世界の修復者と私のボイストレーナー (7)普通に歌いたい - 1/2

 レンが朝ごはんを準備していると、リンが部屋から出てきた。今日は寝坊しなかったらしい。
「リン、おはよう」
「おはよ。昨日会わなかったね」
「ああ、そういえば」
 リンが寝ているうちにレンは仕事に行っていたし、リンが出掛けているうちにレンが帰ってきて、その後、リンはレンの顔を見ていなかった。
「俺、帰ってすぐ寝たからな」
「うん、帰ってきてるっぽいけど静かだなって思って」
 リンは夕ごはんの後に帰ったので、帰るのは少し遅くなった。レンが先にお風呂に入った形跡もあったので、もう自分の部屋で寝たのだろうと思って、リンもお風呂に入ってから、自分の部屋で過ごした。
「ロールパンでいいよな」
「うん」
 食パンを焼いているほどの時間の余裕はなさそうなので、レンはリンにロールパンの袋を渡した。中身はあと一つだけだ。
 リンは渡された袋からロールパンを取り出し、レンは焼いておいた食パンにマーガリンを塗り、それぞれ食べる。
「レンー、聞いてよ」
「何」
「昨日さぁ、欠黒象何回も出たの。午前中ばたばただったよ」
「……そうだったんだ」
 そりゃ大変だ、とレンは驚いた顔をした。
「同時に2か所出たりして。ミク先輩と手分けしたんだ」
「ちゃんと消せた?」
「なんとかね……」
「それは、お疲れ様」
 そう言うことしかできないけど、と、レンは視線を落とす。リンも、とりあえずレンに大変だったことを話したかっただけなので、それ以上は特に言わなかった。

 そう話した週の初めから金曜日まで、リンとミクは毎日欠黒象を消すことになった。昼休み、下校前、夕ごはんの後……そのときいる場所から近いのは救いだったが、毎日というのは初めてで、リンもミクもびっくりしながら歌いにいった。
 金曜日は夜に二人で歌った。無事いつものように欠黒象を消した後、ミクがリンに、ごめんね、と一言前置きをした。
「明日、私一日仕事なんだ。事務所じゃなくて別のスタジオに行くことになってて……だから、明日欠黒象が出ても、私来れないかも……」
「そうなんですね……あ、明日は、もし出てきたとしても私の方で頑張るので! お仕事頑張ってください!」
 少し不安にはなったが、ミクには仕事に集中してほしい。リンは元気に答えた。
「ありがと。リンなら大丈夫だよね」
 ミクが微笑む。リンはうなずく。
 ――そういうやりとりをしたので、リンはレンに「明日は起こして欲しい」と頼んでおいた。レンは、ああそう、と軽く答えた。
 約束通り、次の日の朝、レンはリンの部屋に入り、リンの布団を勢いよくめくった。
「おはよう」
「うう……」
 布団をまるごと引き剥がされたリンは、しばらくベッドの上で体を縮こまらせた。
「いきなりめくんないでよ……」
「起こせって言ったのはリンだろ。自分で起きればいいのに……」
「保険ってやつだよぉ……」
 不満を言いつつ、リンは体を起こす。それを見て、レンは部屋を出て行った。
 着替えてリンが自分の部屋を出ると、レンは既にパンを食べ始めていた。そして、向かいにはリンの分が用意されていた。
「え、準備してたの?」
「うん」
 早く座れよ、とレンが促してきて、リンはレンの向かいに座った。いただきます、と手を合わせて、食べる。
「リン起こす前に大体準備してたから」
「そうなの?」
「だからとっとと起きて欲しくて布団めくった」
「……」
 それは優しいのか優しくないのか……無愛想なレンの顔を見ながら、用意されていたスープも飲む。
「ま、まあ、ありがと」
「うん」
 そんなことを言っているうちに、レンは食べ終わって手を合わせた。リンも慌ててパンを食べ進めた。
「リンも事務所行くのか?」
「行くよ! 私も練習する!」
 鞄を肩に引っかけて準備万端のレンを、リンは声で必死に制止した。レンは、椅子に座り直して、リンの準備が終わるまで見守っていた。