言葉が分かっても、意味が理解できなかった。
「えっ、なんで、どうやって」
 ようやくリンが疑問の言葉を紡ぎだしても、レンは何も言わずに笑っている。空にひびをいれた黒い影は、レンの陰と繋がっている。
「……」
 ねえ、と言いたくても声に出せないでいるリンに、レンはそっと近づいた。
「僕はリンと二人きりになりたかっただけだよ」
 世界中の音がなくなった静寂の中で、レンのその声だけが聞こえる。
「リンもそう言ってたよね。違ったの?」
 そうは言ったけど、他にも、もっと望みはあったはずで……と、リンは考えかけて、何も望みが思いつかないことに気がついた。
 こんな壊れた世界の中で、何が望めるのだろうか。あったとして、何一つ叶わないのに。あるとすれば――。
「……いや。私もだよ」
 世界の崩壊によって、やがて、この身も、この声を伝える媒体も、消えていく。最後には二人の望みだけが残る。
「一緒にいようね」